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SETlからコンタクトへ  寿岳潤

 1959年にココーニとモリソンという二人の物理学者がネイチャーに短い論文を投稿しました。太陽以外の別の星に惑星があってそこにエクストラテレスティアル・インテリジェンス、略してETIといいますが、それがおれば、例えば我々のような別のETIとの間にコミュニケーションをはかることが考えられる。その場合使われる方法は電波による交信が最適であろう。さらに、その電波の波長は21cm、これはある物理的な意味があるのですが、この波長の電波を使うだろう、従ってこの電波でETIを探そうという論文を書きました。それはその当時の電波天文学の発展状況とも関連があります。
 一方、同じアメリカにいながらそれとは全然別に、フランク・ドレイクという若い電波天文学者で、すばらしく優れた研究者が、自分一人で同じ事を思いつきました。彼は電波天文学者でしたので、実際に国立電波天文台の85フィート望遠鏡を使って、太陽の近くで太陽に似た2つの星(くじら座タウ星、エリダヌス座イプシロン星)をその21cmの波長で観測しました。結果はネガティブでしたが、これがそれ以後のETI探し、search for extraterrestrial intelligence、略してSETIといいますけれども、そのSETIの発端です。  それから、35年以上たちました。私自身は電波天文学をやらなかったので、実際の観測には参加したことがありませんが、関心は持ちつづけてきたので、その間のことがらを、まとめてお話したいと思います。
 まず、現状。4年前に、それ以前の10年間えいえいと積み重ねてきた努力をもとにして、NASAで本格的なSETIをやろうとしたときに、SETIに対して国の税金を使うことは一切まかりならぬという決断が下されました。その背景として冷戦が終ったことと、アメリカの財政事情が悪くなったということがあります。
 そこでSETIの関係者はかなり落胆したのですけれども、一方、アメリカの偉大さというものを改めて感じさせられました。税金がだめならば民間の資金でサポートしようということになりました。ハイテクやコンピュータ関係の会社の社長達が個人の金を毎年出して、税金がでていた時代とほぼ同じ規模で計画はひき続いて行われています。
 最近のことですと、95年の2月から8月まで、ものすごく立派な受信機を持ってオーストラリアまで行き、太陽から80光年以内のしかも南半球だけでしか観測出来ない太陽型の星200個の観測が行われました。結果はネガティブでしたが。
 我々が住んでいる銀河系というのは直径が数万光年あります。それに比べると、太陽のそばの80光年というのはすごくせまい。たとえれば地球全体における日本よりも、もっともっと小さい範囲です。もちろん、現在の受信の技術というのは年々改良されていますから、観察できる範囲80光年はやがて100光年、200光年と、どんどんこれから広がっていくことが期待されます。ですからその意味で今までETIの信号が見つからなかったからといって少しも悲観する必要はありません。
 ところで、今日の話題。「SETIからコンタクトへ」ですが、現在世界中で150人ばかりSETIに感心を持っているコミュニティがありまして、その中ではもちろん、いっかは成功するだろうとみんな暗に期待しています。そして成功した場合に次のステップはどうするかということを、皆さん考えています。ところが、人類全体の56億人に比べると150人という数字は、それこそネグリジブルなので、一般の人々からの反応がフィードバックされることを望んでます。それで、こういう題でお話しますけれども、まずSETIのグループが作成した原則に関する2つの文書をお配りします。これはIAA(国際宇宙航行アカデミー)という学会が発案して起草したものです。
 1番目は、実際に観測に従事しているのは電波天文学者なので、電波天文学者が万一地球外知性からの電波を発見した場合、どういう行動をとるべきかという、一種の自己規制に関するものです。なぜこういうものを作ったかというと、わりと最近な例でいえば、1989年に常温核融合を見つけたという話があります。あの場合は最初のスターが3人いて、ひとりはジョーンズ、もう一方はフライシュマンとボンズですけれども、まさにこの3人の発表の仕方が典型的でした。
 ジョーンズの場合は、オーソドックスな科学の方法に基づいていろいろな実験をやっていました。研究の結果を一般に発表するためには科学者としてのちゃんとしたルールがあります。まずしかるべき学会、あるいは私達の言葉でレフェリーのあるジャーナルに提出してそこで審議してもらい、いわゆる御墨付きをもらって、はじめて一般に公表する。これは科学が今まで発展して来たことを支える基本的なモラルなのです。ジョーンズはネイチャーに投稿発表しました。ところが、フライシュマンとボンズの方は、お金のことに関係しているからでしょうが、そのステップをとばして、まずマスメディアに公表しました。
