2003年、3月1日。大阪のアミューズメントメディア総合学院内で、エデュケイションコンタクトという教育を目的としたコンタクトが行われた。といっても、星の設定をコンタクトジャパン(以下CJ)のスタッフが決め、異星人の設定を参加者に話しあってもらうデイコンタクトの形におちついた。アメリカで使われている、中学生などを対象にしたテキストをそのまま使おうかと言う提案もあったが、今回は見送られたようだ。
開始は10:00時から。参加者は学院のノベルス科の生徒十数名に数人の学院講師である。まずは大迫代表のコンタクトの説明から入り、続いて出席番号による班分けが行われた。今回のコンタクトは異星人同士だ。
僕はBチームに参加する事になった。手渡された星の設定は気圧、重力とも地球より若干低いものだ。星全体の三割をしめる巨大な大陸だけしかないが、内陸部まで水があるため生物圏はひろい。火山活動はかなり活発だった。そして目指す恒星系は10光年先にある。そこにMクラスの星があった。環境は我々(異星人)の星と似ており、移住も可能のようだ。
星に行く前に、まず決めなければならない。我々は何者なのか? どんな生物で、何の目的でその恒星系に行くのか? この辺りはなれた人にとっては当たり前の部分なのだろうが、コンタクト経験がある参加者は指折り数えるくらいしかいない。ましてSFもあまり読んでいない、基本的な科学知識もほとんどないという状況だ。これが今回の企画の大きな不安要素でもあり、中心でもあった。学校側の意図は、コンタクトの世界構築の考え方を生徒に感じてもらいたいというものだった。CJ側としてもこういった知識のない人にもCJを普及したいと言う意図もあったので、実に好条件だったわけだ。ただ、CJは基本的に参加者を募る。最初からSFや、こういう活動に興味のある人しかこない場合が多いはずだ。それはつまりある程度の知識があるという事を少なからず示唆していると思われる。今回はそれがない。本当の意味で、といっていいのか分からないが、素人を相手にしてのコンタクトとなるわけである(といっても作家志望の集まりという点では特殊だったが)。最初の心配は発言が出るかどうかだった。発言がなければ進むものも進まないのだ。だが、これはいらぬ心配だったようで、それなりに発言は多かった。ただ、やはり発言しない人も数人みられた。
最初に決めたのは文化的特徴だ。生活環境から推測されるものや、面白い意見がどんどんでる。その中から矛盾しないものを中心に採用して行き、結果的に大きな特徴は次の三つに収まった。
- 生殖活動が盛ん(沢山生まれるかわりに、災害で死ぬ事も多いので子供は七つまで人権(?)を持たない。命に対してあまり重要性を見出していない)
- 猪突猛進から知性派に移行しつつある
- 地震や火山などの災害が多いため、ポジティブ思考
その次は恒星系に向かう理由を話し合った。やはり最初は移住や、探索のためという方向で意見がでた。だが、それじゃあ普通だとひねくれた意見が出始める。姥捨て山(棄民)だとか、流刑だとか……この段階でもう一つ文化的特徴が出てくる。物体の中央にいるものが一番偉い! あの星は究極の辺境だ! というわけで最終的に流刑という事に決まった。しかし、ただの流刑に十年に一艇しか造れないような宇宙船を与えるのはどうだろう? と、理性的な人がおり、只の流刑という事にはならなかった。結局どうなったかと言うと流刑だが探索隊という形になる。成功すれば無罪放免だ。ただ心配なのは、そんな究極の辺境に流刑される輩の人(?)格である。だが、我々の種族はポジティブシンキングだ。きっと彼らはやってくれるだろう。どうにかなるだろう。という事で深く考えない事になった。
