異星人1の初期設定としては簡単に書くと下記のことが決まっていた。
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居住惑星は0.8Gの地球型惑星。大気組成は窒素80%、酸素15%、二酸化炭素5%で、気圧は0.7気圧。
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大陸1つが惑星表面の3割を占める。残り7割は海。
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異星人1は酸素呼吸を行う炭素系生物で樹上生活進化した陸棲生物。身長70cm、体重10kg程度。
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卵生で両性具有だが2個体間で生殖行動し片方が産卵する。卵は成人が管理し子供は家族全体で育てる。幼体の死亡率は地球人より高い。
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家族集団(20~30人)で生活。
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肉体的な発声器官が弱いことと作業肢先端が触覚・嗅覚・味覚を持つことから、コミュニケーション手段は次の3方法。
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大変親密な間柄では、作業肢で相手に触れ、感覚的な情報伝達が行われる。
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家族・友人レベルであれば身振り手振り(踊り)で情報伝達が行われる。
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一般的な他人の場合は楽器による音(音楽)で情報伝達が行われる。(楽譜が文字に相当する)
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数万年後に母恒星が大変動する可能性がわかり、恒星間移民の可能性も含め対策検討に入り、数隻の恒星間探査船が近隣恒星系の探査に向かった。そのうちの1隻に我々は乗っている。
【異星人1の構築】
まず、上述の基本設定を元に、この生物がどのように進化し文明を持つに至ったかを検討した。ところで、この異星人1には呼称が決められなかった。ここでは「彼ら」と称することにする。
楽器によるコミュニケーションは後になってから得られた手段であると考えた。すると、初めは相手に触れるか身振り手振りが見えるかしないとコミュニケーションがなりたたないから、家族集団はあまり離れることがないようにしただろう。ならば、農業(周囲の植物を採取するというような意味だったと思う)で生活し、周囲に食料が少なくなると家族揃って次の場所へと移住していったのだろう。やがて、物をたたいて音を出すという技術を得た。これまで大声を出すことができず、遠く離れることができなかった彼らだが、音を用いることで離れてもお互いに連絡ができるようになった。そして、狩猟法や防衛手段のための音による通信を発達させた。また、その発達により、より集団の本拠地から、1個体が遠くまで出かけることができるようになった。1集団の行動範囲が広くなるにつれ、他の集団との接触も増えた。集団間では情報交換が行われ、場合によっては個体の集団間移動もあった。
この辺まで決まったところで、ひとつの問題が提示された。「20~30人の集団生活が主体なら都市化しにくいと考えられる。都市が発生しないのに高度な文明が発生するだろうか」 これに対して討議を続けた。
当初家族集団であった各集団は、集団ごとに得意技術を持つ集団に変化していったという案が示された。血縁による技術の伝承というのはありうることである。やがて、集団はギルドのような職業的集団へと変化していった。集団は集団そのものと得意技術の存続を重視する。しかし、中には生まれついた集団が有する得意技術になじまない者や他の技術に興味を持つものも存在しうる。彼らは集団を大切にするとともに、個体の意志も尊重する生物であると考えた。集団間での婚姻や他の職業集団への移籍は問題なく行われるようになった。このことは、職業集団の力も強めた。彼らは生物的に脆弱であり、比較的死亡しやすい。集団の中で同一技術を有するものが多ければ、だれかが急に死亡した場合でもその後を引き受けることができる。集団の存続のためには効果的である。こうして、各集団の目的・技術が細分化していき、特化した文化を形成した。各集団は離れて住んでいるが、集団間での情報交換は積極的に行われている。いわば、専門化したホームページ間で情報を交換しあうようなものであり、「原始インターネット文明」という表現が与えられた。
