山本の翻訳日記あるいはお願い・2

山本[さかもっちゃん、えーかげんにしーや]峰子

 ……な、なんなんだこのタイミングのよさは。
 目の前の手紙をみつつ、山本はうめいた。
 末尾にあるサインは“阪本雅哉”。そう、初代隊長直筆(直ワープロ?)の、恐れ多いお手紙である。ちなみに同封されていたのは「火星鉄道一九」翻訳時に作成された『谷甲州版英語軍事用語辞典』。前回の、山本の投稿内容を知ってたかのようなタイミングのよさだ。
「おっかしいなぁ……」
 首をかしげつつ、指折り数える。
 手紙末尾の日付から逆算すると初代隊長は、山本が岩瀬[従軍魔法使い]氏宛に前回の『翻訳日記』を投函した翌日にこの手紙を書いている。電光石火どころか超光速の色物物理的に行動が素速い。さすがは引退後も現隊長を関東に追いやり、辣腕をふるうだけのことはある。時空の因果律を無視したその行動力はもう、神をも恐れぬ領域に入っているといえよう。
 さすがは大阪で院政をしいている初代。……いやその初代から次代を託された当麻隊長もただ者ではないはずだ。ひそかに筑波で爪をとぎつつ、大阪復帰をねらっている(本当か?)その姿は龍と虎、いやガメラと……虎だろうか? 舞台を現代にうつし東京と大阪で睨みあうその図はまさしく徳川と豊臣の確執の再現。はたして今回の勝者は誰かっ?
 とまたもや山本の頭は逃避行動に入る。しかし入隊したばっかりでこんな失礼な想像ばっかりしてていいのだろうか、この女は。
 その、山本が手紙を前にして泣く。
「みーっ。せっかく○○さんが翻訳なんてやらなくていーのよ、といってくれたのにぃ。こんなに親切に手紙もらったり資料くれたりしたらやらざるをえないじゃないかぁ〜」
 いや、実は、山本を人外協に紹介してくれた某女史はただ単に『なぁんだ、峰ちゃん知らなかったのぉ〜? 翻訳のご指名ってけっこう皆うけてるんだけど、最後まで真面目にやり通したのって当麻君ぐらいよぉ〜』といっただけなのだが、その言葉をきいた山本は「なぁ〜んだ、ラッキー♪あたしってば妙なところで素直で真面目だから、ご指名うけたらやらなきゃいけないかと思いこんじゃったぁ♪」
 と小躍りして自分の都合のいいように解釈をねじまげたのだ。が、阪本[初代]隊長は怖い。山本が某女史とのデートでうかれているのを見計ったようなこのタイミングのよさ。山本が気が弱く、情にもろいのを見計ったような親切な手紙。しかも
「こわいよ〜、怖いよ〜。初代隊長が頭の中をのぞきこむよぉ」
 山本が『軍隊階級は空軍? 海軍? どっちにあわせりゃいーの?』と悩みつつも書かなかった疑問のお答えが手紙の中段にさり気なく示唆されている。答えは海軍だそうだ。……なぜ? なぜこんなにドンピシャなの? 一瞬、本気で初代隊長がテレパシストなのかどうか悩む。
 しかし、もはやこれでわかったようだ。
『阪本(初代)隊長には逆らえない』

 という訳で真面目に翻訳やってます。そこで、今月の質問。

  1. 文体は過去形で書くべきでしょうか? それとも現在形でいいでしょうか? 本文が過去形なんで過去形で書いてたんですが、時制をあわせるのがしんどくて……勢いがのってる時に気がつけば、現在形で訳している有様。当麻隊長は過去形で訳されたようですが……そこで質問です。『文体の格式上、わしゃ現在形は許せ〜んっ!』とおっしゃる方は、どれくらいいらっしゃるでしょうか? 新参者は諸先輩方の意見を待ち望んでいます。
  2. 「火星鉄道一九」とけっこう軍事用語がすれ違っているんで……
     無人索敵機 後方トロヤ群 低感度センサー 転回(P122“転回するから加速はない”というのがちょっと……。この転回はターンすることじゃないんですね?)哨戒体勢(イエローアラートでいいんですか?) 機動爆雷 先行投射 爆散同心円 中間点折返し反転減速 機動軸距離 主計 既破砕弾頭 破砕弾幕
     えーっと[1]の部分ではこんなもんでしょうか。(ふう……そしてこの後にはバルキリーの攻撃シーン[2]が待ってるのね)文脈上、処理したら訳せそうかな?ってのもあるんですが、なんせ知識がないんでへたに処理したら間違った解釈しそうで……。この間の例会で専門家の討論をきいて……いかに自分が恐ろしいことをしているか、よくわかりました。よろしくご指導ご鞭撻お願いします。
  3. いい辞書があったら教えてください。岩瀬さん、この間の『英和科学用語辞典』どこから出版されているんですか〜? (しかし究極貧乏の山本に、買う余裕があるのか?長期貸出OKという心の広い方がいらっしゃったらとてもうれしいなあ♪)
  4. ヴァルキリーを受ける代名詞は何が適切か??
    ヴァルキリーはその原義が北欧神話の戦乙女(戦場を飛回り、勇敢な死者を勇士専用の天国へ連れて行く、主神オーディンの使者)からきており、また艦船は欧米では普通女性に擬せられることから<she>がよさそうなものですが、作品中のヴァルキリーの視点から描写されている部分では一貫して《彼》という代名詞が選択されています。また、ヒトではなくAIであることから<it>という翻訳も可能でしょう。
    いずれもそれなりの根拠がありそうですが、<she><he><it>、いったいどれがいちばん適切でしょうか?

 うん、とっても甘えた事をいってますが、できる範囲で頑張ってるので許してください。あ、初代隊長、『CB−8』増刷されるみたいなんで、がんばってるご褒美は山本がどんな放言をしても笑って許してくれる広い御心≠チていうのがいーなぁ。今回のこれ、読んで当麻隊長ともども、怒らないでくださいね。ね? ね?
 ではでは。本日はこれで失礼します。4月にはパソコン通信できてるといいなあ……。

 さて、われらが山本隊員の苦境に際し、全国の隊員から援助の手が差伸べられております。パソコン通信(HP)にてが下に紹介させていただきましたAr3Torrこと鈴木隊員、編集への投稿の形でいただいたのが、次ページから5ページにわたる労作をくださった小林[闇商人]隊員です([小林]隊員は人外協に多数いらっしゃいますので念の為、[闇商人]隊員は今回初投稿の方です)
 また山本隊員方へ直接フォローくださった方も何人かいらっしゃるとか。
 今後ともどうかよろしくお願いいたします。
 



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