CONTACT Japan 3 異星人設定資料

生物・地理

ナユリンの基礎生物学

 基本的な生化学は地球のものと似ている。炭素を基盤とし、蛋白質を水溶系で用いている。しかし、各々の蛋白質のほとんどは我々のものとは異なっており、簡単な有機化合物を除く他の全ての物質も異なっている。生物のほとんどは、地球でそうであるように特殊化した細胞群によって作り上げられている。(ミトコンドリアや葉緑体などの)細胞内小器官や、遺伝物質を含むその他の細胞内部の構造は、我々と似たような機能を持っているが、細部は非常に異なっている可能性がある。
 地球の場合、生物は二つか三つ、あるいは五つ以上の「界」に分けられているが、ほとんどの人々にとっては最もはっきりわかるのは植物界と動物界である。ナユリンにおいても二つ以上の「界」が存在するが、我々は植物と動物についてだけ議論することにしよう。残りの部分に分類されるものは、個体数でも実際の量でも最も多いのではあるけれども、大きさがとても小さいか、隠れているかしていて、我々の目には触れない。
 似たような条件と似たような難問は似たような結果を産む。収斂進化現象である。例えば、地球の昆虫や、は虫類、鳥類そしてほ乳類はお互いに全く無関係に羽を発達させてきた。またクジラ目や彼ら以前に存在した海棲恐竜は、魚類と同じような外見をしている。また「眼」は幾つかの「門」においてそれぞれ独自に発明されてきたと考えられている。実際のところ、カニの眼は蜂の眼とはとても異なっているし、両者はマウスの眼とも異なっている。魚類の尾鰭は鯨の尾鰭とは違った風に働いているし、蝿、翼竜、鳥類、コウモリの羽は全く似ていない。
 このことは進化のおおもとから我々と独立しているナユリンの生物の場合でも依然として通用する。地球の海藻、草、虫、魚、は虫類、ほ乳類などの様に見える多くの生物がナユリンにも存在するが、全く同じものはない。おそらくナユリンの生物のあるものは、我々が今までに見たことのないものであっても、まるで地球のものであるかのように見え、その行動さえそう思えるだろう。がしかし人間の目で見ただけですら数え切れない奇妙な点がわかるだろう。解剖や化学分析は更に多くの違いを示すだろう。そしてそれらは、地球ではそう長く生き延びることはできないであろう。
 であるから、樹木類似物、魚類類似物、ほ乳類類似物などを表現するために「〜類似物」という語尾を使うことにする。そして細かい点における多くの違いのうちの幾つかを示すことにする。個々の生物については、のちほどの章で特定の名前を付け、描写を充実させてゆくことにする。
 「動物」や「植物」という言葉は恐らく、大体の条件が地球に似ている多くの惑星における生物に使うことの出来るような、幅広い意味を持った言葉である。
 地球の場合と同様に、ナユリンのほとんどの植物は光合成をする。つまり太陽光のエネルギーを使って二酸化炭素と水をもっと複雑な化合物に変換し、その過程で遊離酸素を放出する。また、ほとんどの動物はこの反応の逆、植物の体組織(または他の動物)を消費して、その代謝の過程で水と二酸化炭素を放出する事によって栄養を得ている。死んだ生物体の腐敗も同じように作用するが、岩石の風化はこの二つの物質(水と二酸化炭素)を結びつける。これら全ての相互作用により地球のものに似た大気が維持されている。地球と同様に大気の組成は正確には時代によって変化しているが、地質学的な長い時間で見ると、一般的に変動は1%以下であった。
 ナユリンの植物の光合成に関する重要な分子は葉緑素(クロロフィル)に似ているが、全く同じではない。普通の葉の色は緑ではなく青色である(エネルギー的な観点からすると、これは緑よりも効果的な色である。特に恒星ラヒの放射が青領域で太陽よりも少ない場合には)。もちろん、ちょうど地球と同じように、葉の陰影と色調はつきることなく、幾つかの植物の葉は普段、茶色や黄色、あるいは赤で、緑のものさえある。地球の草本に該当するものは無いが、多くの植物群が地面を覆ったり、土壌に張り付いて芝生のような役目を果たしている。あるものはクローバーのように群落をひろげ、あるものはヒルガオのように大地をうねうねと伸び、あるものはサクラソウのように基部から座葉を形作っている。低木類似物や、樹木類似物は高く成長し、蔓植物類似物はツタのようにからみつく。それらの葉はいろんな形をしているが、我々の知る基本的な設計に従っている。生殖のための花類似の構造もあり、それらは新しい世代が生命活動を始めるための充分なエネルギーをためておくための種や果実を伴っている。それらの多くは、動物の栄養源として価値が高いことを利用して種の散布を行っている。
 我々の生物学との一つの違いは脂質(脂肪と油脂類)の高度な利用である。地球では、大豆やココナツのようないくつかの植物が種子や果実に脂質を豊富に含むが、ナユリンでは、ほとんどの植物が豊富に含んでいる。茎や幹にすら脂肪分を取り込んでいることも多い。これはもともと、地軸の変動により極領域が広がる時代に保温とエネルギー蓄積のために進化してきたものだが、現在では惑星の全領域で見られる。ほとんどの動物や高等生物は脂質を直接代謝してエネルギーを得られるようになっている(地球の動物では、脂肪はまず最初に糖分に変換される必要があり、効率が悪い)。この必要を満たすため、酵素やその他の因子は地球のものと全く異なる。
 今日我々は、どれほど密接に地球上の生命がお互いに、また惑星自体とも結びついているかについて気づき始めたところである。ナユリンにおいてはさらに密接である。およそ一万年の「住み良い時代−生存しにくい時代−住み良い時代」の短いサイクルが共進化を地球の場合よりも強く推し進めている。
 おそらくナユリンの霊長類(アネカワン)が関係するものの中で最も重要な例は、ウナドワ(childwort,子供草)と呼んでいる植物群である。(wortは古い英語で「ハーブ」を意味する)この植物はナユリン全域で生育している。その起源は古く、いくつもの地質時代を遡った昔であり、大陸の移動によって全世界に分布することが可能になったのである。当然、この植物は多くの違った種に進化していった。その中には数センチほどの大きさのものから、1mを越えるものまでが含まれている。ウナドワは普通群生しているが、その群生地は森の端から流水のそばまで、幅広く分布している。高緯度地方では秋に花を付けるが、その小さな花は枝分れした華奢な茎の先端に咲き、幾分オミナエシに似ている。熱帯でも季節を選んで開花するが、それは温度や昼の長さよりも降雨のパターンの方に依存している(降雨量の変動のパターンはナユリンの方が地球の場合よりも著しい)。彼らは昆虫類似物によって「受粉」し、その種子はノアザミのような冠毛によって広くばらまかれる。その典型的な色は、ノアザミのような明るい紫がかったピンクであるが、その色はナユリンの支配的な社会において多くの暗示的な意味を持つ。
