四月十四日に名古屋栄ナディアパーク内で開催されたDay CONTACT 1 in Nagoya、私はファーストコンタクトシミュレーションには初参加と言う事もあり非常に楽しみにしておりました。
特に何が楽しみだったかと言えば、レポートで見たZERO-CONでのワカメ星人と女子高生型宇宙人(義体)の接触のような悪夢の如きワーストコンタクトが行われないかと、期待に胸躍らせていたのです。もしまともなコンタクトが行われれてもそれはそれでなのですが、やはり期待してしてしまうのはいたしかたないと申せましょう。
そんな私にとって幸い、相手方にとって不幸だったのはこちら側のチームに岡田斗司夫さんがいたことであるという事実です。結果的に彼我共に岡田さんにひっかきまわされた形になりました。
まず最初、我々のチームの宇宙人(あるいは地球人)がファーストコンタクトに用意された惑星(母星から五光年離れた恒星系の第二惑星)に「何故いるのか」の理由の設定から始まりました。満場一致で最初に決まったのは「地球人はやめよう」。トンデモなアイデアが出るたび「後で苦労しますよ」というスタッフの無情な静止が入ったものの、やはり「ユニークな宇宙人を作り出したい」というのは初心者ベテランを問わず、共通の願望であったようです。
それが決まった時点で宇宙人の設定はひとまずさておき、何故五光年も離れたこの惑星上に来たのか、という理由を決めよう、ということになりました。メンタリティや社会形態から宇宙人の社会・歴史を帰納しようというわけです。
やはり「殖民」「調査研究」「資源の採取」「軍事拠点」といったオーソドックスな理由から上げられて行ったものの、やはりそれではつまらないという雰囲気はあったのか「宗教的理由」果ては「待ち合わせ」という意見まで。この「待ち合わせ」から「お見合い」「結婚式」「ハネムーン」という意見が派生。やはり根本的に皆面白がり屋だったのでしょう。中でも「ハネムーン」は岡田さんの琴線に触れたらしく「新婚旅行でボクらウキウキ。早く現地に着いて初夜を迎えたいな」という「やりたがり宇宙人像」を強固に主張し出しました。
関西ではこういう人のことを「いちびり」というらしいです。この時点ではチームの合意は全く取れてませんでしたが(特に女性陣からは生理的嫌悪の混じった反対がありました)、基本は面白がり屋が揃っている為か、「五光年離れた先までわざわざ新婚旅行に行く?」「寿命が長いから五光年くらいスグ」「どうしてその星でなきゃいけないの?」「きっと突然変異バンザイな種族で、宇宙や他の惑星上で宇宙線やらの影響で産まれてくる子供がどんな姿かワクワクしてるんですよ」等々というやりとりが発生、その結果「多様性命(たようせい・いのち)」「変わったものほど価値がある」という、当チームの宇宙人の基本コンセプトがなし崩し的に決定してしいました。
大迫さんも、大暴走が始まりかけるとやんわりと制止するのですが、苦力(クーリエ、旧スーパーバイザー)の山本さんの苦言に対し、「いや、そういうのもありでしょう」的な反論を、同じく「やんわり」とした口調ですることも。こうなるとすでに歯止めが利きません。
後で相手チームの野尻抱介さんをして「多様性の履き違え」というお言葉をいただくことになるわけですが、実は彼らは問題解決に際し、豊富な人材を利用して必要と思われる才能(?)をその都度ピックアップしてプロジェクトチームを組むという、プロジェクト星人でもあるという設定が後になされていたのです。だから彼らの星ではプロジェクトXが作りたい放題です。中島みゆきが流れまくりです。
苦力の山本さん、竹林夫人ら一部の反対がありましたが、ハネムーンのコンセプトも一応可決されました。ただし流石にやりに来るだけに他の星に来るのは無理がある、ということで、「資源採取・研究案」と合わせ、第二惑星上の生物の遺伝資源の採取研究プロジェクトの一環として、生殖にどういう影響を及ぼすかという実験も含まれてる、というところに落ちつきました。でもメンタリティの基本は誰とでもしたがりやりたがりのエロエロ星人でメンタル・リーダーは岡田さんというのは暗黙の合意です。
彼らは非常におおざっぱで、知能が低いわけではないが生殖本能には忠実、特に今回はまったく新しい場所で神聖な生殖ができるということでとても興奮している、という設定もやはり岡田さんの何かを反映してるものと思われます。ここで午前の部は終了。昼食を挟んで午後の部へ。
「向こうのチームは『隣から嫌な笑いがする』と言っていた」という情報も飛び込んできて大爆笑。実に以後の展開を暗示させます。
