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CONTACT Japan 2 分科会1

「N本足の生物の道具」分科会

(分科会レポートは各分科会のリーダーおよび書記によって書かれています。)
 みなさま、お久しぶりです。「N本足の生物の道具」の司会をさせていただいた當麻峰子です。
 早いもので、あの楽しかった日々からもうニヶ月以上もたちました。みなさまのお手元に届くのは春頃とうかがっているのですが、あの紅葉の美しかった(寒かった‥‥(^^;))六甲山を、思い出していただけたでしょうか? あ、申し遅れましたが、あの節には大変お世話になりました。(ぺこぺこ)
 さてさて、アフターレポートですね。アフターレポート‥‥何を書こうかなあ。いえいえ、まとめはもうあの際に皆様のお手元にお届けして、質疑応答もありましたし、なんかこれ以上細かいことを書いてくどくなってもなあ‥‥と。それ以上にもうニヶ月もたっているのであまり細かいことを突っ込まれると記憶が‥‥いやいや、あわわ^^;)
 と、いうわけで(なにが訳なんだ)当日の「一参加者としての私の体験談」というのをまじえてもう一度、あの時の分科会のレビューをさせていただきます。スタッフの末席を汚していたのでちょっと一般参加者とは違った体験談となると思いますが、それもまあ、一興ということでお目汚しをお許し下さいね。
「峰ちゃん、甲州さんこないからね」
「え!?」
 ガガーン。一昔前の擬態語が大文字で頭の中を踊り狂う。
 時は11月2日。場所はYMCA六甲。
 おい、コンベンションまであと1時間だぞ、の世界である。周囲のスタッフの気の毒そうな視線が突き刺さる。みんな、手に手にこの日のためにここぞとばかりに用意した資料、もしくは知識の粋髄を集めたノートパソコンをもっている。
「だって‥‥うち(N本足の生物の道具)の売りって甲州先生なんですよ?」
「そうね」
「だって、甲州先生が司会進行で、わたしは板書書き要員で‥‥」
「でも、来ないものは来ないもの。原稿があがんないんですって」
 ガガーン。嘘つきー! 今度は最初っから参加するってニューズレターに寄稿してたのにぃ。と頭の中で誰かの叫ぶ声がするが、相手は恐れ多くも新田次郎賞受賞の、ほとんど顔もみたことのないSF界の重鎮作家。しかも小松。はるかかなた北陸までは特急スーパー雷鳥でも三時間。それでも文句を声にだせない當麻は本当に小心者。
「だ、だけど私、科学知識とかほとんどないし‥‥」
「大丈夫、大丈夫、少しは勉強したんでしょ? それに大御所つけたげるから」
「大御所って、でも、だけど‥‥」
「大丈夫、大丈夫、参加者の人の方が絶対科学知識あるから」
 ひ一っっ! それのどこが大丈夫なんだーっ! 泣きながら當麻は走った。「大御所」つまり前回のCJ1で開会式を仕切った阪本氏のもとへ。おかげでグレッグ・バー氏の講演をききそびれた。
 「甲州先生がうりだったんだから、先生がいないんだったら誰も来なくて企画がつぶれるかもしれない」そんな恐れと望みを抱きながら必死にもう一度、題目を読み直す當麻。暗記しているのに目が文字を追うのをやめられない、まるで試験直前の受験生のようだ。
 『知性を持つ生物が使う道具を考えます。N本の足(実際に何本になるかは当日決定します)を持つ生物がどのような椅子を使うのか、どんな道具を必要とするのかについて検討します』
 いかにも通ごのみである。大阪工大出身の甲州先生だったら何の苦もないだろう。 が、當麻は完全文系だ。工学の「こ」の字ですら、まるで馬の首星雲にぽっかりと開いた深淵への誘い口に見える。はたして、N本足の生物はどんな道具を使うのか?
 くらくら。
 頭が痛くなる。いや、この企画のアシスタントに決まったときから頭痛はしっぱなしなのだが、所詮は甲州先生が全部仕切ってくれるもの、と安心しきっていたのだ。甘い、あまいぞ當麻。おまえの人生はそんなにたやすくない。
「と、とりあえず、設定地獄にだけは陥いりたくないなあ」
 當麻は固く決心した。しょせん、豆腐のような固さの決心だが、凝れば時間がたりなくなるという恐怖だけは、前回のCJ1でおぽんちな頭じゃなく、骨の髄に叩き込まれている。おバカは頭より体で覚えるのが一番なのだ。
 「N本足の生物の道具」というこの簡潔な命題ですら、考え出せばどこまでも広がる。道具、といえばこん棒を握り締めた原人の絵が小学校の教科書に「人類の道具の歴史のあけぼの」として載っていたが、この異星人の手と指の数は幾つなのか? どういう形態をしているのか? 果たして指自体あるのか? そういう形態に終結した進化過程は? そのような進化を促すまわりの環境は?
 極端なことをいえばファーストコンタクト時に、相手の持っている道具から推察される文化背景や嗜好から得られる情報量はいかばかりなものになるだろう。「百聞は一見にしかず」。情報量において一つの道具の視覚情報から得られる情報量は百の文献よりも、よほど雄弁である。
 その点、今回は「椅子」ということで限定されている。ありがたや、ありがたや。とりあえず指の数はかんがえなくていいぞ。
 何の拍子か英文科に所属したため、三行の詩からその著者の思考文化背景を妄想して三百行以上の論文にするという荒業を大学時代に叩き込まれた當麻は文化、環境背景設定にこだわったが、お目付け役の「大御所」と拝み倒してイラストレーターについていただいた落合香月女史に説得されて、「あくまで道具を設定すること」を第一義におく。結局はお二人が正しかったことがのちに判明する。
 ということで、まず下記を設定する事がスタッフの間での大原則となり、分科会の最初のときに参加者にお知らせすることになった。スタッフ側で参加者にかぶせた規制はこの二つのみである。

