CONTACT Japan

CONTACT Japan 2 分科会1

「世代宇宙船の設定」分科会

(分科会レポートは各分科会のリーダーおよび書記によって書かれています。)
「世代宇宙船の設定」という担当が決まったときに、私のもくろんだ段取りは、「一人当たりの生命維持に必要なリサイクルシステムをあらかじめ調べておけば、当日の話し合いで乗員数を決めて宇宙船の規模は求められるなあ」というものであった。
 閉鎖生態系についてはCJ1のプログレスレポート用に調べた資料が多少あったので、それで調べるとし、目的地はCJ1の時と同じεインディとした。
 参考までにその時の資料から閉鎖生態系で一人当たりに必要なエネルギーは1000kWとなっていた。現在の都市での一人当たりのエネルギー消費が1.2kWであるから、800倍以上のエネルギーが必要なことになる。また、耕地面積は完全に人工栽培システム(二酸化炭素の濃度を地球よりも濃く、植物が成長するのに最適な濃度にするなどの条件を入れて)12平方メートルとなっていた。実は「小地球を作る」という本に生命維持システムの設計図のようなものが載っていたのだが、本自体をどこかに無くしてしまって今回の企画には準備できなかった。
 CJ2当日。筑波から神戸はさすがに遠く、6時には家を出たのに会場についたころにはスタッフはほぼ全員集まっていた。企画を補助してくださる前野氏と打ち合わせ。前野氏曰く、「まあ人数とか規模とか決まったら、推進の方は単純に計算できるからなあ。」なるほど。
 オープニングが終わって企画開始。企画の説明をし、何年かけて行くかを相談した。結局、最高速度を光速の1%とし、εインディまでおよそ1000年かけて行くことにした。
 ここで企画者が予想していなかった意見が出される。(予想していないほうが悪いんだが)「ゆっくりと行くだけならコールドスリープの方が良いんじゃないですか。」ここから話は「世代宇宙船以外の方法で恒星間飛行をする」方向に移る。
 出された案はコールドスリープ、受精卵や精子の状態での冷凍保存、遭伝子情報のデジタル化などであった。このうち、コールドスリープや冷凍保存については1000年単位での運用が本当に可能かどうかという点で疑問が出され、デジタル化についてはその可能性自体が疑問であると指摘された。また、コールドスリープ以外の方法では生まれて来た子供への教育をどうするかという問題も指摘された。このようなことから結局「遺伝子の最も確実な運搬者は人間」ということに落ち着き、初めの予定通りに世代宇宙船を設計することになった。また、地球周辺で建造したのち、乗員を乗せて生態系の安定化を数十年単位ではかり、それから恒星間飛行に出発することとした。
 そこで今度は宇宙船の中で一つの社会を維持するには、どのくらいの人口が必要かについて義論した。これについては数千人から数万人という意見が多かったので、義長の一存で一万人とした。これは一つの市よりは小さいが、大きめの町ぐらいの人口であり、妥当な数字ではないかと思われる。
 次にこの一万人を乗せる船の規模であるが、私の準備して来た「耕地面積12平方メートル」という値に、ゲストの金子隆一氏より待ったがかけられた。閉鎖生態系の実験「バイオスフェア2」では8人が20万立方メートルに住み、それでも失敗した(途中で空気の入れ替えなどがあった)ことから、最低でもこのくらいの体積がないと余裕のある生態系は作れないのではないか、という意見である。理論値よりも「バイオスフェア2」の実験データを使ったほうが確かに説得力はあるので、その意見にしたがい宇宙船の体積をバイオスフェア2の1000倍の2億立方メートルとすることにした。これで一人あたりの体積はバイオスフェアの0.8倍となるが、足りない分はリサイクルシステムの確立や多大なエネルギー消費によって補っていることとした。
 これを直径2km,長さ6km,高さ5mの円筒型とした。いま考えてみるとものすごく天井の低い設定である。構造強度などを考慮してもっと天井を高くしたほうがよかったのではないかと今になって思う。あと知恵でとやかく言ってもしかたないので、企画で決まった形で話をつづける。
 円筒を回転して重力を出すので、円筒の側面全体が中に住んでる人にとって大地となる。土砂の厚みは頭上の空間と同じ5m、その比重を1.5で計算すると土砂全体の重さは3億トンとなる。土砂以外の積み荷や構造材を計算する時間がなかったので、それらをひっくるめて宇宙船全体のペイロードを6億トンと設定した。
 ここで前野氏による推進材の量の計算がはいる。質量比を5とし、推進剤は24億トン、噴射速度は光速の1.25%で行ない、必要なエネルギーは1.04×10^26Jとなった。100年で必要なエネルギーを準備すると、3×10^13kWとなった。CJ1では10^17kWのエネルギーが必要であったので、4けた低い数字となっている。ただし現在の地球の全エネルギー消費は10^12kWであるので、この時点ですでに現在のエネルギー消費量を上まわっていることには注意しなければならない。
 宇宙船の中の一万人の生命・生活を維持するために必要なエネルギーは3×10^20Jであり、推進に必要なエネルギーの1万分の1以下であるので、あまり深く考えなくてよいようである。
 運用および社会システムであるが、細かい設定までは時間の都合上(と司会の不手際のため)できなかった。現在の空母の乗組員が5000人で、全員がなんらかの役職を持っていることを考えると、この宇宙船では自動化がすすんでいるだろうが、それでもなお乗組員のほとんどがなんらかの仕事を受け持っていることになる。また例えば航行システムにかかわらないゴミの処理など生活に密着した仕事でも、資源をリサイクルしている以上、ほんの小さなミスが乗組員全体の生死にかかわることがある。このようなことから乗組員には全体主義的な教育が徹底されるべきだという意見が出された。また、仕事の量が多いので、不満を言っている暇もないのではないかという詰もでた。
 当日の発表ではCJ1の恒星間飛行との比較を行なった。同じ場所に50年で行く場合と1000年かけて行く場合では、確かに1000年かけるほうが消費するエネルギーははるかに少なくてすむ。それでもなお現在の地球で消費する全エネルギーの10倍以上のエネルギーが必要であることは頭に入れておかなければならない。よほどのエネルギー革命が起こらないことには恒星間飛行は難しそうである。ただ、太陽系内部の開発(月や火星の開発、宇宙ステーションなど)にしても莫大なエネルギーが必要なことに変わりはないので、太陽系内部の開発がうまくいけば恒星間飛行も可能になって来るかもしれない。
 最後に、参加してくださったみなさん、ありがとうございました。
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