まずは具体的な技術レベル等の設定が開始。生命の多様性を重視するということで、工業技術のレベルはようやく星間航行が可能な程度だが、バイオ技術、遺伝子関連技術は非常に発達しているということになりました。また混血が起こりすぎて種族・同族という概念が目茶区茶になってしまうのではないかということで、雑多な種族ゆえにコミュニケーションというものを重視しており、コミュニケーションの伝達手段(音声による共通言語の伝達)が習得可能なものは彼らにとって「同族」とみなされるという宣言がなされたことにしようと、元のコンセプトから考えると奇跡的にまともな設定が成立しました。
ここで「彼らは」とか「我々(の)星人は」と呼称してたのですが、それでは呼びにくい、なんという名前にするか、という話題が発生しました。大迫さんが例として「例えば『我々星人』というのをもじって『ワ・レワレ』というのでもいいんですよ」と説明したのが妙に受けてそのまま「ワ・レワレ星人」に決定。
この辺り、「ワ・レワレ星人」の影響を受けたのか、メンバーもおおざっぱになってきていたようです。
メンタリティ・種族の形態の基本が決定した時点で後の決定はおおむねスムーズになされて行きました。
- 基本はヒューマノイドだが、あまりに多様な交配、人為的遺伝子操作が行われたためヒューマノイドからかけ離れた姿のものもいる。(イメージ的にはショッカー怪人やデーモン一族)
- サイズもばらばらで、1m弱〜10mまで。但し星を渡ってきたのは収納性と寿命の関係から1m〜3mの個体に限定されている。
- 宇宙船は五隻。推進原理はみな同じだが、多様性を尊ぶため形は全部違う。エンジンのメーカーも異なっている。
- 一隻辺りおよそ百名のワ・レワレが登場。
- 四隻は第二惑星衛星軌道上を周回、残り一隻は燃料船として第四惑星で帰りの燃料を補給している。
- まずは先発隊として、第二惑星上で呼吸可能な第一陣およそ五十名が地表に降り、前線基地を建築している。
- 技術力はあるのだが、興奮してるために惑星上はともかく惑星外の観測というのはおろそかになっている。
サイズが1m以上、となってるのは、ある程度以上の寿命と知性を維持するにはそのくらいは必要だろう、ということで設定されました。
途中の休憩で、「雑多な交配」と言っても遺伝システムの系統が異なるとさすがに交配不可能という事実に気付き、何人かにそのことを指摘したのですが、たとえとして「ウィンドウズのプログラムにマッキントッシュのプログラムを接ぎ足すみたいなものでしょ」と言ったのに対し、小川さんが「そういう場合でも無理矢理エミュレートして接ぎ足すんですよ」という強引な理論を展開が。実におおざっぱです。
時間ぎりぎりで設定が終了した後に、ワ・レワレ以外の知的生命隊の存在を示唆する第一報が入電。明らかにワ・レワレのものと異なる宇宙船の減速運動のためと思われる核パルス噴射が確認されたとのこと。しかも第二惑星へ向かっていると思われ、予想到着期限はたった一ヶ月とのこと。緊急に会議がなされ、ワ・レワレはこの事態に対処することを迫られたのです。
ここからは地球人の思考でなく、ワ・レワレ星人の思考をしていかなければなりません。
- 核パルスエンジンを使った星間航行ができるくらいだから、おそらく相手はワ・レワレ以外の知的生命体である。
- ワ・レワレとは異なる知的生命などという非常に珍しい遺伝子はぜひ欲しい。(出来れば直接交配を望む。相手も「知的生命」である以上自分たちと異なる知的生命との交配を望むはずである)
- とりあえず、こちらの存在を知らせるために第二惑星衛星軌道上の四隻の母船の核パルスエンジン噴射でアピールする。(曰く「ラブホテルのネオンサインである」という非常にイヤな喩えがなされました)
そうこうしてるうちに第二報。こちらの合図を送る前に相手からまず先にこちらに向けての発進を受け取った、との報でした。その内容は「元素周期表」「この惑星系の星系図」「そして音楽と思しき波を偏重した電波」。
どうやら最初の二つは「自分たちはインテリだぞ」と特質としての知能の高さを主張していると解釈、やはり相手方も交配を希望し、アピールしていると判断しました。
最後の音楽がいまいち不明でしたが、「おそらく音楽を流すことでムードを高めてるのだろう」ということで、ワ・レワレもムードを盛り上げるべく、先のメッセージとあわせて送られた曲を編曲し、送信し返すということに決めたのでした。後にこれは音楽でコミュニケートする彼らが、素数を組み込んだ音楽と知りますが、そんなことはこっちは知る由もございません。
そして第二のメッセージ。相手側から先に送られた星系図を元に、矢印で彼らの進路が示されていると思しき図が送られて来ました。ラグランジュポイントが強調されていることから、どうやら相手はラグランジュポイントでの交配を希望しているようです。
しかし母船を再加速、再減速してそのポイントに向かうのは非効率的であり、なによりやはり初めての異星知的生命体との交配は、この惑星上で行った方がムードが盛りあがるだろうと総意を得、「こっちに来い」と矢印を引き直した星系図に加え、第二惑星の地図に、ワ・レワレ地上先発隊基地の場所を示したものを送りました。