 その芳香は、高等動物にとって吸入するとフェロモンのような効果を持つ物質を含んでいる。この物質は非常に低濃度で高等動物を繁殖へと導く酵素的、生化学的反応の連鎖をひき起こし、生殖を可能とするのに十分(必ずしも必要ではないが)効果がある(性衝動には影響しない)。別の言い方をすれば、ウナドワが咲いているときは繁殖の時期だ、ということである(少なくとも、近年になって科学技術によってウナドワのフェロモンが合成できるようになるまではそうであった。フェロモンの人工合成は地球における安全で安価な人工避妊法の開発よりもずっと革命的な事であった)。
 この関係は、環境が悪化したときに起こる悲惨な個体数過剰による破滅を防止するために、進化によって選択されてきた。破滅は一度閾値を超えると、とかくすばやく起こる。熱帯の南、あるいは北の領域を考えてみればよい。二、三千年の間、気候は良好であった。大地は肥沃で、あらゆる種類の動物がその数を増やす。その後、気候が寒冷化し、嵐がひどくなってくる。生存が次第に困難になってゆき、そのうちに多くの地域で生存不能になる(極地の環境に適応した動植物は、その領域を拡大するが、以前の住み良い環境が失われたことの慰めにはならない)。
 ウナドワは環境の悪化と歩調を合わせて死に絶えてゆく。死滅は一晩の内に起こるわけではなく、数世紀の間に起こる。最も環境の良い地域の外側でウナドワの木立は小さく疎らになってゆき、開花期のその芳香はだんだん薄くなり、生殖は減退する。そのため個体数はそれをまかなうことのできる資源に応じた数にとどまる。移動可能な草食獣はウナドワが咲かない極地へも移動することができるが、繁殖のためには氷河から戻ってこなければならない。一年中氷の側で暮らせるのはウナドワを必要としない原始的なもの(地虫類似物、昆虫類似物)である。そして地軸の傾きが収まれば、(霊長類アネカワンを含む)高等生物は、繁殖する地域を以前の場所まで拡げてゆく。
 アネカワンの歴史上、数度の飢饉あるいは飢えた地域の部族がより快適な地域を侵略することがあった。アネカワンは滅多に飢饉を起こさない。凶作が繰り返される時代には子供の数が世代を重ねるたびに減少していく。そしてそれは四季と同じく自然の秩序であること、天国のような時期がふたたび来ることを知っていた。このような周期のため、彼らは四季と同じくこの周期にも応じた宗教その他の制度を作った。熱帯に住むものたちはその周期に違った影響を受け、また違った文化や信仰を発達させた。
 地軸の傾きが収まり環境が改善するにつれ、動植物はその領域を高緯度地方へと再び拡大してゆく。これらは全て数千年をかけて起こることである。多くの歴史的事件がこの間に起こる。ウナドワの盛衰に影響されない動物は、悲惨な人口爆発を起こす。この種の動物には海棲の動物が含まれる。しかし多くの海の動物にとっては、地軸が大きく傾いている時期は生存に有利である。なぜなら地球で起こっているのと同じように、冷たい水は多くのミネラルを海底から彼らの生息域に運んでくるからである。
 地球種の脊椎動物が四つの肢を持つのは単なる偶然ではないと考える理由がある。魚類の祖先が体を横に波打たせて泳いでいたため、そのサインカーブ上の最初の二つの作用点にある一対の鰭が他の位置にある鰭によりも優位になったのである。六つの鰭は乱流をおこすだろうし、八つは不必要であった。だからそれに対応するナユリンの動物も魚類類似物の鰭から進化して陸に適応した四つの肢を持つことにする。ただ、地球のティラノサウルスや鯨のように、何本かの肢の小型化や萎縮が起こった動物種も多い。骨格や神経構造は全般的に地球の生物に似ている。骨でできた頭蓋の中に脳があり、柔軟な脊柱の中に脊髄がある、等々。頭部には二つの目、二つの耳、二つの鼻孔を持つ鼻が一つ、蝶番状に繋がった下顎を持つ口が一つ。これらの外見上の相似は多くの相違点を覆い隠している。
 昆虫類似物は背骨を持たない生物で、数が多い。小さい重力のため、彼らは地球よりも大きくなることができる。飛行するものの多くは華やかな羽を持っている。それらはしばしば長い距離を移動し、その旅のために数世代をかける。たとえば、オオカバマダラは夏期の居住地から冬季の居住地までの移動に数世代を必要とする。ウナドワに影響を受けてはいないが、彼らは幅広い潜在的な多様性を持つ。それは環境に従って遺伝子を発現することで発揮される。地球では例えばアフリカイナゴは1世代、一週間程度で小型の孤立型から大型で破壊的な群生型に変わることができる。
 潮汐力によって膨張した海水の移動が大きな干満をもたらす地域は、生命が豊かに存在する。なぜなら潮の動きが海底から豊富なミネラルをもたらすからである(これは、ナユリンの熱帯で起こる。地球の場合、熱帯では深部の水が少ない)。このような地域は特別な種の住処になっている。例えば、波間を行き来する昆布類似物、干潮時には水を汲み上げる大きなコロニーを作る二枚貝類似物、大きな潮だまりの上に繁茂している植物などである。多くの種類の草食動物と肉食動物が(背骨の有無に関係なく)ここで餌を採るが、その中には空気呼吸するイルカ類似物を含む。ただし地球の鯨ほど大きな生物はいない。
 動物は一般的に単性で両性具有である。このことは霊長類の時に細かく説明することにしよう。外温性(「冷血」)のものは熱帯と低緯度地域に封じ込められているが、部分的内温性(「温血」)を発達させたものはこの限りではなく、魚類類似物はもちろん違う。陸生のものの中には、地軸の傾きの小さいときにかなり高緯度までへと達するものもいるが、地軸の傾斜が増すにつれて彼らの生活圏は急速に縮小する。
 ほ乳類類似物は、もちろんほ乳類ではない。彼らは内温性で体毛があるが、数え切れない相違点がある。中でも生殖システムは、最も明らかな相違である。このことは霊長類の時に細かく議論することにするが、霊長類についての事実の多くは一般に他のほ乳類類似物についても当てはまる。羽毛のあるものは存在しないが、多くのほ乳類類似物が地球のコウモリのように空中に進出し、その数や種類はとても多い。その全てが胎生で、幼体に穀物のミルク(crop milk)を食べさせる(後で説明する)。嘴を持つものはいないが、顎が長く伸びて針状の歯を持つものは多い。脂質代謝は糖代謝に比べて多くのエネルギーを提供するので、地球の鳥のどれよりも大きいものも少数ながらいる。10mもあった翼竜、ケツアルコアトルス・ノースロッピを越えるものはない。彼らは羽毛を持たないが、同じようによく適応した操縦翼面をもっている。
 陸上に住むほ乳類類似物は、地球に今まで存在したものと同じくらい多様性に富んでいて、小さなマウス類似物から巨大なマンモス類似物にまで及ぶ。コウモリ類似物を含むある種のものは、植物と同様に家畜化されてきた。しかしながら、ナユリンには馬、犬に相当する動物は存在しない。このことが、ナユリンの歴史を地球のものとはとても違ったものにしている。地球との間には数え切れない違いがあるが、ナユリンには角を二つ持つ動物種は存在しないことも挙げられる。角を持つ動物は一本だけ持つ。その角の大きさや形は種によってさまざまである。角を持つ動物の中には蹄を持つものも持たないものもいる。

