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CONTACT Japan 2 講演5

多細胞生物の進化の条件  金子隆一

 今日のお話ですが、私はもともと文科系出身でして、物理とか数学とか、そちらの方は実は全然やったことがありません。 どっちかというと、得意なネタというのは、生物の進化や古生物の方なんです。それで今日のお話を頂きました時に、いったいどういう事をお話したらいいのかしばらく迷ったんですけれども、ふと気がついた事がありまして、やはりコンタクトというからには相手は知的生物であるはずだと。で、知的生物としての、暗黙の前提条件として、我々は多細胞生物だけを考えているのじやなかろうか。 たとえば脳だけで最低140億の神経細胞の塊だと一般に言われてますが、それぐらいの複雑な体制がなければ、知性というのは当然持ち得ないであろうという事が前提になっているわけです。しかし、生物が誕生して進化したら必ず多細胞生物という最終日標に行き着くのだろうかどうか、それをちょっと考えてみたいと思ったわけです。
 それではみなさんにお配りしたこのテキストを見てください。一枚目の左側にありますのが、いわゆる後生生物ですね。つまり多細胞生物です。これは、あくまで系統樹の一つの試案です。
 下から2番目の海綿動物の一つ上にトリコプラックスという妙な生物の名前が出ておりますが、これは1995年に、この和田さんと佐藤さんが提唱しました新しい生物の分類単位でして、側生動物という妙な名前がついております。これはこの人達が初めて提唱したもので、今のところはまだ全面的に認められているわけじゃありませんけれども、それはともかく、後生生物というのは、このように一番原始的な単細胞生物から広がって分岐し、一番上の真体腔類という系統の一番真ん中に近い部分がもっとも高等な生物という事になっています。一般にこのような系統樹が書かれております。
 最近ですね、ちょっと有名になっておりますニハイチュウという動物がおります。下からいいますと8番目のところにあるものですけれども、これは原生動物、つまり単細胞動物と、後生動物、多細胞動物の中間にいる動物で、昔の系統樹だったらばこれはずっと、脇の方に書かれてたわけなんです。細胞が何しろ20数個しかありませんで、タコの腎臓という非常に特殊な環境の中で住んでおりますヤツですね。こういうものが原生動物から後生動物へ至る途中にいたはずだという仮説がかつてあったんですけれども、現在それはほとんど否定されていて、これは実は退化した後生動物であるという事になっております。
 そして、このような生物がどういう風にしてそもそも進化してきたのかという事が、右側の絵になるわけです。まず最初に、鞭毛をもった単細胞生物が、ほんの数個から数十個集まって一つの群体を作ったと思って下さい。プランクトンのお好きな方でしたら、ボルボックスという生き物を御存じだと思います。あのボルボックスというのが実は現在考えられている限り、おそらく後生生物・多細胞生物の一つの原形になったグループではないかと言われています。ボルボックスはただ単にたくさんの細胞が集まって丸い塊になって鞭毛でへろへろと泳いでいるだけなんですけども、あれがやがてある時に方向性を持った、と考えられております。つまり、全体の鞭毛が何らかの化学信号によって、一斉にある方向へ尻尾をふるようになって、前と後ろができたということです。
 実はその過程で、そこまで行く前に脇へそれて落ちこぼれてしまったグループがいたのではないかというんですけれども、それが皆さんご存じの海縞です。我々が使っている天然の海線といいますのは、実はある種の骨格なんです。で、その上にバラバラに個々の細胞がくっついていまして、全体として見たところ一つの細胞の塊のように見えるんですけれども、実はその細胞はお互いに何の連絡もとっていません。ただ単に群体になっているだけなんです。つまり神経細胞にあたるものを全く持ってないんですね。その点でまったく特殊化していない単なる細胞の魂という事になっているわけです。ということで海綿というのは、この系統樹でも一番下の方に全ての後生動物の傍系としておかれていますが、これが現在の基本的な考え方になっています。
 さて、それから先。前と後ろができたあとですね、方向性を持った形から二つのグループに分かれました。どういうものかというと、左右相称型のやつと、それから回転対称型のやつですね。
 回転対称型というのはウニとかヒトデ、あるいはなまこなどの蕀皮動物などになります。全てのいわゆる蕀皮動物というのは、スツパリ断ち割りますと五角形が基本になっていて(かつては三角形というのもいたらしいんですけれども)点対杯で5回まわすと必ず、5分の1回転する毎に同じところにぴたっぴたっとはまるようになっています。