こちらが遺伝子を持つ炭素型生命体であることを示すため、われわれの原子組成も一応相手側に送付しました。
そして記念すべき運命の日。第二惑星に到着した宇宙船から降下艇がやってきたという知らせが入ってきた瞬間、わっと歓声が上がりました。初めての異種知的生命体との接触を期しての興奮というより、むしろ「第二惑星上で珍しい交配が出来るぞ!」という期待であったように思えます。既に地球人の思考はどこかに行っています。
しかし喜んでばかりもいられません。こちらからおもてなしの準備をせねばなりません。まず我々の多様な肉体をアピールすることはもちろん、我々がどのような生命か、知ってもらう必要があります。その点、コミュニケーションを重視するワ・レワレには言語教育に関する豊富な教材と経験豊かな人材がそろっています。「ヨクデキマシタ!」な駅前留学などよりはずっと効率的に相手にこちらの言語を習得してもらう自信があります。
一部「惑星からの離脱が難しい降下艇で降りてくるからには『けっしたい』であろう。殺さない限りは無理矢理交配しても良いのではないか」との過激な意見もありました。しかしワ・レワレはエロエロかもしれませんが、あくまで平和的生殖を望む種族です。やはり相手方も納得した上での交配が最優先です。無理矢理は最後の武器です。
「けっしたい」という表現はあながち間違いでもなく、向こうの交渉チームはかなり悲壮な決意だったようです。
ちなみに「けっしたい」とは「けっこんしたい」の略なのはワ・レワレ星人にとっては常識です。
着陸艇が降り立つ場に、ワ・レワレは地上先発隊全員で出迎えました。礼儀ということもありますが、相手側がどのようなサイズであっても対応できるように全員に準備をさせておいたのです。
やがて、着陸した降下艇の扉が開き、中から彼らが出てきました。その姿は十分個性的ではあったのですが、あろうことか原始的な楽器とおぼしき物を鳴らしながら降下艇から出てきた十数名、すべてほとんど同じ姿だったのです!
全身からハリネズミのような刺が生えた猿のような姿で、首の後ろ辺りから尻尾のような物がのびています。大きさもおよそ0.7m程。ワ・レワレの最小の個体より更に小さいです。
ワ・レワレの間に動揺が走りました。星間航行を行えるだけの科学力持つ知的生命体であるはずなのに、単一の姿しか持たないというのはどういうことなのか。ひょっとしたら彼らはペットのようなもので、実は真の知的生命は他にいるのではないか。等々の推測がなされました。
しかし、もし彼らが本当に高度な知的生命体であれば、多様性を持たずに文明を築くという、とんでもない偉業をなし遂げた遺伝子を持ってるということになります。よしんば彼らが「遣い」に過ぎないとしても、貴重な遺伝子資源であることは違いありません。
兼ねてからの予定どおり我々の肉体のアピールをした後、比較的彼らに体格の近い者を選び、彼ら一人一人についてワ・レワレを知ってもらおうということになりました。
ワ・レワレは誠意を見せて精一杯肉体的アピールを行いましたが、向こうはそれに対し脅えの色を見せます。戸惑いはいっそう深くなりました。
教育機材を持ち、彼らの手を取って触らせようとしますが、相手は肉体的接触に対しあからさまな拒絶、特に彼らの尾状器官に触れると強い忌避の反応を示しました。しまいには彼らはとうとう降下艇の中に逃げ込んでしまいました。
ファーストコンタクトの失敗です。
この予想だにしなかった事態に対し緊急会議が開かれました。「ハリネズミのジレンマなひきこもり星人、ヒッキー星人」との岡田さんの言から仮に彼らをヒッキー星人と名付けました。
ファーストコンタクトの反応を見るに、ヒッキー星人は肉体的接触をかなり嫌う種族のようです。彼らはは直ちにこの星系を離れる準備をしだし、「けっしたい」の交渉団もひきこもってから一切連絡をしてきません。
我々の欲しがった彼らの遺伝情報も、体毛、体液等一切採取できませんでした。
こちらの母船を一隻費やし、向こうの母船にぶつけて壊れた母船からこぼれたヒッキーのサンプルを採取するかとか、こちら三名と向こう一名の非等価交換を申し入れるとか、さまざまな案が出されましたが、とりあえず以後のコンタクトに望みをつなぐため、地上でひきこもったままの交渉団の外側で、こちらに害意がないことを示すと同時に例の教育ビデオを流すという穏健な案に決まりました。
その甲斐あってか、こちらの言語を研究したヒッキーから無線による連絡が入りました。
おそらくこれが最後のチャンスです。ワ・レワレは慎重に臨むことにしました。
まず、向こうはこちらが何者かを知りたがりました。
「我々はワ・レワレです」
翻訳装置の不調なのか、複数系の一人称とこちらの種族の名称が同じ音で伝えられたようで、理解がしにくかったようです。−あなたがたはこの惑星に定住しますか?