霊長類(アネカワン)

 知性のある種族は自分自身をアネカワンと呼んでいる。彼らの先祖は樹上生活よりも穴居生活を送っていたが、アナグマやモグラのように前足を特殊な形に進化させることはなく体は巨大化し、二足歩行となっていった。このことによって彼らは乾季の背の高い草原をより遠くまで見渡すことが出来るようになり、またより広範囲を効率的に動きまわれるようになった。
 器用な手の進化に一役買ったのはオキ・ボボワ(fingerfruit、指でつまんで食べられる果物)とよばれる木である。その木はココナッツにいくぶん似た大きな、非常に栄養価に富んだ実をつける。しかしその実はココナッツのような一重の殻ではなく、部分的に重なって組み合わさった沢山の房でできているため、簡単にはずすことはできない。しかし十分にひねって、てこの要領で引けばこじあけることができる(それぞれ果肉を包みこんだ一つ一つの殻は実は、それ自体が一つの種を内包した一個の果物なのである。この果実は木から落ちたあとはずんで転がり、最後には落ち着いた場所で自然にバラバラになっていく)。
 大きな獲物を狩ることはほとんどないが、アネカワンは雑食性である。そのためのちに群居地を形成した極地地方のような特殊な地域をのぞけば、石器時代のアネカワンにとって普段は植物を採集する方が狩猟をするよりも重要だったように思われる。
 アフリカからアジア、ヨーロッパに直立猿人が広がっていったように、アネカワンの太古の先祖達は氷河作用によって海面が低下し陸続きになった時に、ニアサイドにある彼らの発祥の地からゆっくりと惑星の大部分にひろがっていった。知能が十分に発達してからは、いくつかの社会で小船が発明され、熟練した船乗りが生まれた。大きな湖の潮の満ち干きやイカロミの引力による潮の隆起の周辺部分で経験を積み、腕を磨くことによって、最終的には海を渡る船が現れ、その乗組員と乗客達は地球のポリネシアン達と同じようなやりかたで偉大な航海をなしとげ、新しい土地に渡っていった。
 このような航海はおおむね温和な、地軸の傾きの少ない時期に行われた。地軸の傾きが増加すると氷が極地や山頂から広がって大地をおおっていき、また世界中で嵐が多くなるため、旅は中断されるのが普通だった。時が経つにつれ、旅の技術が失われることも多く、のちの時代に再発見されるとは限らなかった。実際、歴史の最も初期には人々の多くは彼らの土地以外のことはほとんど何も知らなかった。イカロガ(ニアサイド)はケジロガ(ファーサイド)の存在を知らず、ケジロガもまたイカロガの存在をしらなかった。気候のいい時期は明暗境界線(それぞれの半球の境界線地帯)の北の海峡と南の多島群を超えて旅することが可能になるが、天候が悪化する時代に航海は何度も中断され、文字を発明する以前の時代の人々は何世紀もの時を経るにつれ、航海に関する知識を失い、その痕跡を神話や漠然とした伝統にとどめていくのみとなっていった。
 さてこれからアネカワンについて語るとしよう。人類もそうであるように彼らにも人種や個人によって相違があるが、我々の目にはその差異はわずかなものである。我々のバリエーションが彼らにとって重要なほどには、彼らの差異は我々にとって重要ではない。この世界の典型的な万物の霊長についてこれから述べるとする。
 第一に、彼らには性が一つしかないにもかかわらず、というよりもむしろ二つの性が一人に備わっているのだが、代名詞が必要となる。英語の“彼(he)”や“彼女(she)”はまったく正しくなく、“それ(it)”も誤解をあたえかねない。我々が異星語の適切な言葉を正しく理解するまでは‘heesh,hiser,himer’を主格、所有格、目的格として使用する(日本語の翻訳ではどちらの性を三人称で呼ぶときも“KA”という音を含むため《“KARE”“KANOJO”の“KA”》“か”を使えばいいのではないかと思います。