 その後、数年の常温核融合に関する歴史をまとめると、要するに常温核融合なるものは存在しないというのが科学者のまとまった書見です。不思義なことに日本というのはこの意味で完全に後進国なのですね。アメリカで徹底的に調べられて否定されてから、やっともそもそと動き出す。特に、文部省はいくらなんでもこういうことに金を出しませんから、通産省が税金をだすのです。科学史の研究家はこういう現象を病める科学(パソロジカル・サイエンス)と呼んでいます。
 そういうことがあったから、変な研究者が宇宙人と連絡をとったということを突然言い出しかねません。そういうことに関する規制なんです。それが第一宣言書の1ページと2ページにあります。基本的な思想はこういうことです。ETIがみつかった場合に、これはもちろん重要なことであるから機密があってはいけないという情報公開の精神、これがまず一点。しかしその場合に間違った情報を流してはいけないということがあります。従って、一般への公表の前に徹底的に同業者の間で確認をしなさいということが、1番目と2番目に書かれています。
 それから、3番目が今言った公表する手続きでして、それはもちろん世界中の天文学者と、それと具体的な細かい学会の名前が書いてあるのですが、それは省略しまして、それと同時に世間一般にも知らせなければならないとあります。次に最初に見つけた人は、もちろん、それが公表される前に共同研究者、つまり、発見はしなかったけれども、発見を確認する手段を持っている人々に世話されているのだけれども、発見を世界に向かって公表する権利を持っている。途中で確認するために使われた人は、絶対に発見者以前にそういうことをもらしてはいけないということが書いてあります。この人たちは論文審査における査閲者(レフェリー)にあたります。
 それから後はだんだん技術的なことになりますが、おもしろいのは(第8条)ある特別な星から信号がやってきたことがわかった場合に、その星に対して返事をだすかどうかは、国際的な協義が行われるまではなんの応答もおこなわないこととする。つまり、発見した人が喜んで「ばんざい」といってすぐ信号を受け取ったという返答を送ってはいけない。この宣言書では第8条が一般のマスメディアの関心をひいたのですけれども、それを除いてそれほど問題になる点はないわけです。
 この第一の宣言書は関連した諸学会、つまり国際天文学連合、宇宙空間研究委員会、国際電波科学連合、国際宇宙法評義会などで決議されています。ですから後残る問題は、更に細かくいうと、SETIを研究したり、SETIに従事している個々の研究者の署名が必要ですけれども、学会全体が認めているわけですから、個人個人まで署名を集めなくても、SETIに従事する人はこの宣言書に従うものとみなされていると思います。
 以上が1番目の宣言書なのですが、その第8条を更に敷術したものが、2番目の宣言書の草案です。協議が行われるまで返答はしないということに関して、この2、3年進展がありましたので、現在の状況をお知らせして、みなさんからの御質問と、特に、我々のような科学者でない人達の新鮮な御意見などを聞きたいと思っています。
 さきほどお話ししたIAAという学会のSETI委員会が中心になってこの2番目の問題、通信を受け取ったあとどういうふうにするかという行動に関して、議論が数年間行われてきました。IAAには主として科学者、工学者が参加していますが、SETIの問題はもちろん科学者だけの問題ではない。ある意味では幸せなことに、大学では理学専攻で、後に外交官になったマイク・ミショードという人がアメリカにいまして、SETIに非情に熱心です。従って我々SETIのコミュニティとしては、科学者以外の世界との、窓口に最適な人であって、その方がコンサルタントになっていろんな方針がまとまりつつあります。
 例えば御配りした宣言書は2種類ありますけれども、これも実際の文面はミショードさんがお作りになったと思います。ちょっとご覧になればわかるように、我々のような英語の素人が書けないような非常に格調高い表現になっています。
 ミショードさんは1994年の終わりから1年ほど前まで日本のアメリカ大使館にいらっしやいました。
 そこで2番目の宣言書に関してその背景からお話しますと、まず第一にこういう方針をきめる必要があるかどうかということから出発しました。つまり、30年間SETIをやってきたけれども、実際のところ今年中にみつかるとか、あるいは10年後にみつかるとか、あるいは100年後にみつかるとか、そういうことに関するなんの保証もないわけです。
 私はそこまで極端にいわないけども、多くの生物学者はこの銀河系、あるいは人によっては全宇宙の中に、唯一の知的生物は人類だけだということをいいます。そこまでのアーギュメントもずいぶんいろいろあってそれはそれでたいそう刺激的です。それを話すのは今日の目的ではないのですが、仮にそういう音見が正しいとするとSETIは絶対に成功しないわけで、第2の宣言書は考える必要もないということになります。
 ですけれども、一方、最近の受信技術の進歩をみていると、いつETIからの信号を受けても不思議はないわけでして、従って、こういうことを考えることは意味があるという点に関しては、だいたいSETI委員会の意見が一致しています。