続いては我々の技術水準を決めた。地震が多い事から自然と建築の技術は進んでいるという意見が出た。火山も多いので当然鉱物学も進んでいるという事になりそうだったが、そこに一捻り加える事になった。バイオ工学が進んでいるのはどうだろう? と言うのである。下手をするとなんでもありになってしまうこの分野に、少し神様(スーパーバイザー)もお困りの様子だ。しかし、七歳まで人権を持たない子供たちを使って人体実験し放題という事と、生きている家というアイディアのためか、そのままバイオが進んでいる技術になった。生きている家と言うのは、地震がきても自らバランスを取り、火山が爆発すれば即座に引越しできる。そして潰れても種を植えて促成栽培すればすぐ家が建つので便利だ。まるで某猫型ロボットのアイテムのような気がしないでもない。だが、過酷な環境においては必要な発明だったのだろう。一方で鉱物学の方はどうなっているかと言うと、古典学問という形で残った。となると宇宙船も自然とバイオ船になる。内部にいくらか金属を使用し、外殻などは植物となった。
その次はやっと我々の外見の決定だ。最初の方で「地球で言うイルカのように超音波で交信する」という意見が出ていたので、ホワイトボードにはいきなり直立したイルカの姿が描かれた。いや、イルカと言うよりペンギンと言ったほうが分かり易いかもしれない。だが、それではあまりに安直だ。すると今度は顎が引っ込み、姿勢を正した格好の姿が描かれる。今度は河童みたいだ。やはり人間ベースになっているのはつまらない。大体なぜ二直立足歩行になってしまうのだろうか? そこで「イルカだったら陸に上がったとき、ムナビレが足に進化するんじゃない?」と言われてデザインを一新する。尾ひれが手になり、ムナビレが象の足のようになった。顔はイルカのままである。頭の天辺にある潮吹き穴もそのままだ。自分で描いておいてなんだが(僕が絵を描かせていただきました)、変な生き物だ。更に変になるためのステップは目だった。今のままでは下がみえない。手は下の方をくぐっていると言うのに。だったら眼を増やすか? いや、いきなり増えるといのも進化の過程上謎を残すので、そのままで下を覗けないか? だったら出目にすればいいだろう。カメレオンみたいに飛び出して視界をカヴァーするのだ。という意見がすんなり通り、これで大体の外見が決定したのだった。
姿形が定まると次は文化的特徴を決めた。この段階ですでに意見を出す人と言うのは固まってきたように思える。だが、次々に出てくる面白いアイディアに興味を示す人は多かった。ここで一番おもしろかったのは図書館が一番の名誉という所だった。我々は文字を持たず、全て口伝(超音波?)で伝えてゆく。知識は生き物のように絶えず人と人の間に流れる物になっているのだ。つまり、知識がある人ほど偉いとされる。そしておじいちゃん、おばあちゃんになると図書館でコンピューターのように活用される。それが最大の名誉となるのだ。そして逆に馬鹿とののしられるのは最大の侮辱となる。加えて殺人が容認されてしまうという設定の中、老人殺しだけは罪になった。それも重罪だ。この事から流刑になった仲間のいくらかは老人殺しに違いない。おじいちゃんの知恵袋を活用しすぎて過労死させただけかもしれないが。それ以外はひょっとしたら偉い人物を馬鹿とののしったのではないだろうか? 身分階級があるため、下の者が上の者を馬鹿と侮辱するのも大変な事だろう。
これで大方の事は決まった。この後は恒星系を目指して旅するだけだ。出発する前に大陸の形は分かっていたので、着陸地点を決める。我々は川と海の近い地域を選んだ。生命活動を維持しようと思えば当然の選択である。現地に付く頃には仲間が増えていた。といっても未だ人権を持っていない子供たちだが。生殖活動が盛んなうえに多産なので、その数は結構なものになっている。彼らは貴重な労働力だった。一方で建築物などは母星の土、水などを持って来ていたので、家の種を促成栽培した。お陰で一週間ばかりで数人が住める家が出来上がった。この星には生物も発生してはいるが知的生命体はいないようだ。このまま移住を決定かと思われた。しかし、到着から4,5年後、この惑星に迫る宇宙船が発見されたのだった。