 *訳注:日本語では漢字が必要なので、ここでは「彼」、「彼女」で彼(女)と表記することにします。「か」と読んでください)。

アネカワンの外見

 彼(女)はある意味日本の昔話に出てくる狸に似ている。脚は、短くがっちりとした人間の足に似ている。接地部分は広く、両側に大きな足指があり、その間により長くほっそりとした三つの指がある肉肢になっている。同じく手にも両側に親指があり、その間に指の付け根の関節を含んだ三つの関節のある三本の指が備わっている。足指にも手の指にも我々のものと本当に良く似た爪がそなわっている。胴体部分は厚みがあり、いくぶん腹部のふくらんだ豊満な体型をしている。みごとな脂肪層が筋肉と皮膚の間にある。アネカワンの平均身長は1.4mであり、平均体重は50〜60キロである(彼らの重力下ではこの体重は42〜50キロとなる)。
 頭部は大きく丸く、耳はこころもち高めのところについているが、額は我々と同じように高く、鼻口部はきわめて低く少しとがっている。そこには鼻の穴はもっと広いが、猫の鼻を思わせるオレンジ色をした鼻がついている。唇は猫のもののように薄く、やはりオレンジ色をしている。歯は白い。我々の歯との相似はきわめて表面的なもので、特に小さな門歯と大きな糸切り歯の後ろ、人間なら小臼歯と最初の臼歯があるところに、猫に似た裂肉歯がある点が大きく異なっている。猫と違う点は、裂肉歯の奥に一本の大きな臼歯があることだ。
 舌も我々のと同じような機能を持っているが同じような形はしておらず、発声システム全体はきわめて異なっている(それにもかかわらず、アネカワンは日本語と英語を話すのに適した音を出すことが出来る。なんといってもオウムさえそのような音の大部分を出せるのだ。コンタクト時点で、偶然にも彼らの主言語には日本語の中にない音は含まれていない。したがってひらがなやアルファベットでの発音表記が可能である)。目は緑がかった黄色から琥珀色の金までのバリエーションに富んだ黄色の色彩をおびている。
 皮膚にはほとんど色素がなく薄い象牙色をしており、毛が体の大部分をおおっている。顔、首の前面、体の前面や、手のひらと足の肉肢の内側には毛が生えていない。腹部の下のほうには皮膚と筋肉のひだがあり、その両側は普通つながっているため、外見上は約10cmのひだが水平に走っているように見える(このことについては生理機能のところで詳しく述べることにする。生殖器がその中にある)。
 肌が露出している部分のすぐそばの毛は短く美しいが、体の後面にいくにつれて長く重くのびていき、頭頂部から短い尻尾の先まではたてがみとなっている。頭の後ろの部分から少し低くなった首の部分までのたてがみが一番高く、最大で15cmほどの高さとなっている。毛の色は個人によって様々であるが人種との相関関係はない。色は茶色、栗色、赤褐色、金、白までの幅がある。たてがみ部分の毛は暗めの色彩をおびるのが常で、体毛が茶色なら黒、栗色や赤褐色なら暗褐色、金色なら赤褐色、白なら金色のたてがみとなる。
 たてがみの毛はリラックスしている時には平らに寝た状態だが、裸皮がいくらかまでふくらんだ時にはほとんど垂直まで立ち上がる。しかし体全体の毛が同時に、また同じ位に立ち上がることはない。ゆえに毛やたてがみはどこでもボディランゲージの一種として感情の状態を示す方法となっている。顔から腹部にかけての毛の生えてない肌の部分は、人間の顔のように赤くなったり青ざめたり、まだらになったりしてより一層の感情をあらわす。アネカワンは完全には無理だが、いくらかは皮膚や毛のコントロールが可能である。
 衣服が発明される以前は裸の肌が陽で焼かれたのではないかと思うかもしれないが、この星の恒星の紫外線は地球の太陽よりも弱く、加えてこの星の生命体は概してより高い放射線バックグラウンドに適応している。
 生理機能に関してのべると、アネカワンと我々の間には非常に多くの相違があるが、基本的な構造はほとんど同じである。内骨格をもち、脳と神経組織、心肺組織、消化組織等がある。我々と同じく空気、水、食物への基本的な要求もある。もちろん彼らの食物は我々にとって栄養とならないし(我々の食物もかれらにとっては栄養とならない)同じような方法で消化されているわけではない。人間の肛門と同じように液体と固形の廃棄物を排出する穴が一つだけ体の底にあり、人間のものと似た括約筋が内部と外部に備わっている。地球の鳥類の場合と同様に、液体の老廃物に含まれる水分の大部分は循環システムに再取り込みされ、固形物が腸管に送り込まれる。排泄物は鹿のもののように小さく硬い。彼らは恒温動物であるため水分を蒸発させることにより体温を調整しなくてはならないが、それは主に毛のない肌の部分でなされ、背中の毛皮の部分が汗でぬれることはほとんどない。
 血液は我々のように鉄を基質としている。酸素分子を摂取するのはヘモグロビンでなく、赤ではなくオレンジ色をしているためオクログロビン(ochroglobin《ochreは黄土色》)と呼ばれる別の化合物である。黄色みがかった脂質が血液の循環システムの中に普通にみられる(我々と同じように彼らも様々な病気にかかりやすいが、アネカワンがアテローム性動脈硬化症に悩むことはない。その理由はただ、ある部分では彼らはまったく我々とは似ておらず、我々も彼らに似ていないためである)。したがって顔の赤らみは人間ほどあざやかでなく、もっとかすかで様々な色合いに富んでいる。
 全体としてもっとも驚くべき我々との相違は生殖である。アネカワンは惑星上の大抵の脊椎動物と同じように両性具有であるとすでに述べてあるが、繁殖のためにはウナドワ(childwort、子供草)が咲くときに発せられる香りに含まれるフェロモン化合物が不可欠である。もっと詳しく述べることにしよう。解剖学上の配置はすべての動物において同じわけではない。普通の四足獣は特にアネカワンとは異なっている。しかし、これらの四足獣とアネカワンとの違いは霊長類の先祖が二足歩行を始めたときの進化によって変化が始まったものであり、ここではアネカワンについてのみ述べることとする。