1)人類の現在の技術レベルを越えない程度の身近な道具
2)向上、進化する文明をもち道具を改良できる程度の知性をもつ生物
1)は、人類の現在の技術レベルを超える道具を設定していると手におえなくなり、分科会が崩壊することが目にみえていたため。「椅子」という命題がとりあえずあったが、時間が余った時にも「人類に身近な道具が形態の違う異星人においてはどのように発達していくか」ということを主目的におくことにした。
 2)は、昆虫や、類人猿でも道具は使う。オオアリクイ程度の知性の異星人の道具を設定しても、その後の発展がおもしろくないので、せめて人類程度には将来性のある(?)生物の設定をめざした。
 極端な話、道具にまつわる部位さえ決まれば異星人の外観さえどうでもいい、ということが前提になったので分科会の始まりに以下のことを決定した。(呼び物の甲州先生が不参加だったのに参加して下さった心優しい方々、どうもありがとうございました)
1)
 「N本足」の「足」を「肢」と定義し、全体の肢の数を決める。肢には移動用のものと捕獲(道具使用)用の二種にわかれると定義し、移動用の足の数を決める。そうすると、自然に捕獲用の肢の数が決まる。
 全体5本、移動用3本、手が2本ということがダイスで決定される。ダイスは参加者の方にふっていただきました。ダイス数は2個。

2)
 発生地を (1)平原 (2)海辺 (3)樹上 (4)山地 の四候補の中から挙手方式により平原ときめる。海中が外されたのは、海中でどうしても道具を発達させる必然性、というのが思い付かないのと将来宇宙へ進出できる可能性というのがほしいなあ(^^;)というロマンのため。やはりみなさん、宇宙進出は夢なんだなあ、としみじみ。
 捕食者より被捕食動物で、しかも足はのろいため知性が発達する必然性があり、生存競争で生き抜くのに有利な雑食性であったということで合意に達する。

