星雲賞外道講座

岩瀬[従軍魔法使い]史明

 今年も星雲賞の季節が近付いた。
 今年の日本SF大会に参加できないから関係ないと考えている隊員諸兄諸姉。
 それは違う。かのカールス・グスタフ・ユングも「共時性原理」で主張しているように、世界で同時に起こる現象は、いかに共通の因果関係を持たないようにみえても、無意識という共通の大海によって結ばれているのである。或いは、人外協的にそれをこう言換え手も良い。どーせ祭りなんだからみんなで騒いだほうが面白いのだ。
 当然この記事も、そーいう観点から書かれたものである。従って、対象となる谷甲州作品は長篇部門が「36000キロの墜死」、「カリスト−開戦前夜−」、「ヴァレリアファイル2・3」、短篇部門が「巡洋艦サラマンダー」などがあるが、もちろんそーいうのもに組織票を動員しようなどというまともなファンクラブみたいなことは書かないのである。
 そもそも昨年度の谷甲州作品の著述でもっとも面白かったのはなにかというと、実はSFA’88年2月号掲載のたった2ページのエッセイ「破れたシャツ」であった。未読であろうほとんどの隊員のために内部紹介すると、よーするに、「昔から(十年以上前から!)全く実用的な観点から(この辺の論拠がやけに詳しいのだが)同じよーな型・記事の青いワークシャツばかり着ていたが、このあいだやぶれた。ここ十年ほどを回想しつつ「ひとつの時代が終わった」などと呟きつつ破れた左肩をガムテープで(!)隠して街をうろついていたらいつもと同じシャツが半額で売っていたのでまた買ってしまった」という話しなのである。
 ほんとーにそれだけの話だというところが余りにも谷甲州であるというので、当時人外協という名前を考えついた馬か李であった発起人一同(といっても3人だけだが)は感動とともに設立の決意を新たにしたのであった……
 その次に面白かったのは何かというと、もちろん「36000キロの墜死」のあとがきを忘れるわけにはいかない。特に最後の一行を読んだ時の脱力感は、今は亡き「なげやり倶楽部」なる中島らもの手になる番組の、「はじまんでぇ〜」というオープニングのあまりにもなげやりな科白に匹敵するものがあった。あとがきの最後の一行といえば「ヴァレリアファイル3」の最後の「すんません」の味わいも捨てがたいものがある。
 誌面が無いので強引に海外部門、海外長篇部門はもうこれっきゃない、ニーブン&パーネルの「降伏の儀式」だっ!パラシュートかついだ子象さんが天から降ってくるという空前絶後の侵略シーン。専門家も頭を抱えるあらゆる難問を快刀乱麻解決する大統領顧問団=ハードSF作家達。世界が滅びかけていることよりワールドコンが開かれないことを嘆くSFファン。そして何より、環境破壊も何のその、ヒロシマ級原爆をどかどか爆発させながら宇宙駆ける「大天使」の勇姿!これが最後のバカSFとは思えない……
 海外短篇では、まっとーなけっさくであるシェパードの「B&B」(SFM1月号)ではなく、イアン・ワトスン「大西洋横断大遠泳」(SFM3月号)を推奨してしまうのである。どんな噺家というと、ほんとーに表題通りの話しなのである。未読の人は借りて読もう。
 最後にコミック部門。脳味噌の皺を真っ白にしたくなた方は、是非「八戒の大冒険」(唐沢なをき作、徳間書店)を読もう!世紀末に生れて良かったとしみじみ感涙できるぞ!




●戻る