 下腹部におおいかぶさる筋肉が、平行に走る性器の表面を覆い守っている。右側には引っ込めることが出来る挿入器があり、左側にはのちに出産器になる受胎器がある。これらの器官をそれぞれ男性器と女性器と呼ぶことは正確ではないし、人間の男性と女性のそれと漠然としか似ていない組織を指して呼ぶには“ペニス”と“ヴァギナ”は適切な言葉ではないが、ここでは便宜上これらの言葉を使用することとする。
 性交をするときにはひだの両側が開き、性器があらわになる。お互いに向かい合った姿勢でしか性交が可能でないことは明らかであるが、それ以外の細かな事柄に関しては個人の好みによる。パートナーたちはお互いに同時に挿入することができるが、個人の選択やその他の要因によって片方だけが挿入し、もう片方が受け入れることもある。同時に挿入し、ウナドワの香りの効果があれば、両方のパートナーが妊娠するかもしれないし、しないかもしれない。
 いったん妊娠するとパートナーは彼(女)のパートナーの受胎をはばむフェロモンを出す。進化学の見地からのべると、これは彼らの両者が同時に幼児に縛りつけられずにすむという利点をもつ。また、のちには彼らの素嚢乳(素嚢乳…ハト乳。素嚢…鳥類の食道の後端にある袋状部。食物を一時貯え、すこしずつ前胃を経て砂嚢に送る)を異なったものにする役割を果たし、乳幼児に与える栄養をバランスのとれたものにするのに役に立つ。多くの文明社会では前の子供の父親となったほうが次の子供を身ごもるのが好ましく、よいことだと考えられており、前回に身ごもった方の親が挿入する側にまわる。もちろん完全にこのようになされているわけではなく、特に原始的な状況ではそうではないことも多い(長い歴史の間には時々、人工的な手段によって自分を妊娠させるアネカワンが現れたが、これは最悪の近親相姦と一般にはみなされた。古代エジプトの王はしばしば自分の姉妹達と結婚したが、アネカワンにはそのような権力を持ったり特別な地位についたりする者はいなかった。しかしコンタクトの時点までに、遺伝的欠陥をスクリーニングする高度技術が発展した社会では正当な理由がある場合…たとえば未亡人がいて、再婚するつもりはないが子供がほしいという場合…にはその技術を実践する事にほんの少しだけ寛容になっていた)。
 妊娠期間は約半年である。身ごもった方が、父親の役割を果たした方のサポートをうける。新生児は小さく人間の赤ん坊よりも未熟な状態で生まれる。分娩時にはひだが下がって開き、産道が広がり、“ペニス”は右の方に大きく押しやられるが、分娩後はすぐにもとの状態に戻る。生命の誕生が左側のひだで行われるということが、多くの文明で左側がより重んじられるという結果を生み出している。ちょうど人類が普通、右側を尊重するようにだ(アネカワンは基本的に両ききだ。片方の手がもう一方の手よりもうまく使えるということはあるだろうが、もしそうだとしてもどちらの手が優先的になるかの確率は五分五分だ。人類とアネカワンの脳の構造は一緒ではないのである!)。
 誕生時には新生児は完全に無力であり、目は子猫のように閉ざされ、体重はわずか1キロから1.5キロしかない。彼(女)は自分の手を握り締めたり、口を触られたときに食事をもらおうと大きく口をあけたりといった反射運動はする。両親は彼(女)を特別な組織の乳嚢からの吐き戻しという、ハトなどの地球の鳥類が“穀物のミルク(crop milk)”をつくり雛鳥に餌を与えるのといくぶん似たやり方で養う。身ごもった方の親の乳嚢は、食べ物が消化しやすいようにあらかじめ準消化する地球人の唾液に似た分泌物や、食物に抗体や成長ホルモン、必須ビタミンに似た栄養分を加える分泌物を分泌する。乳嚢は身ごもった親の体内で妊娠後期に発達し、もし彼(女)にパートナーがいれば(それは必ずしも子供の父親の役割を果たした者でなくともよい)彼(女)の放つフェロモンがそのパートナーの乳嚢の発達をも促す。身ごもった方の親のミルクは十分な量があり、たんぱく質とホルモンに富んでいる。父親の役割をする親の方のミルクは、もっと簡単に普段の食事から合成される脂肪分と糖分に富んでいる。乳幼児は急速に成長し発達していき、大体半年くらいで歩き出すことが多い。
 普通は両方の両親が幼児を平等に世話する。例えば一方が食事の用意をしたり店に買い物にいっている間に、もう一方が赤ん坊を彼(女)の腕にかかえて連れ歩いたり、片方が狩りや集会に行ったり会社に働きに行ったりしている間に、もう一方が赤ん坊と家にとどまっていたりする。もし両方のパートナーが同時に赤ん坊を生むような場合には、赤ん坊はそれほど急速には成長せず、通常、大人になっても小柄である。しかし、一般にはこれらの子供達は特に強い愛情でお互い結ばれるようになる。昔話や歴史にはそういった二人が小ささというハンデをのりこえ、一緒に偉大なことを成し遂げる話があふれている(そういう話をヨーロッパの昔話や歴史に見られる3番目の息子や庶子の話と比べてみるとよい。アレキサンダー大王は背が低かったといわれているし、ナポレオンは確かに背が低かった)。
 子供達は大体15歳くらいで性的に成熟し(原始時代では、それは地球に比べかなり早いというわけではなかった)2、3年後に成長期は終わる。我々でもそうであるように、成長期は栄養や気候などによって幅がある。寿命は60歳から80歳までの間である。地球と同じく、それぞれの世代に期待されることや務め、家族の一員として、また社会人としての責任や、誰が誰と結婚するかということを決める慣習法など、この惑星の色々な場所で色々な時代に存在した社会においてすべてのことがらは本当にバリエーションにとんでいる。多くの点で彼らは全く我々とは似てもつかなかいのだが、その点だけは一致する。他の多くの面と同じくこの面でも、彼らは我々と同様に創意に富んでいたようである。

