第31回日本SF大会 ハマコン


[前提]

 時に、西暦2092年。鯨座タウ(タウ・ケチとも言う。太陽系からの距離は約11光年。G型の恒星である)より、明らかに地球に向けられた知性体からの信号が探知された。解読はまだできない段階だったが、地球人はこれに対し、タウ・ケチに向けで恒星間宇宙船を送り、ファースト・コンタクトする事を決定した。

[地球人側設定]

 まず、地球人チーム全体の討議において、西暦2092年の地球について以下の3点が決まりました。

  1. 惑星にも都市ができている。
  2. 地球圏・惑星圏に分かれた勢力になっている。
  3. 恒星間航行については、無人探査船は飛ばしたことがあるが、有人宇宙船は初めてである。

 これらをふまえた上で、地球側の各分科会の討議は始まりました。

[地球人側設定](1)文明分科会

 文明分科会ではFCSが行われる時代(西暦2092年頃)の地球の勢力範囲、政治形態、経済状態、宇宙船計画の推進組織、人口、科学技術などについて話し合われました。

[地球人側設定](1)文明分科会
[この頃人類はどこまで広がっているか]

 人類は地球上の他、月、火星、木星・土星の衛星、小惑星、ラグランジュ点のコロニーなどに広がっている。ただし、テラフォーミングはおこなわれておらず、地球上以外(以下惑星側と呼ぶ)では、コロニー、惑星・衛星の地下シェルター、惑星・衛星上のドームなどの人工的建造物に住んでいる。その他の諸惑星にも、資源の採掘基地などがあり、作業員が居住している。地球をのぞくと、惑星・衛星・コロニーの中では火星が一番栄えている。人口は地球上に50億、惑星側に15億。医学レベルの向上により、寿命は150歳程度。

[地球人側設定](1)文明分科会
[政治形態]

 西暦1992年頃の世界で例えると、2092年頃の人類全体の政治形態は、基本的に連邦制をとっているが、どちらかというと、ECに近い状態である。その中に地球、月、各惑星などが州のような形態で存在する。ただし、地球だけは、さらに細かく分かれており、複数の州からなっている。各州は連邦に属しつつ、それぞれの自治権を主張すべきときには連邦政府に逆らっても主張する。連邦の中央統治機構は地球にある。統治機構には各惑星等からの代表者も勤務しているが、地球の人の権勢が強く、惑星側(月を含む)は軽んじられている。
 地球は惑星側に対して政治的に強い立場になっている。連邦政府に納められる税金も、地球本意に使われる傾向がある。惑星側は政治的には弱いが、資源や工業力では地球より勝っており、GNPも大きい。

[地球人側設定](1)文明分科会
[経済]

 貨幣は連邦内共通である。惑星や衛星間の移動はパスポートなどなしで自由に行える。
 各惑星(生活圏以外の資源採掘基地しかない惑星も含む)の資源採掘権は連邦政府の中央統治機構が持っている。連邦政府の中央統治機構では地球の勢力が強いことから、結局資源採掘権はほとんど地球のものともいえる状態である。各資源採掘権について入札が行われ、権利を取得することに決まった企業は連邦政府に代金を支払い、採掘権を入手する。多くの企業の本社は地球にあるため、企業の儲けによる税金の多くは地球にころがりこむことになる。(ただし、一部は資源の採掘が行われている場所での地方税となる)

[地球人側設定](1)文明分科会
[なぜ、タウケチからの通信に対して宇宙船を送ったか]

 この頃、地球とその他の惑星とは緊張した関係にあった。といってもそれは軍事的なものではなく、政治的な緊張である。そんなとき、異星人からの通信が届いた。これに対することで地球と惑星側は、一致団結した。そして、共同で宇宙船を派遣することになった。ただし、この裏にはそれぞれの思惑があった。地球は、このままでは惑星が皆独立してしまい、ろくに資源もない地球が取り残されてしまうことを恐れていたため、異星人の存在を利用して同胞意識を保とうとした。一方惑星側はこれを機会に地球が、惑星側にとって重要な問題である宇宙開発にもっと予算を向けてくれることを期待した。

[地球人側設定](1)文明分科会
[軍事力]

 連邦制になった時点で軍はなくなったが、密採掘の取り締まり用に太陽系レベルの戦闘艦は持っている。これは1992年当時の日本の海上保安庁のようなものである。この技術がコンタクト用の宇宙船にも生かされた。なお、核兵器は持っていないが、作る技術はある。