 現在、この種の体制を持った動物は残念ながら主流に成り得ませんでした。かつて、たとえばウミユリなどの五回対称の生物の非常にでかいグループが海洋を支配していた時代があったのですが、もし何かの事情で彼らがそのまま生き残っていたらば、ラヴクラフトのクトゥルー神話に出てくるようなタイプの知性生物ができたかもしれません。
 で、もう一つがこの左右相称型の体腔をもった生物です。これが現在の全ての多細胞生物の基本体制になったといわれているわけです。ここから先の歴史というのは今日のテーマとあまり関條はありませんが、そもそもこういう多細胞生物がいっごろ生まれたかという話をします。ちょっとNHKの悪口になっちやうんですけれども「生命」という番組が一昨年から去年にかけて放映されていました。宇宙飛行士のMさん(笑うとこういう顔になるんですが)を司会にした、生命の歴史を語る番組がありまして、その2回目ですか、あれでカンブリア爆発という現象がとりあげられました。で、これによって、カンブリア爆発というのが非常に日本では有名になりました。
 カンブリア爆発とはどういうものかと言いますと、今から5億7000万年前。地球の歴史というのは御存じのように、45億年か46億年かと言われていますが、この最初の40億年間が先カンブリア時代という名前でひとくくりにされています。そして、終わりの方の6億年間ですね、ここでいきなり後生生物が爆発的に地球上に蔓延したという事になっているわけです。で、この時に、現在地球上に存在するすべての生物の門(門というのは、基本体制によって分類される非常に大きなグループです)が全部、この時に現れたという事になっています。
 で、そのカンブリア爆発の中でも有名なのがアノマロカリスだとかオパビニアだとか、いわゆるキテレツ動物と呼ばれるものです。スティーヴン・グールドの「ワンダフル・ライフ」をお読みになられた方は非常によく御存じかと思います。この時にいろんな体制の生物が試されて、その中からたまたま生き残ったものが現在の地球上の生物になった。そして、この時に遺伝子の非常に大規模なシャツフルが行われて、駄目なモノは全部淘汰されたという事になっていたのですが、最近は、どうやらそれは全くの間違いであったという事が明らかになてきているわけです。
 たとえば、現生の全ての生物が持っておりますチトクロームCのような遺伝子を系統的にずっと辿って、脊椎動物・節足動物・蕀皮動物などの、まったく体制の違う動物がいつ頃分かれたのかを計算してみますと、どう勘定しても12億年から14億年前には、全ての生物の体制がもはや決定されていたとう結論が最近出ているわけなんです。
 つまり、地球の多細胞生物の起源というのは、これまで言われていたよりも、少なくとも倍以上過去まで前倒しになる事が判りました。その頃に生まれた、おそらく細胞は数百とか数千とかそういう単位のごく小さな生物は、すでにその基本的な特徴(体の真ん中に神経索が一本通った動物とか、将来回転対称になるべき体制を持った動物とか)が全部分かれていたらしいんです。
 実はカンブリア爆発といいますのは、生物の体制が生まれた時代ではなく、完成した時代だったのです。我々が知っているキテレツ動物というのは、現在の生物の体制とかけ離れているようにも見えますけれども、かなり密接な関係を持った、我々の直系の祖先と言ってもいいぐらいのものなんです。たとえば、昨年発表された論文によれば、あの有名なアノマロカリスの一番新しい復元では体の裏に足がある事が発見されているんです。実は彼らは、ただ体の脇のひれを波打たせて泳ぐだけではなかったのです。しかもその足の構造というのが現在我々が知っている、中南米のジャングルとかその辺にいますカギムシとそっくりだったんですね。彼らは実は有爪動物と節足動物の中間段階にいた、まあ、残念ながら袋小路に入ってしまったようですけれども、そういうグループに属する動物であって、原生の動物とまったく系統上関係ないといういうこれまでの仮説は誤りだという事が判りました。
 また、昨年にもう一つ、かなり驚くような発見が中国からありました。次のページのものなんですけれども。なんとこれが、今から17億年前の多細胞生物の化石といわれているものなんです。実はこれよりさらに1年前にアメリカのテキサスで、12億年前の多細胞生物の生痕化石と言われるものが発見されて業界に非常に衝撃を与えてくれたんですけれども、ついに、17億年前から直接の物証と思われるものが現れたわけでして、多細胞生物の歴史は、もっともっと前倒しになってしまったんです。ただ、この化石は恐らく藻類でしょうけれど。下手をすると、これが地球の歴史のおよそ半ばぐらいの20億年代まで遡ってしまうかもしれないという事が、明らかになっています。
