愛すべき人々の擦れ違いの話にも思える
「エリヌス−戒厳令−」

I.SATO

エリヌス−戒厳令−

 約390頁にも及ぶこの話は、外惑星動乱時よりも更に未来、敗残下外惑星軍がSPA(外惑星連合軍)としてテロ活動をあちらこちらで繰広げている頃の話。
 この話には、ダンテもヴァルキリーも出てこない。話が繰広げられる場所も、おなじみの、地球−月でも、トロヤ群でも無い、天王星系第六惑星エリヌスである。
 それでも、私は、この話が一番のシリーズの中でもお気に入りです。

 忘れ去られた天王星に、生きていくしかない作業用サイボーグ化されたオグ、地球を憎むことで母親への愛情に答えていたようなSPAのジャムナ、行政側で自分に出来ることを精一杯やっていたロペス部長、捕らえられたジャムナに優しい思いを抱いたまま死んでいったタマン、結果的には、SPAすべてを裏切ってまでも地球外文明との開戦を想定した遥かな未来を考えていた教授(この人の場合には、かなり良く言いすぎかな?)、etc etc、、、、。
 いろんな人たちが、とっても人間らし過ぎるほどにかかれていて大好きな作品です。この話の中には、スーパーマンはいません。撃たれれば血は出るし、致命傷を受ければ死ぬし、誰か一人でも、エスパーみたいに未来がよめれば、死ななくて済んだかも知れあい、回り道で迷わなくても済んだかもしれない、でも「エリヌス」は生身の人間の話だから、サイボーグになってしまったオグの体は元に戻らないし、ジャムナは優しいだけの女になれないし、行き違いは戻れないことを教えているみたいで、なかなか只者ではないのですよ、谷甲州先生は。☆

 早川書房の書き下ろしノベルズ(980円)のシリーズだから文庫本になるのも遅いみたいだけれども(5年前に出ているの★)、まだ呼んでいない人は絶対に一読の価値あり! (最近の文庫本自体が値上りしているし、かえってA6版変形でも買って損はしないとおもうなぁー)

 資料もついているので、他の作品の理解のサポートにもなるし、なかなか。解説で、谷甲州先生の作品の対極のような作品を書く人にあげられた、ジェームズ・ティプトリー・Jr は「たったひとつの冴えたやり方」においては、(私の感想では)SPAなどの外惑星動乱後のさらに未来、地球外文明とダンテ達の子孫たちが出会っているような気にさえなってしまいますけれどね。
 甲州先生は、女性が書けていないとかおっしゃっていましたけど、どーしてどーして、私はジャムナが一等かーいくて☆かーいくて☆
 呼んでいない人は、よーもーね。ハードの設定も十分あるので、メカ好きの人もきっと満足だね!

 オライオンはバカな乱暴者だからキライ!/p>


 この原稿は1988年に書かれていて、本の入手に関する情報は変化しています。現在『エリヌス−戒厳令−』はハヤカワ文庫から出版されており、容易に入手できます。逆に、早川書房の書き下ろしノベルズの入手は困難だと思います。




●戻る