宇宙船はすでに減速を始めているところだった。到着は来年ぐらいになるらしい。逆噴射しているためか、送った通信にも返信は来ない。しかし、なんとかしてコンタクトをとりたいと、何度か通信を送る。こちらからは自種族の絵だ。文字を持たないなどのことから絵も写実的ではないと思ったのか、直線的で全く詳細を欠いた絵だった。すると、向こうからおなじような簡素な絵が送られてくる。くらげにアンテナが立っている様なすがた。それを上から見たと思われる図、その間に妙にごつごつした絵が描かれている。両端の絵は真正面と真上からみた透視図だと推測できたのだが、どうしても真ん中の絵がわからない。アレだコレだと意見が出るが、どれも的を射ていると確信を持てなかったのか、皆首を傾げるばかりだった。そうしている間に段々と宇宙船は近づいてくる。我々は急いで対策を練らなければならなかった。
と、いうのもすでに時間は16時30分前。予定としては17時までだったので、コンタクトをするならもう会わなければならなかったのだ。会場をうつり、A,Bチーム共に同じ部屋にきた。
通信もほどほどしかできず、いきなりの遭遇だ。我々はどこへ彼らが来てもいいように母船組、地上目印組、地上都市組に別れた。地上の目印は円形だ。前にも述べたように我々は丸いものの中央を偉いとする。円形の中心に降りてもらうことで歓迎の意を表したいのだ。だが、正体不明の宇宙船は、衛星軌道上にある我々の母船をアームで触ってきた。どうやら素材を調べているらしい。その後は何もせず、地上を一気に目指してきた。それも目印ではなく別の所にだった。
地上に降りた彼らは紛れもない知的生命体だった。姿は一人立っていて、他の人が数人腰を折ってくっついている。我々はかがんで足の間から手を出す格好となった。彼らはいきなり地面を掘り始める。その行動に我々は戸惑ったが、ためしにこちらの食べ物を渡してみる。彼らは触手をつかってそれを体の下の方へ持って行く。どうやら食べたようだ。すると彼らはあろう事かさっきまで掘っていた地面の一部を差し出してきた。つまり、鉱物が彼らの食べ物だという事を指しているのだろう。我々があんなものを食べれば死んでしまう。だが、食べなければ友好を示せないと考えた我々は、それを旅の途中で生まれた、まだ人権を持たない子供に食わせる事にした。案の定子供は泡を吹いて死んでしまったが、これで彼らは我々が鉱物を食えないことを理解してくれただろう。
と、この辺りでコンタクトは終了。大体あとは上手く行くだろうという結論で終わった。あとは茶話会となり、互いにネタばれをしていく。「あれはなんだったの?」などの質問が次々に出てきた。生徒たちの受け答えがおおく、両チームとも生徒の積極的な参加が見受けられた。
アンケートでは多くの人から好感色を得られ、「またやってみたい」「もっと設定してみたかった」という意見も出ていた。勿論中には「SFはやっぱり駄目」「よくわからなかった」などという意見もあったが。今回のコンタクトは大分手順を省いていたので、少し物足りないという意見が出るのは当然かもしれないが、そう思った人にはぜひファーストコンタクト、デイコンタクトなどに参加してもらいたいものだ。CJ側としてはコレだけの感触を掴めれば今回のコンタクトイベントは大成功と言えただろう。
物語、世界を設定する上でワールドビルドは大変役に立つと講師の方々も口を揃えられ、コンタクトが及ぼす思考訓練の有効性を認めている。学校がこれからもコンタクトを毎年取り入れていくのかどうかはわからないが、今回参加した生徒にといっては大変いい経験になった事は間違いないだろう。とすれば、学校側から見ても今回のイベントは成功したと言えるのではないだろうか? ぜひ、こういった学校で行うコンタクトが普及してくれればと嬉しい限りである。(安道漢和)