 では、後生生物というのは、本当にそれぐらいの時代に生まれたとして、それから一直線に進化して現在の多細胞生物の時代が来たのであろうかどうかというと、(これが実は本日のテーマにかかってくる問題となるんですけれども)もしかしたら、そうではなかったかもしれないし、我々は地球上の複雑な体制を持った(あえて多細胞生物とは言いません)大型動物の中では2代目かもしれないのです。我々の前に知られざる初代がいたという説がありまして、それがまあ、今日ご紹介するエディアカラ動物群と呼ばれるものなのです。
 先程ですね、古生代カンブリア紀というのは5億7000万年前から始まったと紹介しましたけれども、カンブリア紀の前の時代を、ひとまとめに先カンブリア時代と呼ぶ時代はもうとっくの昔に、地質学の方では終わっております。実際のところ、少なくとも地球初期の、微惑星が大量に衝突して表面がどろどろに溶けていた時代をハデス代、それからおよそ40億年前から25億年前まで続く始生代、それから25億年前から5億7000年前まで続く原生代。その中にも細かい地質区分ができております。
 特にその最後の原生代の後半になりますと、けっこう、あっちこっちから大型生物の化石が発見されているんです。で、その代表的なものが、ここにありますエディアカラ動物群と呼ばれるものなんですね。 それで、実はそのエディアカラの写真がありますので、みなさんにご覧頂きたいと思います。
(註:本講演はここからスライドを使って行われました。以後スライドごとに“■□■”マークを入れています)
 エディアカラ動物群というのは、そもそもどういうものかといいますと、1946年に南オースラトリアのエディアカラ丘陵におきまして、これまで大型生物化石は全く存在しないはずだと考えられていた先カンブリア紀末(ヴェンド紀と呼ばれる時代なんですが)の地層からオーストラリアの古生物学者が史上初めて大型の動物の化石を発見したことから名付けられたもので、現在エディアカラから発見されます動物あるいは生物化石は、アデレードにあります南オーストラリア博物館にほぼ全ての原記載標本が集められております。
 これは一昨年の秋にオーストラリアに行きました時にたまたまそこで見せて頂いたエディアカラ動物群の主要な標本の収蔵庫であります。
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 これは、そこに飾ってありますもののうちの非常に大きな標本なんですが、これが、チャーニオディスカスと言いまして、だいたいここからここまでが60センチぐらいあります。一般に、たとえばカンブリア爆発の時に現れた動物というのが、地球上で最初の大きな動物であったと言われております。アノマロカリスなんかは60センチあったと言われております。ま、実際に最近見つかった化石で推定2mを超えるものもあるんですが、しかし、平均してみますと、実はヴェンド紀の生物の方がはるかに、化石としては大型なわけです。ちょっとこれをよく見ていただきたいんですが、ここに、丸い妙なディスク状の構造がありまして、このように大きな鳥の羽のようなものが生えているのがお判りになるかと思います。
 しかし、実際のところ、これが一体何であったのか、全く判っておりません。
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 これは、典型的なエディアカラ動物群の一種で、スプリギナと呼ばれるものです。このように、一見ゴカイのように見えますね。こっちの方が頭で、これが胴体で体に体節構造があるように見えます。見えるんですけれども、そしてまた実際にオーストラリアの古生物学者はこれが現在の環形動物の直系の祖先と信じきっていますけれども、どうもそれが、違うらしいんです。それは、のちほどお話しします。
 これなんかは、その当時の動物のひとつの典型的な体制を示しているものです。トリブラキディウムと呼ばれる生物です。このように円形をしていまして、三つ巴の体制になっております。現在の地球上には3回対称性の体制を持つ動物というのは全くおりません。果たしてこれが現在のどれかの系統に繋がるのかそうでないのか、いまだに議論が続いています。
 これはバーバンコリナ。これも、鳥の足跡のような3本の枝がありますけれども、これがいったいどういう生物であったのか今のところこれ以上、全く判っておりません。
