くらり。
一瞬、世界がゆれるのを感じて山本は目をとじた。
作戦宙域、吸収剤、直交代……。
“意味はわかるけど、どう英語に直したらいいかわかんないよーん♪”という言葉が、目の前にゴロゴロとある。とどめはこれだ、“高機動レーザー攻撃機ヴァルキリー”。諸悪の根源。外惑星連合の秘密兵器。
「うわぁ、人生ってころぶころぶ」
思わず感嘆の声がもれる。まさか、いまさら英作文に苦しむ日々がくるなんて。
卒業して2年。はっきりいって頭の中には蜘蛛の巣がはっている。左手に握りしめた和英辞典からはつもりにつもった埃が、冬の陽に舞いあがる。
「げ、現在完了……と」
思わず右手を参考書にのばす山本が、現在、過去、未来、現国だろーが古文だろーが英語だろーが、『文法さん』と仲のいいお友達であったためしはない。ましてや軍事用語などイエーツの詩にでてきただろうか、いやなかった(反語)ってなもんである。
1Pの八分目ですでに“挫折”という文字がネオンサインのようにまぶしく輝く。
加速追尾、船団旗艦、仮装巡洋艦……これでもかと追い打ちをかける文字群にめまいを覚えて本をとじる。
「訳すのはいーけど他人に見せたくないなぁ、これ」
それじゃなんにもならないって。
思わず一人つっこみする山本の頭は、すでに逃避行動に入っている。
「やめるっていったら怒るだろうなあ……うん、目の前に阪本初代隊長の怒る顔がうかんできそーで怖いよ。けど、絶対まちゅあさんの方がむいてるよね。英語のレジメ書き慣れてるだろーし、概略書いてくれるっていうし。……それが本編の長さにまでなんないかなぁ」
虫のいいことをつぶやく山本の脳裏を“汚さないでくださいね”という『作業体圭』くんの不安そうな顔がよぎる。ちなみに手元に今あるのは、圭くんの私本である。
いくらビニールカバーをかけてちゃんと丁寧にあつかっていても、これだけめくっていたら、ページがそりかえってしまう。一年半たったらボロボロだ。ごめんなさいと謝って許してくれる許容範囲はどれくらいだろう、と悩みつつ本をめくる。
「絶版の本*1を買い取るわけにもいかないしぃ……だけど高機動レーザ攻撃機……機動……戦士ガンダム。モビルスーツ。うわっ、本当に機動ってモビルなんだわ。……とするとハイ……ポテンシャル? ハイスピードモビルレーザ……攻撃機……ってなに?」
辞書を片手につぶやきながら連想ゲームをする山本に、未来はあるのだろうか?きみの明日はどっちだ?
という訳で(なにがどういう訳なんだか)すみません(;_;)
誰か『へへーん♪軍事用語の英訳なんてお手のもんさ♪』って方、助けてください。図書館で『火星鉄道一九』借り直して当麻隊長の訳から“谷甲州版英訳軍事用語”を立ち上げようかと思ったんですけど……(クラリ)あ、いけない。いけない。あまりの労力に想像だけで貧血が……。
ふっ(自嘲の笑い)。引き受けた時は酔ってたし、あたしってば気が弱いし……。
阪本[初代隊長]が『だーいじょうぶ、大丈夫。軍事用語は専門家がいっぱいいるから』と頼りありげに笑うからぁ……だまされたと気づいた(あ^_^;怒らないで)のは真剣に本を読み直した時でした。これ、軍事用語で話がなりたってますよ?ねぇ、私、今からヴァルキリーの戦闘シーン考えると本気でめまいが起きるんですけど? けど他の短編も話は一緒だろーし、一番好きだから訳して楽しいのはこれだろーし……
というわけで、小心者の私は日々怯えつつ、誠心誠意がんばっています。間違っても石をぶつけたりしないように。用語とかよくわからないですし、重文、復文はもう自分流に訳してますからね。あ、そこ石を用意してるの誰ですか? という訳で今月の質問。
うーん、こんな未熟者にまかしていいのかというのがモロバレの質問ですね。まぁ、下訳だと思って笑って許してやってください。そのうちパソコン通信を始める予定……ですのでその時はまた、色々よろしくお願いします。ではでは。本日はこれで失礼します。
*1『仮装巡洋艦バシリスク』は絶版ではありません。1年余り前に再版増刷さ れたものの一つなので、書店で見当らなくても取り寄せ注文を書店で出すと買 えるかもしれませんよ。『火星鉄道一九』はまず在庫切れに間違い無いですが。 (去年取り寄せ注文を出した時はそうでした)なお、今月の『こうしゅうでんわ』 によると、『火星鉄道一九』も今年五月ごろに増刷される……かもしれない、 ということです。早川書房、今度こそ頼んまっせ!!……)
*2「吸収剤」の英訳は編集の手元の「英和科学用語辞典」に載っていましたが、 《absorbent》です。本屋で買ったこの辞典、なにかと重宝してます。