ナユリンの有益な動植物

 ナユリン上の生命は地球と同じように豊かであり種々様々である。ここでは、家畜化、栽培植物化されたものか、またはアネカワンがよく利用しているものについて述べる。カッコ内の地名はその原産地域を示している。現在では多くのものがナユリン上の育成可能なところならどこででも目にすることができる。

 *訳注:おなじくカッコ内にそれぞれの動物の名前の英語および日本語訳も記す。

植物

 ナユリンにおいてもっとも重要な植物はもちろんウナドワ(Childwort,子供草;世界中に分布)である。野生のものもあるが、大いなる尊敬の念と今日でさえ宗教的な崇拝の念をもって、それぞれの地域文化にそった様々な方法で栽培されていることが多い。

食用植物
 食用植物に分類されるロフタモン(Algofungoids,藻菌類)には真性の植物のような複雑な組織がない。液汁をもたず、単細胞質であり集合果(花)である。
 海の深さが30mにもなるところでは大きなババソ・アベベグワ(Kelplikes, 昆布類似物)が岩盤で出来た海底にしっかりと根付いている。オボ−ウスワ(trufflikes, トリュフ類似物;イホカカワリン)は特に美味である。
でんぷん質の種をつける植物は我々の穀物に類似しており、ナユリン上に広く分布している。種類によっては特定の気候でしか育たない。代表的なものは次のものである。
 セ−ニョゲ(whitekernel,シロタネ;ウソキャナユ)は暖かい気候と豊富な水を必要とする。フロ・アベワ(Saltweed, シオクサ)はロヨゲヤリンのアギワリ・バサノに分布している。ギレ−アムワ(Winterbud,フユツボミ)はロミリンの南方から東方にかけての山地に分布しており、冬の時代には低地にも広がって行く。
 他のヤムロロ・ニョゲ(Breadgarain,パン穀物)種に属するものはより適応力が高く、野生種が惑星中に分布している。
 食用になる塊茎や根菜には様々な種類のものがある。
 オキ・ボボワ(fingerfruit,指でつまんで食べられる果物;ロヨゲヤリン)や他の脂肪分に富む果実は夏の時代にもっとも繁茂するとはいえ、惑星上に広く分布している。歴史上、商取引の対象となってきたのはお茶やコーヒーと似た性質をもつエギャキャゾワ(Wakeup,メザマシ;アハグプリン)のほか、エニオボガワ(Spicepod,スパイスヨモギ;ウゲリン)、ギロ−ロ・アギワ(sugerbush,サトウソウ;ロギリン)といった植物である。
 アリオセワ(Dreamleaf,ユメノハ;アベベグリン・ペヤリン)はおだやかな麻薬であり広く使われている。お茶のように煎れたり、食べたり、煙草として吸ったりする。地球のインド大麻のようなものである。他にも沢山の種類の向精神的作用をおよぼす植物があり、危険なものも、そうでないものもある。危険な種類のものでも純粋な物質を合成すれれば薬学的には有益なものもある(モルヒネやレセルピンのような薬物を思い起こしていただきたい) 。
繊維植物
 シヌナディ(threadstem,イトクキ;ロヨゲヤリン)は亜麻や麻に似ており非常に早い時代からアハグプリンに広がっていった。後に、といっても古代においてであるが、ロミリンとアベベグリン・ペヤリンに広がって行った。
 オクリ−オボワ(puffboll,パフボール;オダカリン)は綿やジャワ綿にいくぶん似ている。有史以前からロミリン南部で栽培されていたが、暖かい気候を好むためイカロガに伝わるのは遅かった。
 ウフグプワ-オセワ(Leatherleaf,カワノハ;北部および中部ロヨゲヤリン)は根元に薔薇の花冠状に配列されたとても大きな葉がつく。その葉はとても丈夫で葉脈からとった糸で縫い合わせることができる。かつてこの植物はその生育地域にすむ人々にとって、大きな冬の時代には着物やテントの素材として重要であった。現在では安くて耐久性の良い合成繊維に取って代わられている。
燃料植物
 一部に耐火性をもつように進化した種があるが、油の多い木のほとんどは容易に燃える。農耕が始まる前の時代でさえ、油に富む植物は価値があった。
 石油、石炭、ピートに相当する化石や半化石燃料は、前回の大きな冬の時代に、氷河の発達とともに文明が衰え、また燃やすことのできる植物がめったに育たない地域で初めて用いられた。それらは文明が発達するにつれて次第に重要度を増して行った。地球と同様、採掘の必要性が燃焼機関の発展をうながした。
薬草
多くのハーブや果物、菌類類似物がその生育地域で伝統的に用いられてきた。いくつかの植物は、その有効成分が抽出されるようになり、さらには合成されるようになっても価値があるものと見なされている。合成向精神剤およびそれから新しく合成された誘導物質は多く用いられている。

動物

 馬や犬にぴたりと当てはまるような動物がいないため、富裕な家庭でも牧畜は一般的に小規模で行われている。高い地位の者は、それぞれ別の牧夫に世話をさせている多くの小さな動物の群れを所有している。
 真の遊牧民族が発生することはなかったが、季節によって(特に大きな冬の時代に)移動放牧の習慣があるところはある。彼らは家畜を山地にある牧草地に連れて行き、そこに生えている旬の短い牧草を食べさせ、低地に戻ってきた頃には春に植えた根菜が収穫の時期を迎えているのでこれを収穫し、その跡に冬草を植える。余った家畜は殺され、その肉はいろいろな方法で保存される。繁殖用の家畜は開花している子供草にさらされる。彼らは冬のあいだ飼育され、子供が移動に耐えることができるようになり根菜が植えられる頃に夏の牧草地への旅をする。こうして季節が巡っていく。下に記したように放浪技術者も存在する。
 家畜は最初から従順さを求めて飼育されている。本当におとなしい血統を選ぶことに長い時間がかかるため、農業と文明化の広がりが非常にゆっくりしたものになっている。