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 これもエディアカラ動物群の中で最も有名な典型的なものです。ディッキンソニアと申します。オーストラリアの生物学者たちは、これを環形動物だと信じきっております。そして一生懸命こっちが頭でこっちが尻尾だと説明するんですけれども、我々の目には、どっちが頭でどっちが尻尾なのか、なぜそう断定すべきなのか、その根拠が全く判りません。もし、本当に彼らが環形動物であるならば、この左右の線は繋がっていなきやいけないはずなんですけれども、実は真ん中の線で微妙にずれているんです。そんな体制を持った環形動物は有り得ないと思います。
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 これは、彼らに言わせればクラゲの一種なんだそうですけれども、残念ながら本当のクラゲとは全く違う体制を持っていまして、これが何なのか実はだれにも判りません。クラゲと信じたい人にはそう言わせておけばいいというぐらいのもので、本当のクラゲの化石でしたらば、触手や生殖巣なんかがはっきり残っているもんなんですね。実際にそういう化石はドイツのゾルンホーフェンなんかでたくさん出ています。しかし、これは明らかにクラゲじゃないと思います。
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 あとは観光写真のようなものですけれども、このエディアカラ動物群が発見されましたのはアデレードからずっと北の方へ、およそ500kmぐらい行きましたフリンダース山脈の中にある小さな崖なんですね、これがそこへ行く途中の風景です。これがフリンダース山脈で先カンブリア紀からカンブリア紀へかけての地層が、褶曲によって地表に出てきたものです。これはその地質の説明図です。この山脈の中を横切る道を作った時に、たまたま偶然にも先カンブリア紀からカンブリア紀への主要な化石の産地を一直線に横切る道ができてしまいまして、その道を走っているだけで当時の生物化石が一望できる、たいへん結構な道があります。
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 当然、こういう道ですから、こういう看板がたくさん立っているわけでして。
 ■□■(カンガルー注意)
 で、しょっちゅう、こういうのを見るわけですね。
 ■□■(カンガルーの死体)
 ほんとに数キロに一匹ずつぐらいころがっています。
 死体がそんだけあるんですから、生身のヤツもたくさんいまして。
 一望しますと、どこにも、必ず視野の中に一匹や2匹いるんですね。
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 これはフリンダース山脈の中の非常に大きな町なんですが、戸数なんと6戸、人口20人。そこにある最大のホテルなんです。
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 これは、そこに至る途中に見ましたガソリンスタンドなんですけれども、ガソリンスタンドのおやじが古生物マニアでして、店の中に博物館を私設で作ってあるんです。実はこの中に国宝級の化石が含まれているんですね。確か4年前だったと思いますが、東京で開かれましたミネラル・フェアで、このうちの化石の一個が流入しまして、オーストラリア政府からストップがかかって、展示会場に捜査官がやってくるという騒ぎになったんですけれども。非常に貴重なものです。
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 これは先程のホテルの前で撮らせていただいた写真なんですが、この方が実はこう見えましても南オーストラリア博物館のチーフキュレーターで、エディアカラ化石の世界的権威なんです。ペン・マツクヘンリー氏です。
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 このバンパーはカンガルーよけだそうです。
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 先程のホテルのバーですね。 オーストラリア中からやってくる長距離トラックの運ちゃんが、こうやって名刺を貼って行くわけす。
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 これが、先程申しましたフリンダーズ山脈を横切る道なんですが、この褶曲によって現れた地層が実は全部先カンブリア紀のものでして。
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 この赤いラインが実は先カンブリア紀未ヴェンド紀の一番最後の地層で、これが海性堆積層なんです。
 ■□■(前を走るエミューの群れ)
 連中はこの道を自分のものだと思っていまして、クラクションを鳴らしますと、怒って車を蹴飛ばしたりします。
