第39回日本SF大会 ZEROCON

ZEROCON FCS企画 After Report

  ● SF-Online 「 ファースト・コンタクト・シミュレーション」
  ● 小川一水さんの、2000年日本SF大会探険記録

 今回は、二部屋を使って宇宙船の設定を二つ作り、その二つの宇宙船の出会いをシミュレートするという形式で行いました。宇宙船は光速の1%で進んでいること、周囲5光年には何もない虚空で出会ったということ、あと100ヶ月後に最接近するということなどが決まっていて、後は参加者が自由に設定していきます。一方の部屋は堀晃さんが「神様」、もう一方の部屋では野尻抱介さんが「神様」となり、いろんな設定の最終決定をしてもらいました。
 途中、二部屋の間には情報として、「宇宙船の形を書いた絵1枚」、「図1枚と単語10個を使った通信文」、「通信文に対するリアクション(通信でなくても可)」を行き来させることになっていました。


 

 

<堀チーム>

 まず、「どういう目的の宇宙船なのか」というところから設定が始まりました。「動植物の標本採集ってのは?」、「サファリツアーですか」、「観光旅行ってのは?」、「農協ツアーね」などから「聖杯探しじゃあ」とか「バーサーカー」、「ゴミ捨て船」、「流刑船」、「伝道師」などのあんまりなものまで含めてフリーディスカッション(と書けば聞こえがいいですが、まぁ結局のところボケとツッコミの応酬って奴ですか)の後、神様である堀さんの意見を取り入れて、
「深宇宙の探査基地を作りにいく土木工事作業員が資材とともに基地建設予定地に向かっている」
 という設定ができあがりました。かように平和的な目的の宇宙船になって司会をしていた私はほっとしてたのですが、この時隣の部屋で「サファリツアー」よりももっと恐ろしい意見が採用されていようとは、夢にも思わなかったのでした。
 ではそのための宇宙船の形はどういうものかという点に話が進んで、まず「小惑星をそのまま持っていくというのは?」という意見が出る。ほとんど無駄になるだろうに不経済では、と意見も出ましたが、いろんな資源の小惑星をまとめて持っていけばいいんではないか、余ったごみは推進剤として使えばいいじゃないか、などと意見が出て、基地を作りながら進んでいこうということで話がまとまりました。必然的に宇宙船の形状は、資源のための小惑星と作りかけの基地を連結して、ごみを捨てると同時に加減速を行うためのマスドライバー(長い串みたいなものになります)をつけて、ということで、ヤキトリ型宇宙船の設定ができあがりました。こういう真面目な考察の結果宇宙船がたまたまヤキトリに酷似した形になっただけであって、受けを狙ったわけではありません。ありませんと言ったらありませんっ。堀チーム
 次にこの宇宙人の生態ですが、光速の1%という(恒星間宇宙船としては)遅い速度で宇宙を渡っていることから長命であるか、長く眠ったりすることが可能な連中だろう、ということで(これも諸説出た後ではありますが)「光合成のできる植物宇宙人で、光がないと休眠状態に入る。寝ていたら宇宙船を発見して今起きた」というふうに決まりました。で、玉ネギに手足が生えたような宇宙人ができあがったというわけ。
 ここで宇宙船の絵を交換する時間となりました。ヤキトリ型宇宙船の図を書いてもらって向こうに渡すと、あっちの宇宙船の形の図がもらえました。その形がどう見ても「御椀と箸」。どうしてどっちの部屋でも食いもんの形になってしまったのだろう。
 この時点で「向こうは真面目に設定作っているのか?」という疑念がむくむくと湧いてきたわけですが、「まぁ、こっちもヤキトリ型だからえらそうなことは言えないな」とその疑念を押さえて、次に通信を送るという議論になりました。どのような内容にするかがまた問題になりましたが、ここで「神様」堀さんより方針が示されました。
 我々の宇宙船に乗っているのは土木作業員ではあるけれど、もともと深宇宙探査のための宇宙基地を作りに行くという、学術的プロジェクトのための船なのだから、当然このような事態になればできる限りコンタクトをとろうとするはずであります、と(すばらしい!)。