移動用動物
 つぎに述べるのは牽引用や運搬用の動物である。危険なスポーツに用いられる特殊な場合を除き、乗用に適した動物はいない。
 ウノリ−サビロ(Plodhorn,ノソノソ(こつこつ働くツノ))は地球の水牛のように大きくて強い動物である。素早く動くことはできないが、忍耐力に優れており、車や鋤、踏み車などを牽くのに適している。ウノリ−サビロが山地を越えてリューキ・ナユに連れてこられ、そこからオノカワを越えてロヨゲヤリン、そしてやがてアハグプリンまで連れてこられた。このことによりイカロガ側にはじめて人口の多い文明が成立した。それ以前の農業はすべて人の手で行われた。
 エギョグチワ−ロロ・ミャキ(snowfoot,ユキアシ)はそれより遅れてロヨゲヤリンで飼い馴らされた。その名前がしめすように寒冷な気候で役に立ち、前回の大きな冬によって生じた氷河が退いたときに、北へ向かうアネカワンの荷車やそりを牽いた。
 ブフ−ウホホワ( ranger,レンジャー)はラマに似ており、アハグプリンの原産であるがロヨゲヤリン南部に連れてこられた。80 kg程度までの荷物を運ぶことができ、車輪のついた軽い車を牽くことができる。
 放浪技術者は前の夏の時代の初期からよく見られた。広い地域に広がったいくつかの種族に属する小さな家族の集団がウノリ−サビロに牽かせた屋根つきの住居兼用荷馬車で旅をし、皮革加工や金属細工、あらゆる種類の修繕などといったサービスを提供する。このようなサービスにはその地域の材料を使ったり、彼らが持っている材料を提供したりする。また、リボンや締め金、はさみやナイフといったさまざまな小物類を売買する。このような生活様式はすでに絶滅しかけていたが、自動車の発展により復活した。宇宙時代になっても、少数のこのようなジプシーがナユリンを漂浪し、サービスを売ったり、安い小物を売買したり、そして(他にすることといえば)彼らが逃げることができる場合には定住者を詐取したりもする。
繊維用動物
 ギャノ・リャスレギ(big shag,オオムクゲ;北部および中央ロヨゲヤリン)は長く、太く、少しきめの粗い毛をしている。ヒリャ・リャスレギ( little shag,コムクゲ;ロヨゲヤリン高地)は細くて絹のような毛をしていてずっと商品価値が高い。
 イヌワ−レギ( Curlyback,セナカウズマキ;ロミリン)はこれより小さいが、羊毛のような毛で被われている。これらの二種は織物を作るのに最も重要である。
 毛皮は多くの柔毛をもった動物から作られる。オトグトワ(sleek,ナメラカ;アハグプリン)やサビロ−イケカワ( ceratopard,ツノヒョウ;アベベグリン・ペヤリン)などの動物だが、もともとは野生のものが狩られていた。毛皮は有史以前から重要であり、古くは交易に用いられた。今日では合成毛織物により野生の毛皮の交易はほとんどなくなっている。しかし、オトグトワは高級品をつくるために今でも飼育されている。
 多くの地上動物は飼育されているものも野生のものも皮革の材料となってきた。ババソ−ウホホワ( searover,ウミグルマ)という、地球の最も大きいサメと同じぐらいの大きさで世界中を回遊する魚類似物も皮革の材料となる。骨や歯は多くの小さくて丈夫な品物になる。このような加工品は実用だけを目的として作られたものでさえも芸術品として通用する。
食用動物
 サビロ−スハ( jawhorn,アゴツノ;ロミリン)はいくぶん豚に似ている。
 アベベグリ・リョテ( treeleg,キノアシ;ロミリン)は大きなコウモリに似ているが空は飛べない。これらの2種の動物が食用のみを目的として飼育されている動物の中でもっとも重要なものである。この他にも小さめの四足獣やコウモリ類似物が飼われている。
 ヤムリ−ユケ( buffalait,スイギュウモドキ;ロヨゲヤリン)は子供にやるための素嚢乳を飼い主に提供する。イヌワ−レギ(セナカウズマキ)やギャノ・リャスレギ(オオムクゲ)、ヒリャ・リャスレギ(コムクゲ)も同様である。これらの動物や輸送用動物も食用にされる。
 両性具有のため、地球の雄牛や雄馬のように獰猛なものは居らず、獰猛さを抑えるための去勢が行われることは無い。しかし、生殖をコントロールすることが望ましいとされるさまざまな理由があり、挿入器を切り取ることにより去勢が可能であることが発見されている(挿入器の切除は排泄には影響をあたえない。この面からの問題は何も無い)。古代ギリシア時代から存在した去勢鶏と同じように、去勢された動物は太り、柔らかい肉となる。また、子供草が豊富なときに、この花を乾燥保存することができ、それを1年の別の時期に与えると、受胎の時期でない動物たちが受胎できるようになるので、種畜を導きいれて通常以外の季節に子供を生ませることができる。このため、肉用子ヒツジや子豚と等価なものが一年中食べることができるのである。
 魚類似物は淡水魚でも海水魚でも、食料と脂の主要源であり、養殖されているものもある。
 サビロ−イケカワ・ペヤの北西部の端やロミリンの最北の海岸、ロヨゲヤリンの中南沿岸部には広大な干潟や塩湿地がある。秤動による高潮が起こったときにはこの地域に大きな海水の池と多くの小さい水たまりができる。このようにしてできた池は雨によって水が補給されない限り、次の高潮までには乾きあがる。これらの池の跡に残る有機物に富む泥はいつも湿っていて塩を多く含んでいる。この地方の動植物種は以上のような周期(高潮から高潮まで8.5地球日)に対応しており、湿地は非常に肥沃である。
 この地の住人は自分の家を内陸部に建てる。その家は高床式で、嵐によって潮が普段よりも高くなっても濡れないようになっている。潮が満ちたときには、彼らは釣り針や釣り糸、網、罠などを持ち、魚や海棲生物を捕まえにボートで出かける。いかだ船は停泊して、釣りや海棲のコウモリ類似物を撃つための足場となる。潮が退いたときには海底に定着していた植物を収穫したり、その茎についている貝類似物を獲ったりする。この収穫に泥スキーを使っている地方もある。
 以上のような伝統的な生活様式はほとんどすたれてしまった。アネカワンは今でも湿地帯に住み、湿地を利用しているが、それは近代的な動力つきボートを使ったり、水産養殖の形で利用したりしているのである。
 秤動による高潮はロミリンの南岸にも届く。ここは崖が連なり砂浜が少ないため、非常に壮大な寄せ波が見られる。勇敢なクライマーは引き潮のときに岩に張り付いている美味しいハマグリ類似物を取ってくるが、それは自分の命を危険にさらす行動である。
ペット
 アネカワンも地球人と同じようにペットが好きである。
 多くの種類のコウモリ類似物がその美しさや鳴き声、飛ぶときの優雅さなどから好まれて飼われている。
 イモプ−エバカワ( housechaser,イエカリュウド)は小さい四足獣で、家にいる害虫を狩り、食べてくれる動物である。
 サルが地球人と近い種族であるのと同様にアネカワンに近い種族であるイケ−アベベグワ(treeleaper,キトビ)はウソキャナユの森が原産であったが、いまではナユリンじゅうで生息している。