 そうすると次の問題は、じやあ、返事を出すか出さないか。信号の内容がわかるまで、返事を出すべきでないという書見もあります。そのことも含めて次の問題は、一体誰がそれを決めるのか、このことは個人が決める問題じやないですね、そうすると個々の国家がそれをきめるのか、あるいは個々のいろんな組織がそれを決めていいのか、といった問題が次に出て来ます。
 それから3番目に、返答する場合にその内容をどうするべきか、という問題も出て来ます。
 そういう3つのことを議論するのに科学者だけではいけないわけですから、つまり別のアプローチをとらなきゃいけないということで、IAAのSETIの委員会で、草案(たたき台)をまとめました。それが2番目の、つまり3ページと4ページの宣言書であります。英語の詳しいことは読んで頂くとして、ここでは簡単にどういうことが書かれているかだけを御説明申上げます。
 一番目は国際的な相談、会義、というのは広い意味にとっていただいていいんですけれども、相談の場が必要であるということ。そういう場合にすぐ思いつくのが、国連の宇宙空間平和的利用方法に関する委員会が中心になるべきだろうということです。ただし、こういうふうに書くと非常にかっこいいんですけども、宇宙空間平和利用委員会というものの実態は、これも想像がつくのですけれども、いろんな国、この委員会に関心をもって代表をだしている国は、国連の加盟国全体じやなくて、61ヶ国なんですけれども、その61ヶ国の関心の大部分はいかにして自分の国の利益を守るかということに費やされているわけです。IAAとしては、こんなところに全部任せたって何も行動をおこさないのは予想されるけれども、あらかじめ、IAAも含めて非政府団体がいろいろ義論をしておいて、案は作っておく。案を作っておけば、万一、万一か百一かしりませんけれども、ETIからの電波が受かった場合には、さすがにそのときには国連の宇宙空間平和利用委員会も無視できないから行動をおこすだろうということを暗に仮定しています。
 従ってこういう問題に興味のあるグループはいかなる場合にも議論に参加できるような形にしておかなければならないというのが2番目です。
 それから今のことと関連いたしまして、宣言書の内容についての議論はすべての関心ある国家の参加に公開されていて、この点が重要なところです。それから総意を反映したコンセンサスに基づく推薦がなければならないとはいわないんだけれども、そのようになるよう意図された案を作っておこうということです。これが3番目。
 4番目。しかし最終的には今私が述べた3つの問題は、結局は第1段階として国連の宇宙空間平和利用委員会と、それからもう一段あがって国連総会で判断すべき問題であるというふうになっています。
 ここから先は少しまた新しい哲学というか原則が入ってくるわけです。現在の地球の上での通信・電波の広がりぐあいをみてると、個々の国家が、個々の国家どころじゃない、放送局も組織とみなすと個々の組織まで、そういうものがてんでばらばらにやっています。けれども、そういうことではなく、全人類の名でなされるべきだということをうたっているわけです。
 が、私の知ってるところでも、すでにこの原則に反対する人がいて、これは先程の松田さんのお話しにもでてきた人ですが、ダイソンがこの考え方に反対です。仮にケンタクルス座アルファ星の惑星に住んでいる宇宙人が地球からの電波がそういう単一の独裁国家からのような返答が返ってきた場合、それに満足しないというのがダイソンの意見です。
 それから、ここまでは返答するかしないか、するとした場合の方式の問題でしたが、次が内容です。これはもちろん人類の未来に関することがらとも関係があるわけですから、注意深い考慮が必要です。やはりその内容は送信以前に人類一般に公開されねばならない。先ほども言いましたように科学者というのは情報公開の精神に本質的に基づいているけれども、それと同時に不確かな情報を公開してはいけないという考え方も持っています。例えばアメリカのUFOの話にかわりますが、アメリカの知識人のかなりの人が、アメリカ政府はまだUFOに関する秘密の情報を隠している、あるいは偽の情報を流しているが、実際はアメリカ政府はUFOにのってきた宇宙人と接触しているということを、信じています。この立場は、具体的にはベトナム戦争時のアメリカ政府の行動を点検すると理解できます。
 UFOに関するアメリカ政府が持っている情報、最近は情報公開法でみなアクセス出来るようになりましたから、それを見れば、そういう考え方がいかにばかげたものかはわかるのですけれもど、そういうこともあるので、大切なことは全部公表されねばならないということがうたってあります。
 7番目は、宣言書に長い年月という表現がありますがこれは信じがたいほどの年数になるわけです。1000光年以内に我々人類と同じ様な知的生命体がいると考えた場合は、そういうものは銀河系全体でせいぜい数十個だろうという考察があります。という事を考えると、長年というのはこれは数千年から場合によっては数万年にわたることになります。従って、普通のみなさんが考えるような電話で『もしもし』に対して『はいはい』というような形の会話は全然成立しない。そういう場合に、人類自体もこれから千年の間にどういうふうに変わっていくかということは、例えば先程の松田さんのような話しもありまして、わからないわけです。わからないといってはいけないんですが。つまり、今送った返答に対して更に返答が返ってくるまでに数千年かかるということを考慮して返事の仕方を考えないといけないということをうたっています。
