第36回日本SF大会 あきこん


ゲスト紹介 1997年8月24日。大会会場のホテルの一室、椅子が並べられた部屋にホワイトボードを背にして座る4体の地球人。落合哲也、林譲治、金子隆一、大迫公成の4氏を進行役・パネリストとして企画が行われました(当初は前野昌弘氏が進行役を勤める予定だったのですが、残念ながら都合により欠席となりました)。約2時間の企画で、50名近い参加者がありました。
 今回の企画の主題は、『テラフォーミング後の火星での生命体』です。火星がテラフォーミングされた後、移植された地球の生命がどのように変貌していくかをシミュレーションしてみようというものです。

ゲストの(左から)大迫さん、金子さん、林さん


 落合氏によるファーストコンタクトシミュレーションやContact Japan 活動の紹介の後、金子氏による火星のテラフォーミングについての講演がありました。これがなかなか内容豊富で興味深いものでした。

 テラフォーミング。地球環境化、とでも訳すのでしょうか。火星や金星など、そのままでは地球の生命体が生存できない環境を何らかの方法で地球化するというものです。SF小説の世界では、テラフォーミングの対象として1960年代までは金星が取り上げられることが多かったのですが、金星の実状が明らかになるにつれ火星が取り上げられることが多くなったということです。

会場風景 火星は、惑星形成の初期においては地球とよく似た環境であった可能性があります。地表面に海として多量の水(液体)が存在したようなのです。もっとも、いつ頃まで火星の地表面に水があったかはよくわかっていません。火星のテラフォーミングにおいては、この水と二酸化炭素が問題となります。大気中の二酸化炭素が増えると地中などに閉じ込められていた水が現れてくる可能性があるのです。
 この立場からの火星テラフォーミング方法がいくつか提案されてきました。しかしそれぞれに問題点があります。何らかの方法で火星を温暖化することにより凍り付いた水・大気成分を解放するには、数十万年単位の時間がかかります。彗星などを利用してこれらを補給してやるには、数万個の彗星が必要となります。大量の核爆発により土中の炭酸塩鉱物からの二酸化炭素の放出をうながそうなどという提案までありました。
 火星全土をテラフォーミングするのが困難ならば、部分的に行ってもいいのではないか、という発想からパラテラフォーミング(部分テラフォーミング)の概念がうまれました。地球生態系を植え付けることが可能な面積だけを地球化すればよい、という発想です。例えばマリネリス渓谷(高さ数km、幅数百km、長さ数千kmにおよぶ大渓谷)を屋根で覆ってやることにより温室効果などからパラテラフォーミングが可能なのではないかと考えられています。

 そこで、このマリネリス渓谷のパラテラフォーミング環境下で地球から連れてきた生物がどう変化していくかについて考えていくことになりました。テラフォーミング中
 まずは、パラテラフォーミングしたマリネリス渓谷の環境がいったいどんなものになっているかの検討です。

 基本的に現在の火星と変わり無い要素として、重力:0.38G、輻射:地球の0.43倍、自転周期:1.02日、公転周期:1.8年、地軸の傾き:地球と同程度、公転軌道は地球よりも楕円度が高く遠日点と近日点の差が大きい、などがあげられます。
 マリネリス渓谷全体の容積として、高さ7000m、幅700km、長さ4500km。気圧は地表で1気圧。気象などの点で人工的な調節は基本的に不要であり、例えば降水は自然のサイクルで可能。土壌成分などは地球と同様であり、水は地球の汽水系程度に存在すると仮定する。

 こういう世界に地球の生命体をもちこんで、長期間後に生命がどう変化していくかについて検討してみます。ただし、基本的に生態系構築に必要な生命体はすべて持ち込むことにします。より好みせずにごっそり持ち込むのです。また、遺伝情報は系内固定であり、他の地域との交流は無いものとします。
ここで対象となる地球から持ち込まれた生物を決めました。陸海空それぞれの生物候補を参加者に出してもらい、多数決により決定しました。

火星の生物? 陸:カエル、モグラ、ワニ、ウシ、イナゴ、ネコ、カタツムリ、カメ、ウマ、カンガルーが候補にあがり、カンガルーに決定。

海:イソギンチャク、ホヤ、カキ、アユ、カツオ、サンゴ、ムツゴロウ、ウミガメ、マンボウ、シャケ、ウニ、トビウオ、ブラックバス、イルカ、イセエビ、クラゲ、ナマコ、ダイオウイカが候補にあがり、トビウオに決定。

空:ムササビ、ニワトリ、コウモリ、カラス、ダチョウ、トンボ、ペンギン、ハチ、ゴキブリ、トビウオが候補にあがり、ニワトリに決定。

 時間的な問題から、このうち海のトビウオについて考えることになりました。さて、地球からきて1万年ほどたったトビウオは、いったいどんな生物に変貌しているでしょう。

白熱した議論が行われましたが、検討した結果をまとめますと、大型化巨大化してカツオ大に。空飛ぶカツオ

というふうになりました。

 今回の企画も、時間的には不足気味でした。しかし、テラフォーミングした火星を対象としたこと、地球から移植した生物の変化を考えたことなど、従来のファーストコンタクトシミュレーションとは一味違う異世界創造が楽しめたと思います。



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SF大会(SF1997)企画