 先程の赤い地層をこうやって調べているとこなんです。かなり傾斜は急なんですけれども、ただ、褶曲をうけた割には、うまい方向に力が加わったんだと思います。化石そのものは歪んでなくてですね、非常にいいものが次に見られます。
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 この崖の断面なんです。これはただ指さしているだけで、ちょっと判りにくいと思います。アップをお願いします。
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 まだ、判りにくいかな。実はここの所に、先程のデイッキンソニアの大型個体がはまっているんですが。
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 このように、体の輪郭線が、何故かくっきりと出ちゃうんです。で、非常に平べったい生物で、デイッキンソニアというのはですね、大きなものでは長さ1m以上になるんですけれども、厚みはおそらく2〜3ミリと言われています。 そのような備平な生物で、多分、体も柔らかい、固い組織は全くないはずなんですが、どういうわけかここに跡がくっきりと残るんですね。これがどういうわけだか判りません。
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 これは雄型の方でして、この真ん中の中心線、体の輪郭線、それからだいぶ磨滅していますが体の横方向に走る線がお判りいただけると思います。
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 これは漣痕ですね。つまり、こういう漣痕と一緒にこの化石が、同じ平面の上に並んでいるということは、当時、この辺が非常に浅い、暖かい海の底であった事を意味します。つまり、もしかしたらデイッキンソニアは光合成生物であったかもしれないということなんですね。
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 この道をさらに走って行きますと、だんだん先カンブリア紀からぎりぎり境を越えて数十m行ったところにありますカンブリア紀最古の造礁性生物、珊瑚礁のような礁を作る生物の化石なんです。
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 これがその魂なんですが。アーキオケタス、日本でいう古盃類というもので、石灰質の殻を持った海綿に似た生物だと言われていますが、正体は何だか判りません。
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 こういう風な形態をした生物が、固い穀を持ったおそらく地球最初の生物の一つです。で、岩の表面にこのようにいっぱいはまり込んでいます。
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 アップにしますとこうですね。これが、その古盃類の体の断面です。だいたいこれで5億6000万年ぐらい前のものだという事です。
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 これはフオシル・オプ・バロウ、つまり巣穴の化石と書いてありますけれども。実は先カンブリア紀の生物が一旦滅亡したあと、カンブリア爆発が始まるまでのしばらくの間、どういうわけか、多細胞生物の化石そのものがすっかり消えてしまって生痕化石しか残らなかった時代があります。これがその過渡期の生物のいたところなんです。
 この、ちょっと判りにくいと思いますが、岩にいっぱい食い込んでいる縦の線のようなものは当時の泥の中に生息していた生物の生痕です。どうもこの当時、初めて地球上に捕食動物というものが出現して、それを避けるために生物は皆、泥の中にもぐってしまったらしいんですね。そういう過渡期のものです。
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 これは、たまたま道端にいた、マツカサトカゲです。 大きさはこのぐらいです。
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 現在、エディアカラ動物群の摸式産地は、このように個人の所有地になっていまして、牧場の柵を越えていかなければなりません。
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 このような非常に荒涼たる風景でして、気温は摂氏42〜3度で、無数に粉のようなハエが飛び交っているんですね。