なんとか文明化してきたが、次の問題が提示された。「このようなひ弱な肉体の生物が大きな建築物など築けないのではないか。それでは宇宙船を製造して宇宙に進出できるとは思えない」 これに対して討議を続けた。
根本的な解決案は、「実は彼らには前文明があった。前文明は宇宙船を作る技術もあり、いろんな技術を遺跡や遺物として残していった」というものであった。彼らは好奇心が強く知性は高いので、前文明の残していった技術を学習したり模擬したりすることができた。こうして宇宙観察や宇宙進出の技術や機材を得たことになった。同時に、知識を拾ったりもらったりするのは当然であり、他人の情報を取得するのは当たり前、というメンタリティを持つこととなった。
これは後になってもうひとつの問題を生んだ。「前文明はどうなったのか。もし、先に恒星間に旅立っていっているのなら、彼らは前文明と接触する可能性も考えているはずだ」 これに対しては、状況を単純化するために、詳細な理由は省いたが、前文明は滅んでおり恒星間で接触する可能性はない状態となっていると結論した。
【接触】
異星人1の生物的特徴や文明について決まったところで、我々は異星人1となって、シミュレーションに臨んだ。以後は恒星系3に行った異星人1のことを「我々」と称する。
たった6万年先に生じると予測された母恒星の変動に備えて、彼らは移民先を模索中であった。我々の探索先の恒星系には居住に向く惑星はなかった。また、文明の痕跡もなく、新しい情報を得ることもできなかった。母星に戻るにしても他恒星に向かうにしてもこの恒星系での燃料補給が必要であり、我々はこの恒星系に数十年の滞在が必要であった。
我々がこの恒星系に到着してから20年ほどたった頃、10光年離れた恒星系の方向から電波を受信した。この時点で、燃料補給にまだ30年はかかる見通しであった。受信電波は有意信号で、素数9個を繰り返していた。あきらかにこの恒星系をねらっているようだ。この素数9個の繰り返しは、なんらかのメッセージのヘッダとも思われたので、1年間様子を見ることとなった。また、この件について母星へ連絡を発信するとともに観測態勢の強化を図った。その結果、信号の発信源を思われる恒星系には、ガスジャイアント4つ、岩石系惑星3つを確認した。岩石系惑星のうち2つはハビタブルゾーンにあると推定された。
1年後、2回目の電波を受信した。今度のは前回の電波に加えて、赤外線領域の2回線のチャンネルで素数18個が送られてきた。相変わらずヘッダだけで内容がない。我々は知的好奇心が旺盛で情報交換に積極的で他者から技術を得ることを当然と考える特性を有する。その上移住先を心から求めている。よって、この知的生命体からと考えられる通信に返答し対話を開始し我々に必要な情報を得ることとなった。そこで、送られてきた2回線のチャンネルを使って素数18個をヘッダとして、素数×素数のドット絵となるようにして次の内容を1年間送信した。
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星図の中で恒星系2(異星人2)を強調した絵
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星図の中で恒星系3(今我々がいるところ)を強調した絵
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星図の中で恒星系1(我々の母星)を強調した絵
これらにより、我々の母星の位置を示すことができて、相手が我々の母星を観測して我々の危機に気がついてくれる可能性も考えた。
さらに観測を重ねた結果、恒星系2のハビタブルゾーンの惑星は、1つは水陸比7:3、表面平均温度16℃、表面重力1G、大気組成が窒素70%酸素20%で、もう1つは表面平均温度-100~-80℃、重力0.5Gと判明した。前者なら我々の移住に適しているし、後者でもなんとか惑星改造すれば住める可能性があった。
さて、この辺りで参加者は、最初の通信が届いてそれに応答があるのは早くても20年後だという事実を、実感として理解した。ただ待っていても、内容としても企画としても全然先に進まないではないか、と。そこで、内容としてはこちらから次々と情報を送ることとし、企画としては速やかに年月が流れたことにすることにした。最初の電波を受信して2年後には、自画像、自分たちの大きさ、生化学特性(摂取食物)、周期律表を送信した。3年後には我々が母恒星の変動を予測していることと移住先を探していること(でも侵略の意図はないことは強調したい)を伝えるため、星図を用いた表現を考え、送信した。
そうこうしているうちに20年がたち、ついに我々の通信に対する返事が来た。やがて「どうぞ来て下さい」と取れる通信が来た。我々は喜んだ。だが、そこについていた音楽についてはさっぱり理解できなかった。そして、その1年後に来た通信に驚いた。友好的な前回の通信と比べ、恒星系の領有宣言をしているような排他的な内容に思えたからである。
だが、燃料補給ももうすぐ終わる。我々は移住先を、そして情報を求めて旅立つことであろう。
(阪本礼子・小鯛亜紀)