山添紘司さんの、エデュケイションコンタクト・ レポート

○パターンA:普通バージョン

 今回、初めてファーストコンタクトシミュレーションに触れさせていただきました。つらつらとスタッフの皆様への感謝を込めて、感想などを書かせていただきます。
 実際に行われる前のイメージと大きく違ったところは、SF要素が濃くて深い、というところでした。僕個人は、失礼ながらSF小説はあまり読みません。SFといえば、もっぱら映画や海外ドラマ「スタートレック」などを好む程度です。ですから突然手渡された資料に「恒星系の諸元」などが書かれていたときには、さすがに驚きと共に戸惑いを隠せませんでした。惑星の自転周期? 公転周期? 重力? 密度? 言葉の意味はわかりますが、内容についてはその数値が事細かにどこにどう関わるのか、どうにもちんぷんかんぷんです(これでも一応、理系だったのですが……)。
 けれどもその辺りの内容については、優秀なスタッフの皆様の導きにより、あまり固く考えなくてもよいのだな、と理解することができました。おかげさまで、発想のみに集中することができたのです。そこからは肩の力も抜け、すぐにシミュレーションの楽しみ方に馴染むことができました。
 今回のシミュレーションは、10時半ごろから始まって一度昼休みを挟み、17時には終えなければならないという制約がありました。本来は数日かけるところを、速度を上げて行かねばならないということで、少々残念ではありました。しかしやはり、スタッフの方々が奮戦してくれたおかげで、スムーズに進行したと思います。
 午前中で異星人の発生、習慣まで到達し、午後からはデザインと感覚機能とを討論しました。
 通常は一人の頭で考えて構築していく事柄が、多人数の意見のせめぎ合いの中から選択されていく過程は、興味深く、また予想もつかず、楽しいひとときでした。ただし、SFにまったく興味のない人には少し辛いディスカッションだったと思われます。僕は満喫できたのですが、やはり専門用語の理解や、ある程度の科学的理論の知識が必要な上、とりわけ今回は限られた時間内での作業のため、矢継ぎ早に変わっていく議論内容に「頭がついていかない」という意見も小耳に挟みました。
 しかしそんな意見を持っていた人も、後のコンタクトのシミュレーションでは大いに楽しんでいたようです。実際、僕も堪能させていただきました。
 自分達一人一人が、創り上げた異星人になって物事を考え、その場で相手異星人グループとのコミュニケーションを行う、というのはやはり楽しいものです。僕の頭の中では鮮やかに、降り立った惑星や、軌道上のシーンなどが再現されていたものです。
 それに、役を演じるという中で、「相手のこの行為の裏には、どんな意志があるのだろう」ということを考えていくのはひじょうに興味深い思考プロセスだったと思います。普通では絶対にしないことですから。
 それにしても一番面白かったのは、やはり違う考えを持った個人どうしが話し合い、意見をせめぎ合わせることで、誰一人として考えつかなかった領域にまで話が進んでいく、という部分でしょうか。それぞれの知識、考え方、発想、着眼点。それらの違いがよくわかり、実に面白かったです。
 僕一人ではまったくどうにもならなかった部分が、他の誰かであったり、もしくはスタッフの方々の手助けにより発展していく様は、心地よくすらありました。
 唯一残念なのは、やはり時間が短かったことでしょうか。あと、もう少し専門知識のある人が参加者に大勢いれば、もっと盛り上がったかもしれませんね(時間内にはまとまらなかったでしょうが)。
 ファーストコンタクトシミュレーションは、僕のように少ししかSF知識のない人でも、簡単にすぐ楽しむことのできる、素晴らしいものでした。SFに興味のある人なら誰でも馴染むことができる門戸の広さと、また一方では専門的知識を有した人々からの濃い知識をかいま見ることのできる奥深さとが共有した、いい接合点だと思います。
 今回行われたシミュレーションでは1グループが十人程度でしたが、もっと大勢で話し合う場でさらに深く討論し、また新たな異星人を創造してみたいですね。いい勉強と経験になりました。
 改めて、今回の機会を与えて下さったスタッフの皆様にお礼を申し上げます。そして、ぜひともまた、そのうちより大きな大会に参加させていただきたいと願います。ありがとうございました!