 これが1946年に初めて先カンブリア紀の化石が発見されましたグリーンクリフといわれる所です。この崖のごろごろした岩。こいっは実は非常にもろい、層状にはがれる岩なんです。で、その岩をはがしていきますと、いくらでも化石が見つかります。
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 これは探索中の状況です。
 早速見つけましたのが、このシクロメデューサと呼ばれるものです。オーストラリアの研究者はクラゲの化石だと主張しています。この、岩の表面にある目玉焼きのような模様がその生物の化石です。
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 これはだいぶかすれておりますけれども、小型のデイッキンソニアです。
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 この岩の表面にぼこぼこ付いてます丸い窪みのようなものは、実は全部、何らかのクラゲ様生物の化石だと言われています。
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 これは、その現場からさらにもうちょっと離れた第2発掘場ですね。
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 非常に荒涼たる風景なんですけれども、実はここは6億年ほど前、浅い海の底で、大量のエディアカラ動物が海底を覆っていたとされています。
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 このでかい岩なんか、これは誰かが立てかけているじゃなしに、ただ単にこのように転がっていまして、実はこの表面にいっぱい化石が入っています。
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 これですね。非常にこれはくっきりと判ります。立体的に、なぜか薄べったい体制であるくせに立体的に浮き上がるというのが、この時代の化石の特徴です。
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 当日の収穫です。
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 これは、そこからさらに、帰ってくる途中で見ましたストロマトライトの化石の堆積です。ストロマトライトというのは、最近有名ですが、ラン藻類の巨大な塊で、こいつが地球の遊離酸素を作ったと一般には信じられていますが、どうやらそれも間違いのようです。オーストラリアでたとえば35億年前のストロマトライトが発見されたと言われていますが、あれは最近の調査の結果、全部天然にできたもので生物の化石ではないということがはっきりしております。
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 これは、そのアップです。これは間違いなく本物のストロマトライトなんですけれども。よく誤解されていますけれども、オーストラリアには現在シャークベイに唯一の現存する群落があると言われていますが、あれは実はここ千数百年ぐらいの間に初めて形成されたものでして35億年あそこにあったわけではありません。お間違えのないように。
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 この辺には、コッカトゥーと言います白いオウムがいっぱい住んでいまして、結構、狂暴なんです。羊を襲ったりするそうです。

 さて、エディアカラ動物群の正体についてなんですけれども、これが果たして多細胞生物であったのかどうかというところが最近大変大きな問題になっています。と言いますのは、多細胞生物としてはあまりにもおかしすぎる・異常な特徴がたくさん見られるという意見があっちこっちから提出されているわけなんです。一番最後の紙をごらん下さい。これは典型的なデイッキンソニアの体制図でありまして、これは現在アメリカのエール大学におりますアドルフ・ザイラッハーと言いますドイツのチュービンゲン大学出身のエディアカラ動物群の権威が、ディッキンソニアの化石をよく顕微鏡で調べてみたところ、彼らはどうしても絶対に環形動物はあり得ず(真ん中の線で左右の筋がずれている環形動物なんているわけがない)、その構造をよく調べてみましたら、この 右下にあります図のようにダンボールといいますかキルトといいますか、細長い筒状のものが四角く並んでいまして、その中に細胞質が詰まっていて、そこに細胞核がたくさん存在していたのではないか、つまり多核生物だったんじゃないかと結論したのです。