 8番目は、先程もちょっと触れましたけれども、てんでばらばらのことをしてはいけないと。このへんはおもしろいので、鹿児島大学の森本さんは、私はとてもその説に賛成出来ないんだけれども、仮になんとかという星から信号を受け取ったということがわかれば、受け取った科学者がマフィアに拉致されて、マフィアが向こうの情報を独占して、それで世界、世界というのは地球ですが、地球を制覇するというようなシナリオを考えられて書いています。宇宙科学研究所の平林さんも「地球の特定の勢力がETからの情報を独占すれば地球を征服してしまうかもしれない。」といっています。
 いずれにしろ、5番目と関連して、国連の中で全体の合意が得られるまでは、個々の国家、ということは当然ながら個々の組織も含まれるのですけれども、そういうものが地球外知性と通信してはならないということが、書いてあります。そういうルール違反のものがあらわれたときには、国家としてそれに協力してはならないとかいてある。これが8番目。
 9番目は、要するにこういうことを議論するためには、国家と国連の諸機関にとっていろいろな意味での専門家が必要なわけで、そういう専門家に相談すべきだと、相談する方がよろしいでしょう、ということが書いてあります。
 最後に、実際上返信するとなるとそれなりにちゃんとした専門知識をもったエンジニアと、それから部分的には科学者も含まれるでしょうけれども、そいういう人々の助けを借りないと返答もできないわけで、それなりのしかるべき組織を作りなさいということが書いてあります。
 これが今の段階でドラフト、草案でありまして、これからいろいろなところからの意見をまとめて、第1番目の宣言書と同じように一般の同意を得たものにしようというのが現在のSETIに関係している人達の間の考え方です。
 以上は向こうからの信号をみつけようとする場合のことを考えてきました。これとは別に向こうからの信号を探すだけではだめだ、もっと積極的に我々の方から信号を送るべきだという思想を持っている人がいます。
 これはシアトルにあるワシントン大学のサリバンが解析した有名な例ですが、地球に近い星のひとつにバーナード星というのがあります。そのバーナード星の惑星に地球にあるのと同じような電波望遠鏡があって、地球をずっと、具体的にはわれわれの太陽を観察していたとすると、今から70年前には人工的な電波はぜんぜんその星から出ていなかった。ところが、それから後現在にいたるまで地球が発信している人工電波はそれこそ指数関数的に増えていまして、従ってバーナード星の惑星から地球を観測していたとすれば、地球に関するもろもろの性質がわかります。つまり、地球が一日24時間で回転しているとか、地球が太陽の周りをまわるのが365日であるとか。これは地球のテレビ放送で宇宙空間にたれ流されている、信号の内容とは全然無関係な電波周波数の時間的変化の観測からそういうことはすでにわかっているはずだと、サリバンは述べています。
 それで、好む好まざるとに関らず、我々は地球から地球で科学技術の進歩がこの程度になっているという情報を銀河系全体に対して既に発信しているわけです。これから10年か20年の間にどんどん太陽以外の星の周りに惑星があるというのがわかって来るでしょうから、積極的に惑星があるらしい星に向かって、積極的にこちらから信号を送るべきかどうかと言う問題がでてきます。
 この宣言書は正確には表現していませんけれども、そういう提案に対しても同じような考えを適用すべきだということを言っています。そうすると思い出すのは、1974年ドレイクやセーガンが中心になって、地球から2万4千光年離れた球状星団M13に向かって電波信号を発信したことです。それからもっと最近では10年ばかり前、平林さんと森本さんがアルタイル(距離16光年)という星に向かって絵でかいた、絵を0(on)と1(off)で表すような画面をこしらえまして、その信号電波を送ったことがあります。私の指摘は、もちろんそのアルタイルという星には多分地球のような惑星があったとしても、星の年齢が若いのでまだとてもETIはいないとおもいますが、そういうアクティブなSETIをおこなうべきかどうかという問題にもこの宣言書は関連しているということです。
 以上、電波でETIの存在を研究しているグループはただ見つけることだけに熱中しているのではなくて、見つかった後のこともまじめに考慮していることを理解していただきたいと思って、現状を簡単に説明いたしました。
 (天文誌スカイウォッチヤー96年11月号に「宇宙文明」について一文を書きました。関心のある方はごらん下さい。)
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