○パターンB:ぎちぎち異星人視点バージョン

ギチギチ星人 どうも、みなさん初めまして。私、今回のファーストコンタクトに関わった一匹の異星人です。ぎちぎち。
 異星人という言い方は適当ではないですね。なにしろ私どもは、他の星の生命体と出会うまでは、この宇宙に唯一無二の存在であると思っていたのですから。ですから、「~人」という名前は特にはありません。ぎちぎち。――ちなみにこの「ぎちぎち」というのは、私どもの一本腕の先にある六本の指が奏でる音です。気にしないように。ぎち。
 とにもかくにも今回のファーストコンタクトの話に入る前に、まずは私どもについて詳細をお伝えせねばなりませんね。私ども「ぎちぎち」は(仮にこう呼ぶことにしましょう)、とある恒星系の第二惑星にて発生した種族です。酸素と水の豊富なこの星にどうやって生まれ落ちたのかは「神」のみぞ知ることですが。その発生は大陸ではなく、海の中とされています。ぎちぎち。
 活発な火山活動により、惑星には鉱物資源が豊富に存在しています。それら鉱物――中でも酸化系物質と、一部の海中植物とを主食にする生命体が、私ども「ぎちぎち」でした。やがて進化の過程を経て、陸上へと生活空間を移すようになったときには、すでに寿命500第二惑星年の肉体を持つようになっていました。
 扁平な胴から六本の足を伸ばし、上面中央にぐるり360度ついた視覚と聴覚を持ち、さらにそこから自由度の高い多関節の腕を一本生やしています。それらは全て、強固な外骨格にて覆われています。ぎち。取り込んだ植物は体内活動のエネルギーに変換されるのですが、一方鉱物はというと、私どもの持つ六つの胃の中でその消化を助けます。いわゆる消化触媒としての機能があるようですが、鉱物自体はエネルギーに変換されることはありません。ではどこに費やされるのかというと、外骨格の形成に利用されます。私ども「ぎちぎち」は、鉱物を取り込めば取り込むほど、その外皮を肥大化させることのできる特性を持っているのです。もっとも、限界はありますが。ぎちぎち。
 ところでその特性には、私ども「ぎちぎち」の文化構造の柱ともなる重要な要素が含まれています。それは、外皮表面を自在に削ることが可能であることと、取り込んだ鉱物によってその色彩が変化する、ということです。
 かつて私どもが海から離れ大陸へと住むようになったのには、大きな理由がありました。より貴重で新しい鉱物を摂取したい、という欲望があったからです。――すなわち、外皮をより素晴らしいものにするために。
 このことから、昔は海中植物を栽培する海岸線に住む一派「ファーマー」と、火山火口近くで鉱物資源を採掘する「マイナー」というふたつに別れて生活空間を形成していました。二つの派は常に相互関係を持ち(時には対立したこともありましたが)、鉱物と植物との交易を行ったり、いつしか二つの場を行き来するひとつの種族となりました。鉱物を求めて火口で生活するのが主流となり、しかしまだ生まれてまもない外皮のやわらかな頃は、危険を避けてファーマーの農場で生活をしたりするサイクルができたのです。鉱物を摂取し、外皮を成長させることが、昔からの私どもの尽きない欲求だったのです。ぎちぎち。
 それはやがて、私どもの最も大切とする感覚、「おしゃれ」へと発展を遂げます。私どもは誰もが他の個体よりも珍しい鉱物を取り込み、色彩を変え、オリジナルな表面装飾を彫ることを好むのです。ぎち。
 そんな折でした。軌道上に建設した観測施設が、およそ10光年離れた場所に生物居住可能な「惑星系X」の存在を発見したのは。
 しかもその第二惑星には、酸素と水があることが観測によって確認されました。新たな酸化物を摂取できる可能性に、私どもは誰もが心躍らせたのです。ぎち。