そこで彼は当時のヴェンド紀の生物を包括する、動物でも植物でもない全く新しい分類(キングダム)を創設したんです。ヴェンドビオタ・キングダム、ヴェンドビオタ界と呼ばれる、つまり動物界と植物界に並ぶ、全くこれまで我々が知らなかった体制の生物の時代が、かつてカンブリア紀よりも前に地球上に存在したのではないかという意見を出しました。これが非常に大きな物義をかもしているわけなんです。 で、その一つ前の絵になりますが、彼はヴェンドビオタ界の中でやはり原始的なものから進化したものへの一つの体制の進化の流れがあったんではないかと言っています。下の方の段にあります丸い形をした無方向性のものですね。それからこの2極化したものが現れてさらに2極したものがどんどんどんどん長くなっていってしまいに、体長2mに達する大型の生物まで現れました、しかし彼らは動物でもなければ植物でもなく、非常に薄い、せいぜい体の厚みが2ミリか3ミリ、そしてその中に大量の細胞核が、バラバラの状態でぎっしり詰まっていまして、さらに彼らは光合成能力を持っていたであろうという事なんですね。したがって、なぜこんなに体が薄く長く伸びるのかといいますと、太陽から受けられるエネルギーを最大限にするため、そしてもう一つは体表面でのガス交換面積を稼ぐためであったというわけなんです。そして、この生物の全盛期は、実はほんの2千万年ぐらいしかなかったんです。世界中のあらゆる海に広がっていまして、最近ではこのヴェンドビオタの発見されるサイトというのが世界中で40以上を数えています。その中には非常に、これよりもさらに奇妙奇天烈な形をしたものがたくさんあるわけなんですが、確かにみんな一つの系統上に並ぶように見えます。ヴェンドビオタという言い方が正しいのかどうか今のところ結論は出ていませんが、彼らは恐らく多細胞生物ではなかっただろうという意見は最近、だんだん主流になってきています。
 つまり、多細胞生物は3次元的な体制を発生させる事によって、このように大型化、複雑化し、神経ネットワークを派生させるような能力を得たわけです。 ここでさらに一枚前へ戻って下さい。実はこれが本日の一つの結論なわけです。
 これは、ネイチヤーに93年に発表されたコンウェイ・モリスの論文の抜粋なんですけれども、この右側の方で末広がりになっている大きなグループが我々後生生物、三胚葉性の後生生物ですね。つまり外胚葉、中胚葉、内胚葉の3つの胚葉を持ち、3次元的に体が進化した動物のグループです。しかし、その遥か前に地球上で最初の後生生物になるべきグループが生まれた時、そこからすでに元から2つに別れていたというわけなんです。
 で、この左側の、ここでいきなり、ぐっとすぼまってしまった連中が、二胚葉生物。 外胚葉と内胚葉しか無くて、 体がただ横方向に広がるしかなかった、そういう生物のグループがありまして、ある時、彼らは何等かの外力によってスパっといなくなってしまった。絶滅させられたわけですが、ただ、その外力が問題なんです。
 この時、地球の環境が非常に大きな変動を受けまして、それが何であったのか判りません。隕石の衝突だったのかもしれないし、地球の内部から何かがやって来たのかもしれません。ともかく、その事件さえなければ、三胚葉性の生物は、二胚葉性の生物に対して圧倒的に有利であったという根拠は全く何もないわけです。 進化というのは実は全てそれでして、日和見適応と呼ばれるものですね。何かの外力によって、系統全部が叩き潰されない限り、その生物は本当はそこで滅びるはずではなかった。恐竜の時がそうでしたし、ペルム紀末の大量絶滅の時もそうでした。地球上で初めて起こった生物相の大規模な入れ代わりというのはこれであって、もしこの事件さえなければ今どき地球上には三胚葉性の・・三次元性の体勢を持った生物はいなかったかもしれない。もしかしたら、彼らがこのまま進化を続けていれば、たとえば、フラットランダーとかプラニバースのように平面上に展開したまま知的生物まで進化したものもあり得たかもしれない。我々はひょっとしたら偶然の所産によって、たまたま三次元的な体を持っただけであって、ひょっとしたら惑星表面の浅い海にばーーっと広がる平面ネットワークの知性生物なんてものがあったのかもしれないな、いや、あればいいなというのが、私の結論です。
 果たしてそれが、今後コンタクトのシミュレーションに何らかの影響を与えるかどうかは知りませんけれども、一つ、そういうものを考えてみてもおもしろいのではないかと。実際、過去の地球にそういう事があったんだという事実だけはまあ、念頭に置いて頂いてもいいのではないかと思います。
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