「いいえ。目的は研究と遺伝資源の採取です。滞在期間は未定ですが、定住する予定はありません」この返答を聞き、向こうから安堵した雰囲気が伝わってきます。どうやらヒッキーたちはこの惑星への植民を目的としてやってきたようです。
今度はこちらからの質問です。「あなたがたは何故、皆同じ姿なのですか?」
−私たちにはこれが当り前です。むしろあなたがたの姿がばらばらなのが驚きです。念の為、彼らには主人がいて、彼らは単に交渉役に刈り出されただけではないのかと質問しましたが、間違いなく彼ら自身があの宇宙船を作った知的生命体であるという返答が返ってきました。宇宙にはこのような珍しい知的生命体も存在するのだとは驚きです。
その後、彼らの肉体的接触に関するタブー、あの楽器のようなものは意志伝達の道具で、特に相手に失礼がないようにということで、儀式用の古典的なものを使ったが、本来はシンセサイザーでコミュニケーションを行う、など、ヒッキーら(本当は「ヒュンヒュン」という種族名と後に知る)の我々との差異が明らかにされていきました。
残念なことに我々との直接の生殖行為は望まない(将来的に望むものが出てくれば、それは止めない)とのことでしたが、遺伝子サンプルの提供はやぶさかでない、という相手の好意的な対応もあり、こちらの目的は達成されました。
他にも彼らの母星から運ばれてきた他の遺伝子サンプルの提供も受けられるとのことで予想外の収穫もありました。
ただ植民を急ぐあまり、こちらが遺伝子収集や研究を行う間もなく惑星改造をしたり追い出しにかかるのではないかとの懸念もありましたが、それはこちらの用事がすむまで待ってもかまわないとのこと。
彼らはワ・レワレのベースキャンプとは少し離れたところにひとまず居住ドームを建設し、定住の準備をするということで落ち着きました。
しかしヒュンヒュンとの直接生殖の夢あきらめきれぬ一部のタカ派の「あなたがたの気持ちを変えてみせますよ!」との強引な口説きにあちらが退いてしまってるのを見て、さすがに「今の発言は無視してください」と内部からの制止が入りました。せっかくさまざまな遺伝子プールが入手出来そうなのに、逃げられてしまってはたまりません。
将来的なワ・レワレのタカ派とヒュンヒュンたちとの間に摩擦の不安を残しながらも、両種族にひとまずの友好が成り立ちました。後に知ったことですが、ヒュンヒュンたちは最初の接触でワ・レワレが自分たちに向かって求愛行動をしていることはわかったが、交渉団リーダーの野田令子さんの遺伝形態も生態ものまったく異なる種族間でどのように交配を行うつもりなのか、技術的にはそれはどのような技術なのかという興味にひきとめられかろうじて逃げ出さずにいたということで、実に危ういコンタクトだったと言えましょう。まあ、もし逃げ出してたら逃げ出してたで体当たり案を実行してたでしょうけど。
それに対してワ・レワレは「ワ・レワレの技術をもってすれば『きっと』可能です」と無根拠な自信に満ちた返答を。技術力はあるけど性格的に非常におおざっぱであるという種族の特徴が、よく出た言葉です。
だから「異種交配の根拠は?」と問われても、「将来的課題です」と答えざるを得ないわけです。結果よければすべてよし。
他に「多様性の履き違え」などと散々なお言葉をいただいたわけですが、やはりブレザー目ニーソックス科とか、セーラー目ルーズソックス科メガネ亜種とかポニーテール種とかいう「多様性を持った女子高生型宇宙人」にしとけばおそらく不満はなかったのだと思われます。
この反省を元に、次回は皆様に親しまれる、科学と宇宙にやさしい宇宙人を目指したいと思います。(鈴木慎一)