ナユリンの地理

 ケジロガ(ファーサイド)ではロミリン大陸にオダワリンという古く摩滅した低い山脈が、内陸部奥地に南西の海岸線と平行に走っている。オダワリン山地の東側はオダカリンのなだらかに起伏する地域に属している。惑星の傾きが大きくなる時期(もちろんその時期には気候は荒れ狂う)には範囲がせまくなるとはいえ、その大部分は常に温帯に属する恵まれた土地である。土地は肥沃で、アネカワンがその大部分を切り倒してしまったが、もともとは森林地帯であった。ナユリンでもっとも大きい湖の一つであるイナリ・ババソがある。
 オダカリンの東側はだんだんと平らになっていき、平原とロミ・イボカポリンという広い渓谷地帯となる。その南側にはナユ−ロロ・ミュハンというナユリンにおいて最も高い山脈が東の方へ連なり、やがて北方に折れ曲がっている(地質学的に言うと北方の方は別の山脈に属している。二つの山脈は二つの土地が中央ロミリンと衝突したときに同時に生成されたものである)。この山脈の南には、場所と地軸の傾きによるが、大部分が温帯から熱帯に属するイホカワリンが広がっている。踏破不可能ではないにしろ、これらの山々は中国とインドの間に横たわるヒマラヤ山脈のように交通の障壁となっており、その両側の地域に発達した文明は全く異なったものとなっている。
 北方にのびているナユ−ロロ・ミュハンの東端は、ロミリンの東方部であるリューキナユへと通じる道に対して同じような障壁となっている。この部分の山脈の高所ではいつも気温が低いため、イホカワリンとの間の障壁ものよりもさらに厄介である。地軸が大きく傾いている時代には、雪塊氷原や氷河、天候などにより事実上踏破不可能となる。
 ロミリンから南西にかけてはアベベグリン・ペヤリンの大きな群島があり、赤道を越えてはるか向こうにまで広がっている。最南端の島はイカロガ(ニアサイド、主星イカロミに向かっている側)に達している。群島の多くにはよく繁ったジャングルが広がっているか、あるいはアネカワンによる農園や果樹園が広がっている。アネカワンは早くから船乗りであった。時が経つにつれ、カヌーから帆船まで、その地方の状況に適したさまざまな船を発展させた。ついに船乗りの中にはイホカワリンやオダカリンの沿岸部を定期的に訪れ、その地方の人々と貿易するようなものも現われた。ときおり、乗組員が海賊行為をおぼえ、海岸線の居住地に攻め入ったり、海上で帆船を捕えたりするようになった。しかしこのような行為はいつも迅速に沈静化され、現在では海賊行為が行われなくなってから長い時間が経っている。
 アベベグリン・ペヤリンの船乗りは彼らの地域外のところに航海しようとしない。潮による隆起と温かい海水によって引き起こされる嵐にはさまれて、ヒョーアネリ・ババソは低緯度の場所でも彼らの手に余るものである。ロミリン北部から舵を北に取る長い航海によって東の大陸であるウゲリンが発見され、植民地化された。しかしウゲリンからさらに西に行こうとしたものはいなかった。南の大陸であるロギリンは、アハグプリンを冒険航海のために出発した船がヒョーアネリ・ババソの南を航海した「発見の世紀」まで発見されておらず、入植もされていなかった。また、アベベグリン・ペヤリンの船乗りでウタリ・ババソを越えてみよう試みたものは皆無であった。
 リューキ・ナユの一部はイカロガ(Bright Side、ニアサイド)に広がっている。その東部の島が散在しているオノカワ海峡はロヨゲヤリンへの非常に簡便な海上往来の道となっている。地軸の傾きが小さい時代には航海により、地軸の傾きが大きく、氷河によって海面が下がって海峡が陸続きになった時代には地上交通により往来ができる。しかし広がっていく氷河がオノカワを覆っている時代には数千年にわたり有効な交通手段がなくなってしまう。
 イカロガではロヨゲヤリンが最大の大陸である。東西の最大幅は半球の半分以上にわたり、南北の最大幅は北極近くから赤道直下にまで及ぶ。その大部分は平原であり、地軸の傾きにともなった極端な気候が見られるが、傾きが小さい時代でも季節によっては極端な気候が見られる。その沿岸部は干潟である……南岸部分では、潮による隆起が秤動することにより広い地域にわたって潮の満ち干きが起こり、アギワリ・ババソと呼ばれる広大な塩をふくんだ湿地をつくっている。このようなことが起こるほかの地域と同様、生物はこの状況に適応しており、ここに住むアネカワンもまた適応している。ここより内陸部にイペガリ・ババソという大きな湖があり、アギワリ・ババソに水を注ぎこんでいる。
 ミン・ブフンとよばれる山脈により、ロヨゲヤリン大陸の南方にある大きな半島は大陸から隔たっている。この山脈はそれほど高くなく容易に越えることが出来るが、いつの時代にも大陸本体と半島のあいだの気候の障壁となっている。この半島は地軸の傾きの小さい時代には大部分が温帯となり、傾きの大きい時代には熱帯となる。このため、この半島はウソキャナユ(温かい土地)と名づけられている。
 ウソキャナユの南にはペペヤの島々が海を横切り、ナユリンでもっとも小さく、もっとも変化に富んだ大陸であるアハグプリンへとつながっている。この大陸の大部分は南半球の常に温帯のゾーンに位置し、この星で最大の湖であるラユ―ウナカワ・バソン―ロロを抱えている。大陸の両端の気候は地軸の傾きによって非常に大きく変わる。この大陸の大部分が丘陵地であり、セン・ブフン山地がその南東のでこぼこした海岸に沿って走っている。
 以上が主要な大陸である。もちろん他にも多くの島々があるが、われわれの地図は大きな島しか描いていない。しかし、赤道部の潮による海水の隆起の影響と、地軸の傾きが大きい時代に高緯度部の氷河が土地を削る現象により、これらの大陸や大きな島の間の海洋には、ほんの小さい島がごく少数散在しているだけである。

ナユリンの地図

 


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