 ではというわけで友好の意思を示す言葉である「平和」と、こちらの目的を明かす言葉である「観測」、「基地」、自分の素性を明かす「私」、「生命」という言葉と、相手に対する質問となる「君」、「生命?」、「どこから」、「誰」、「目的」という言葉を送ることになりました。さらに自分たちの姿を書き加えます。
 で、向こうからも通信が来たんですが、これがまったく理解不可能。最初に書いてある単語の「我々」、「愛す」、「平和」、「友好」はいいとして、その後の「ハゲ」、「星」、「実り」、「ハゲ?」、「光」、「あなた?」って何なのか。
 特に「ハゲ」って何なんですかあ。しかも宇宙人らしきものは頭からワカメはやしているし。ここで向こうの意図を考えようとしたわけですが。「ハゲを治すために宇宙を旅していて、あんたらも治してやろうか、って意味では」、「星がハゲになったから逃げてきたとか」などと無理やりに推測をしておりました(今から思ってみると第一の推論は当たらずといえども遠からず?)。
 さらに議論になったのは絵で、さっきまで「茶碗と箸のように見えるけど宇宙船なんだろう」と思っていたのに、なぜそのものずばり茶碗と箸が絵に描いてあるのか。これまた「宇宙船が分離したんでは」「ちょっと待て、宇宙船の絵では蓋がなかったのに、今度は蓋がついている」「この蓋の意味はなんだ。宇宙船が2隻あるのか?」「宇宙船が止まっているということを表しているんでは」「そんなあほな」などといろいろ推論するもののこれまたさっぱりわからない(これも最後のは当たってたんですね。まさかこれは違うだろうと思ってたのに)。「待てよ、これ宇宙船だと思っているけど、こっちが宇宙人かもよ」、「まさかこのワカメの方が宇宙人だったりして」、「そんなあほな」なんて話もしてたんですよねぇ(「あほな」と思ったことが実は正解だったわけですが)。
 推論しててもわからんので、とにかく質問をしよう、ということで、「ハゲぇ?」、「光ぃ?」などの語尾上げしゃべりな単語で質問をすることに。また宇宙船がパーツ(茶碗と箸なんだけどさ)に分離しているのはどういう意味かを表す図をつけ、コンタクトのために原則して停船しよう、という言葉を付け加えたものを送ることになりました。
 そして、向こうからも次の通信が来ました。それには、我々の頭にワカメの生えた図と、我が宇宙船と彼等の宇宙船がなかよく蓋の下におさまっている図が。「ハゲを治すためにワカメを植えてあげようってことかぁ?」、「やっぱりワカメが宇宙人かぁ?」、「蓋がさっきのよりでかいのはなんでなんだぁ??」と疑問が百出。どうもワカメを植えられるらしいが、「これって寄生生物の侵略やん」、「でも友好って前の通信であったよ」、「連中にとっての友好ってのはこういう寄生状態なのかもよ」、「そんなあほな」。
 情報の行き来は3回まででしたので、この時点で部屋をわかれての企画は終わり。一部屋に集まって双方の設定を聞く時間となりました。
部屋に入ると、野尻チームの司会の伊藤さんに「まず僕と野尻さんが謝ります」と言われました。謝られても困るんですが。
 しかし何と言うべきか。相手の設定を聞くと堀チームの中で「そんなあほな」という感じで予想してたことがことごとく当たってました。ちょっと愕然としましたね。
それにしても我々は「友好」という言葉を信じて停船してまでコンタクトを成功させようとしていたのに、相手が寄生相手を探していたとは、不覚。
 もっとも「寄生生物では?」ということはそろそろ感じていたので、あのまま続いていたら堀チームの宇宙船は「逃げる」を選択していたかもしれません。
我等が神様の堀さんの感想は「あんまり相手を信用したらあかんつうことがわかりましたね」というものでした。
 いやはや、ファーストコンタクトってのは難しい。そのことをある種再認識しました。隣の部屋にいる人間の考えることすら、まるっきりわからないんですから。

(前野昌弘)