[地球人側設定](1)文明分科会 [コンタクト用宇宙船の制作]
 制作の推進主体は「NASDA(National AeroSpace Deveropement Asociation:国際航空宇宙開発機構の略)」。制作費の出資は連邦政府(つまり税金)と宇宙船の企業広告。(宇宙船にかかれた広告は誰が見るというんだ、という意見もあるが、出発と帰還のときには役にたつであろう) 宇宙船製造はパーツごとに各惑星で分担し、組立は木星軌道でおこなう。

[地球人側設定](2)コンタクト分科会

 討議は、メンバーがそれぞれ、政治家、企業家、軍人、宗教家、学者、マスコミ等の代表であるとしてそれぞれの立場から話すような形で行われました。そして、「コンタクトをする」という前提のもとに、何を求めてコンタクトするのか(学術的な興味か、利益を得るためか、地球から移住するためか、政治的な意義は?)、また、コンタクトを成功させるための鍵となる知識はどんなものであるか(異星側の技術レベルは、地球例のレベルは、寿命は、背景は?)、コンタクトの基本方針と手順は、といったことが話し合われました。

[地球人側設定](2)コンタクト分科会
[何がしたいのか]

 基本ラインはまず仲良くするということ。そして、地球とはちがう知識、技術を得られるだけ得る。

[地球人側設定](2)コンタクト分科会
[First Contactの手順]

  1. 出発時にこれから行くよと言う意味を込めでメッセージを返す。(中身は、貰った映像をそのまま返す。プラス、ボイジャーレコードみたいなモノ。何処から行くのかと言う事)
  2. 異星側に着く頃、通信できるようになったら先のメッセージをまた送る。(タイムスケジュールから見て、先に送ったメッセージが異星人に届いた10年後くらいに第二段が届く)
  3. 衛星軌道上にて今度は着きましたと言う事と、ここまで上がってきてください、と言うメッセージ。
  4. −1.彼らが来たら宇宙空間にて(宇宙服をつけて外に出て)FCS。
    −2.こなかったら、つぎのステップ。
  5. 惑星上におりてコンタクト。スペシャルコンタクトチームから男女一人ずつをほとんど裸に近い状態で出し、敵意の無いことをアピールする。(初めての異星人らに対する警戒心とか、恐怖心とか考えましたが、まずコンタクトが優先になるので武器の携帯など不利になることはやめました)
  6. コンタクト! 成功が第一の目的であるからひたすら友好を心掛ける。

[地球人側設定](2)コンタクト分科会
[宇宙船の乗組員]

 コンタクト・スペシャリストを養成する。宇宙船に乗り組むコンタクトスペシャリストは5人、全乗組員は30人で男女比が半々である。乗組員には、宇宙船を操縦する技術者と、他は学者達とか企業利益の追求をする人とかが含まれる。

[地球人側設定](3)宇宙船分科会

 宇宙船分科会ではタウ・ケチまで行く宇宙船の設計が行われました。設計補助にはノートパソコンと表計算ソフトも使用されました。

[地球人側設定](3)宇宙船分科会
[宇宙船の定員]

 宇宙船の定員は30人。

[地球人側設定](3)宇宙船分科会
[宇宙船の重量]

 一人当たりの生命維持装置の重量は、数100kg。コールドスリープが使えるので食料は、ラムジェットモジュールが戻ってくるまでの年数分を用意する。一人当たりの重量は1年分の食料、生命維持装置などで1tずつ。観測機器は2t。これらの必要重量から推進剤の量や、船体の重さが計算された。

[地球人側設定](3)宇宙船分科会
[宇宙船の構成]

 以下のモジュールからなる。

[地球人側設定](3)宇宙船分科会
[航路]

  1. 核融合ブースターで光速の10%まで加速
  2. ラムジェット(ラムスクープ)始動.
  3. ラムジェットにより1Gで定常加速.
  4. 星聞物質で光速の10%まで減速.クジラ座タウ星に接近.
  5. メインモジュール切り放し.メインモジュールのみ核融合で減速する.惑星探査,コンタクトなどを行う.
  6. ラムジェットモジュールはそのまま光速の10%で飛行を続け,ぐるーっとまわって1年後にタウ星に戻ってくる.
  7. メインモジュールはタイミングを合わせて核融合で加速.ラムジェットモジュールとドッキング.
  8. ラムジェットにより1Gで定常加速.
  9. 星聞物質で減速.太陽系に接近.
  10. メインモジュール切り放し.メインモジュールのみ核融合で減速する.帰還.