 ――こうして、志願した100名程を乗せた宇宙船が、「おしゃれ」追求のために発進することとなりました。宇宙船の速度では、片道およそ50年の距離です。寿命が500年ある私どもには、不可能な年数ではありません。ぎちぎち。やがて私どもの宇宙船は、惑星系Xの第二惑星軌道上へと到着しました。
 そんなとき。唐突に、事前調査にために送り込んでいた探査機からのデータに次いで、ある規則的な信号を受け取ったのでした。ぎちぎち。
 私どもの視覚は、X線のみ捉えます。これは鉱物資源と、その鉱物を吸収する特殊な植物のみを食す我々にとって、都合の良い機能なのです(補助的には超音波も使いますが)。
 コンピュータを介しての画像解析が三次元銅板を使って、信号を立体的に打ち出しました。そこには奇妙な、意味不明の模様が刻まれていました。さらに探査機からのデータは、惑星上に動くものの存在を捉えていました。これはいったい、どういうことなのでしょう?
 みなさんは、もうおわかりですね。そう、私ども以外の何らかの知的生命体が、あの惑星に存在するということなのでした。ぎちぎちぎち。
 私どもはその事実を前に、しかし動じることはあまりありませんでした。相手側がコンタクトに関して受動的であったこともありましたが、何より私どもの主な目的は、多種族との接触ではなく、あくまで「おしゃれ」のための鉱物資源の採掘だったからです。私どもは遠慮なく惑星上に着陸艇で降下し、採掘を始めたのでした。採れる酸化物は、なかなか美味でございました。
 ところが、ふと気が付けば。小さく奇妙な生物がたくさんこちらにやってくるではありませんか。しかもそれはどうも、あの送られてきた信号の、奇妙な模様に似ているのです。
 それが「彼ら」とのファーストコンタクトなのでした。ぎちぎち。
 「彼ら」はある植物性物質を差し出し、体内に取り込んで見せました。そして同じモノを私どもにすすめてきます。明らかに、友好関係を築きたい、という意思の表れでありました。
 そこで私どもも、いえ、代表で私が、植物性物質を食することになりました。あまり美味ではありませんでしたが。
 お返しに、私も採ったばかりの酸化鉄を食してみせて手渡しました。……もっとも、彼らに鉱物を消化できる機能はないようでしたが。ぎちぎち。
 ――こうして、「彼ら」とのファーストコンタクトが友好に終えられたのです。向こうはなぜか、こちらを「カ・ニ・モドキ」と呼びます。私どもは話し合いの結果、「彼ら」を「アルク・イル・カ」と呼称することにしました。古代点字語で、「殻を持たない小柄な者」の意味です。ぎち。
 しかし、「アルク・イル・カ」たちとの関係は、これからも友好的であることを望みます。私どもの鉱物の採掘が、スムーズにできるように。
 サンプル採掘を終えた後、私どもは再び一度、母星へと帰還します。その際には、この50年の宇宙の旅でふいの病で死亡した、船長の亡骸を残していこうと思います。私どもの肉体は、歳経る事に鉱物の占める割合が多くなり、死骸は有機細胞の腐敗した後もそのままの形を保っています。かつての風習に従い、死骸を親しい仲間内で分け合うことが親愛の情なのです。ぎちぎち。
 ですから、志半ばで倒れた船長の亡骸は、ぜひとも「アルク・イル・カ」たちに受け取ってもらうことにします。もちろんその表面に、「彼ら」の送ってきたあの奇妙な模様を豪華に刻みつけて。
 「アルク・イル・カ」たちも、きっと喜んでくれることでしょう。ぎちぎち、ぎちぎち。
 私どもも「彼ら」も、数多の選択肢の中から偶然を経て生み出された、遠い世界の生命でした。しかしこうして遙かな距離を越えた出会いを生み出した「神」の存在に、今日という日を感謝します。このファーストコンタクトを、素晴らしいものとするために。
 ……それはそうと、これは多種族と交わった後に知ったことなのですが。彼らにとっての可視光線領域が、私どもにとっては不可視光線であることには驚かされました。
 宇宙には変わった感覚器官を持つ生物がいるものですね。ぎちぎちぎち。

(山添紘司)