ドライカレー

小林[オールナイトフジLD化希望]英明

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

 昔も今も、宇宙船での長期生活はなにかと大変である。人間は酸素や水・食料を摂取し、同時に(と言うと誤解を招くが)様々な物を排出する。従って居住空間の汚染を防ぐために各種の装備が必要になるわけである。本稿では航空宇宙軍が採用するはずだった改良型トイレットに的を絞って説明しよう。

36000キロの『ぐしゃっ』

 一般に艦内のトイレは『汚物を吸水−水分を回収−残りを処分』というプロセスをとるが、脱水用の装置は簡単なものなので、大便はほぼそのまま捨てられることになる。
 これに疑問を抱いたのが、航空宇宙軍技術研究所の水道橋博士であった。博士は「水分を含んだままの大便を捨てるのはもったいない」と唱え、2117年に脱水能力強化トイレ・ト1号を考案した。だがこれは艦政本部に「艦用トイレの原則(小型軽量で小電力)に叶っていない」と反対され、ペーパープランで終わった。

めでたい方程式

 しかし関係者の中にも慧眼の士はいた。爆雷の権威・玉袋筋太郎技術少佐がト1号の可能性に着目し、水道橋博士と共にト2号の試作を始めたのである。彼が考えたのは、大便を完全に乾燥させて時限起爆装置と共に投射する事であった。
 つまりト2号、排泄処理装置と爆雷の製造/投射を一元化したシステムなのである。長所としては…貴重な水分をより多く回収できる・製造と運用のコストが低い・信頼性が高い…など、短所の方は…爆散スクリーンの有効面積が小さい・一度投射すると再使用まで数十日を要する…など、本来の宙戦用爆雷に比べて運用上の制約が大きいことが挙げられる。もっとも「どうせ捨てる物なら敵のいる方に投げてやろう」というコンセプトの補助兵器だから、あまり贅沢は言えない。
 ここで研究資料の中から、改装後のゾディアック級フリーゲート艦にト2号を搭載したケースの試算結果を記してみよう。乗員56人が1日に240gづつ大便を出し、その7割りが水分とすると、60日間で250.56kgの固形物ができる。これが投射されて爆散した場合、破片一個は0.02g、爆散同心円の直径が2.7kmの時の破片密度は1.5個/m2となる。
 さて、開発の途中で一つ難問が生じた。大便塊を火薬で吹き飛ばした場合、破片の大きさが揃わず、爆散スクリーンがうまく展開できないのである。したがって投射前に大便を適当な大きさの粒にしておく必要があった。このための技術の確立が、開発の一番ネックになったという。

県立宇宙防衛軍

 完成したト2号は海兵隊駐屯地に持ち込まれ、テストが始った。この場所が選ばれたのは、航宙艦での実験に不安があるのと、海兵隊基地なら(大食漢が揃っているので)短時間に多量の排泄物を都合できるためであった。ここでは試験運転と並行して、隊員の食事内容および生活パターンの研究も行なわれていた。つまり、大便の特性や単位時間あたり排泄物とト2号の運用の関係を調べていたのである。
 余談…当時、フリーゲート艦勤務の海兵隊員を「無駄飯食い」などとからかう連中がいた。彼等はト2号の話を聞いて「それが艦隊に導入されたら、海兵隊員の飯も無駄じゃなくなるな」と、下品な冗談をとばしたそうである。

拘束戦隊ボンテージ

 テストは順調に進み、トラブルの類も、機体を熱や電磁ノイズにさらす実験でポンプ制御コンピューターが暴走した他十数件しか発生しなかった。ところが技術研究所と艦政本部は、、なぜかト2号に対して「役に立つわけがない」、「きちがい」などと否定的な態度をとり続けた。
 その結果ト2号の予算は、研究途中でなんと全額カットされてしまった。直接の原因は、ト2号から大腸菌混じりの水が出て駐屯地の飲料水に流入、集団食中毒が発生、という事件であった(これはト2号に脅威を感じたSPAの、同機の配管への破壊工作と判明した)が、艦政本部の頑迷な『エリート』達はたったそれだけの理由で開発を中止に追込んだのである。

バーザーカー
川俣軍司

 かくしてト2号は実用化されずに終わった。しかし、海兵隊員の排泄に関するデータが改良人間(俗に言うサイボーグ兵士)計画に活かされた例でも判るように、関係者一同の努力は決して無駄にはならなかったのである。

ト2号の概念図

 ト2号には、脱水方式の違いによって、甲型(遠心分離式)・乙型(吸着式)・丙型(噴射式)があった。

甲/ ヒーターで大便の水分を蒸発させる。カプセルは常に回転してGを作っており、大便は重い固形物(高周波振動で小さく砕く)と軽い水蒸気(ポンプで吸引する)に分離される。

甲型

乙/ 大便は除湿剤を通り、カプセルに入るとくには充分に硬くなっている(やはり振動で砕く)。除湿剤が水をいっぱいに吸ったら取外し、触媒利用の復水器にかけて水分を抜く。

乙型

丙/ 高温ガスを満たした部屋に大便を噴射し、瞬間的に乾燥させる。つまりインスタントコーヒー製造の要領である。

丙型

 甲・乙型は艦の主機から廃熱を導いている。

 いずれの型も、カプセルが一杯になるとコックが切り換えられ、排泄物は一次脱水器を通っただけで艦外へ捨てられる。
 カプセルの開口部には、噴射直前には閉る蓋がある。また、図では省略したが、機体各所に強力なポンプが付いている。

 そんなわけで私が、SHADO のエリス中尉と小田茜の区別がつかない小林です。このトイレの名前ですが、適当なのを思いつかなくて、書類の略号みたいになってしまいました。なにか良い案は無いでしょうが。ほんじゃね。
 今月の標語『キウイ一升、毛が一升』




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