[異星人側設定]

[異星人側設定]−[惑星系]

 タウ・ケチは太陽系から約11光年の距離にあるG型の恒星である。タウ・ケチ人はこの恒星の周りを楕円軌道を措く惑星に住んでいる。恒星系はいくつかの惑星を持っているが、彼らの住む惑星に最も近いのは小惑星帯である。この星の一年は地球の約1.5年にあたる。惑星は海洋の比率が高く(陸:海=1:9)、大陸と呼べるものは一つしかない。また楕円軌道を描いているために冬が長いが、火山帯が発達しているため、海上が凍ってしまう真冬でも海底は比較的暖かい。
 この惑星に住む生物はすべて何らかの形でこの環境に適応するように進化してきた。冬の間にだけ活動する生物もいるが、多くの生物は夏の間だけ活動をし、冬は冬眠などで過ごしている。海洋の面積が広く、環境も地上に比べて穏やかなので、海洋での生物のバリエーションが多い。海草類の多くは冬の間は海底に沈み、夏になると海上に浮かび上がって光合成を行う。このうち最大のものは藻類の群体で、海上に浮かび上がったときの面積は宇宙から覿測できるほどの大きさを持つ島となる。海生の動物も、餌となる植物の動きに従い、夏は海上に、冬は海底にと生存領域を移動する。
 これに対し、地上の生物は種類が少ない。最もよく見受けられる植物は冬の間は地上からただの棒が伸びているような形であるが、夏になるとその周りにカーテン状の葉が垂れ下がり光合成を行う植物である。
 夏場に活動する地上生物は長い冬を地表で過ごすために、冬場は一切の活動を行わないものが多い。冬に活動する生物はこのような休眠中の生物を捕食するので、休眠中は堅い穀に覆われ身を守っているものが多い。
 一部の生物は火山活動による地熱の恩恵を受けて冬の間もある程度の活動ができる。この種の生物は火山によって出来た洞窟に住んでいる。

[異星人側設定]−[キーキーキー人]

 この惑星に住む異星人は、洞窟に住む生物群に属している。もともと海生の恒温動物であり、外見は地球のイタチに似ている。二足歩行で手は二対あるが、そのうちの一対は退化している。手指は6本で地球人の手の小指の側にもう一本親指が生えているような形をしている。身長は150cm前後であるが、平均的に女性の方が体が大きい。体重は男性で50〜60キロ、女性で60〜70キロである。冬場は体毛が生えるが、夏場はぬける。頭部は常に毛が生えている。彼らは通常繊維質または獣皮で作った服を着ている。戦闘の時はこの服の上から武装を行う。
 二性だが、4種の性染色体パターンのうち3種が男性であり、また女性の胎内死亡が多いため、出生率は男性:女性=6:1となる。このため女性が優遇されている。
 音声によるコミュニケーションを行っているが、喋っている音声が30000〜40000ヘルツにあるため、地球人には彼らの言葉が聞こえず、後にこの星を彼らの喋る声が聞こえるとおりに「キーキーキー」と名付けた。彼らは20〜40000ヘルツの音を聞くことが出来るため、地球人の音声は聞き取ることが出来る。
 生活領域が狭いため争いが多く、平均寿命は女性60歳に対し、男性28歳となっているが、これは男性が若くして戦争で死んでしまうためである。女性の地位が高いので、女性が戦争に参加することはない。争いが多いため家族の結び付きは強く、習慣には軍事色の強いものが多い。
 キーキーキー人は女王を中心とした部族に分かれて暮らしている。それぞれの部族は自然に出来た洞窟や、自分たちで掘った洞窟の中に建物を建造して住んでいる。食糧はもともとは狩猟によって得ていたが、現在は農耕技術が発達しているので、夏の間に大量の食糧を耕作し収穫した食糧を冬の間に消費している。ただし狩猟自体は無くなっておらず、不作の年などは狩猟によって食糧を補っている。冬場の食糧の確保ができてからは冬眠の習慣はなくなり、一年中活動することが可能となった。
 キーキーキー人の文明は軍需産業を中心に発達した。化石エネルギーに乏しいため、使われているエネルギーの中心はやはり地熱である。センシングや通信の技術は地球より進んでいるが、適切な燃料が無いために飛行機・宇宙船など自力飛行するものはほとんど開発されていない。また、船についても燃料の問題からあまり発達しておらず、このために海底資源は一部の沿岸部を除いてほとんど開発されていない。
 彼らの発達した観測技術により、小惑星帯に宇宙船の残骸物が観測された。科学者はこれを他の恒星系から来たものと判断し、同じタイプの生物が存在していそうな太陽系に向けてこの遺跡の情報を含んだメッセージを送った。地球人が初めに受け取ったタウ・ケチからの電波はこのメッセージである。



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