<野尻チーム>

 最初にどんな生物にするかを決めることにした。変態する生物や冬眠する生物が候補にあがったのは宇宙旅行中ということを意識してのことだろうか。ヒューマノイドタイプの異星人が宇宙服型の宇宙船で散歩中という長閑な眺めか、はたまた相手がギョッとするかという案も出た。野尻神様の案は会場の期待に答えて(?)女子高生型の異星人。その後すぐに否定されましたけど、相手チームが女子中学生型の異星人を送り込んでくるかな、なんて神様の呟きも聞こえたっけ。
そんなこんながあって、決を採ったらなぜか寄生(共生)型になっていた。大きさなどを決めて、さて、形状はという段になっていろいろあがったのだが、このとき、この後の全てを決めてしまうような一言が、小学生くらいの少女の口から発せられた。「ワカメ」。なんと神様を含め、会場は女子小学生にも弱かったのだった。
宿主の側の生物の案にはカツオなんて案もあったが、結局禿げたヒューマノイドタイプということになった。宿主についての設定は、「知性がないこともなく、共生していないときには、自分の知性で動く」「共生しているときのほうが知能が高い」の二点以外は禿げていることのみ。
 宇宙旅行の目的は移住。個体数が増えすぎたので、良い宿主を求めて。まぁ、現在の宿主が生存しやすい環境を求めてもいいとは思うんだけど、つい発想はより良い禿を求めて、になっちゃったんだよね。野尻チーム
 宇宙船の形を決める段になると、ワカメに引きずられて、鰹節型とか味噌汁椀型なんて案が出る。で、結局は味噌汁椀型に決定。本当はラム・ジェット型と言うのかな。それをいかにも朱塗りの味噌汁椀と割り箸のように書いて相手チームに提示。悪乗りしすぎかな、って思ったら入れ替わりに出てきたのが焼き鳥型の宇宙船。まるで居酒屋でやっているようなFCSである。ということは、相手も寄生生物か、、、なんて考えては見たのだけど、とりあえずこの焼き鳥をどう食べるかが問題、、、って。どうもおいしそうな絵を見ていると、食べることにばかり心が動く。
 第二段階では絵と単語を10個送ることになる。絵のほうは宿主を含めたこちらの姿。なぜか味噌汁椀と割り箸が添えられることになる。友好を表すシンボルというのが発案者の説明。後から停船の合図との解釈が加えられるが、この時点では、チームのメンバーの思考が食物に向いていたためとしかいいようがない。言葉のほうは「我々、愛す、平和、友好、ハゲ、星、実り、ハゲ?、光、あなたは?」我々と複数になっていることと、平和、友好などの語が共生を目指すことを示している。ハゲが2回出てくるのは、それだけ禿、つまり良きパートナーを必要としていることを示している。光は禿の関連語で意味を強めている。星、実りなどの語は移住目的での航行であることを示す。なお、このとき味噌汁椀に、味噌汁を入れるとかワカメを浮かべるなどの案が多く、折衷案として蓋をすることになったのは内緒にしておいたほうがいいかもしれない。
 ともかく共生して生きていくので、敵という感覚があまりない。相手はこちらのペースに合わせてくれると信じている。まぁ、お気楽な異星人チームであります。なお、神様がこのときどう思っていたかは、まさに神のみぞ知る状態でした。
 相手方から送られてきた絵には、こちらの理想どおりの禿。おぉぉぉ、の声があがってみんなの目が絵に釘付けとなる。すでにチームの全員がワカメとして思考している。司会に促されて、ようやく添えられた図と単語に目が行く。わずかに残っていた地球人としての知性は、単語の配置に意味をもたせているところが、すごいなぁ、工夫しているなぁと思う。
 こうなるとチームは、追いかけてタマネギ型異星人と直接対面することを全員一致で決定。停船の意志を伝える絵を描く。ここで、先ほどの味噌汁椀の蓋が生きてくる。ラムジェットに蓋をするということは、星間物質の収集をやめる、すなわち停船または針路変更を意味しているのだから、そのシンボルを使って、ランデブーの意志を伝えることにする。それから、こちらの理想と考える共生の姿を示すため、タマネギ型異星人の頭にワカメを生やした姿を送る。解釈はそのものずばり「同道して共に栄えましょう」。

合同発表会

 さて、ワカメ型寄生生物としては、非常にまっとうなコンタクトシミュレーションをしたはずなのに、野尻神様の口から「堀さんに合わせる顔がない」との、み言葉が発せられる。異星人チーム同士の顔合わせの場では堀神様の口から「谷甲州が神様やってたら、今ごろマスドライバーで撃ってる」との、み言葉が発せられる。神様の世界のコンタクトには、また別のルールがあるらしい。

(高橋祐代)