3)
 さて、椅子、といえば足なので次は「足の機能の設定」。 というわけで(1)〜(4)は挙手により多数決で。(5)は参加者の方にふっていただいたダイスで決定。(ダイスは1ダイス)
 (1)生えかたは平面的か高低差があるのか?→平面
 (2)生えかたは同源か異源か?→同源
 (3)進化の初段階から機能的区別はあったのか?→なかった
 (4)配置は対称か非対称か?→対称
 (5)手足の関節の数は3節。
(5)に関しては、肘が2個と手首ということは話し合いにより決定。
 あくまで椅子を設定するのが目的なので、この時点では肢以外の外観はまったく視界に入っていない(^^;)。
肢の骨格と全体のうにょうにょした形をホワイトボード上に見ながら、ひそかに當麻は「この生物に目鼻が生えてくることが、この分科会の終わりまでに、あるのか?」と恐れていた。
 だって参加者に目鼻をはえさせようという熱意がこれっぽっちも感じられなかったのだ。確かに椅子にすわるのに目鼻はいらない。
「うみゅみゅみゅむ」
 様々な意見がでた中で、なぜ、この足の数と配置では外骨格より内骨格の方が適切なのか、どうして中の二本が道具を持つ手に進化していくのか、とうとうと科学知識を元に説明していく参加者の説明に當麻がうなる。
 うなるだけではない、目からうろこがポロポロ。
「わあ−い、みんなすごいんだあ^^;)」
 こら、素朴に感心してるんじやないってば。
 一人突っ込みをいれたくなるが、その間に頼りない司会者をはるかかなたに取り残して、前の並行な2本と後ろが1本が移動用の足に、真ん中の2本が手に進化し、進化により適しているということで外骨格ではなく内骨格の生物ということで合意した参加者が、いよいよ椅子の設定にとりかかっていく。
4)道具の設定。
 まずは、パンフレットにもあった椅子から。
 参加者からでた意見として、彼らに椅子が必要なのか。という素朴な疑問がまず一つ。
「体型的に人類のように腰の一ヶ所に負担がかかることはないだろうねー」
「うんうん」
「背骨は疲れるかもしれないけどね」
「うんうん」
 うんうんうなずくのみの司会者をおいて、なぜ背骨が疲れるのか、この骨格だと疲労はどこにたまるのか、ひとしきり論義がなされた後、「椅子」は脚の疲れを減少させる程度のものになるだろうという結論におちつく。
この間に、中の2本が手に進化し、脚が前が2本で、後ろが1本の場合には後ろの一本が太く強力に進化しただろうという事で意見が一致する。
「さて、このような立っていることに負担がさほどかからない生物の休息用の椅子としてはどんなものがあるでしょう?」
「はい! またいでのるドーナツ型」「内臓が圧迫されないか?」
「これだと内臓は骨からぶら下がっている形にならないか?」
「大体、足のついてる骨盤はどうなっているんだ?」
 ひ−っ! ムンクの叫びと化す司会者。
 しかし、参加者の方々は偉かった。當麻のわからないはるかに崇高な生物学的知識が瞬く間に駆使されて、垂直骨格(脊椎)をもち、5個の独立した骨盤から5本の足がでている生物であることが生物学モデル的に一番効率がいいことが説明される。そうすると口は体の前面下側にあり、首はなくてもかまわないことが導き出されるのだそうだ。
 ちやんと理解して合意モードに入りうなずいている参加者のみなさま方と一緒に、その豪華絢爛な学説にすっかり酔ってうんうんとうなずく司会者。なんか今日一日ですっかり頭が良くなった気分であるが、あくまで「気分」なのでぜんぜん身についてなかったことが後日判明する(涙)
 この段階で椅子の前後はあるのか? という疑問から感覚器官はどうなっているんだ? という話になり、ダイス2個を参加者の方にふっていただき、視覚、聴覚感覚器官の数を決定する。
「八目うなぎは嫌だなー。最大12個かあ‥‥^^;)」
 ひそかに心配する當麻。が、なんということか目は4つ、耳は5つという極めて美しい数字になってしまったのだ。耳なんて足の数と一緒なので位置まで決定してしまう。足に対応してるんだ!
「お一、すごい。草原の被捕食獣らしいなあ」
「これで目が前後をカバーできたら360度周囲を警戒できるもんね」
 という訳で目は前面に2つ、側面に2つということになる。
 前の二つで立体視し、後ろの二つで周辺視するという機能分別が、のちに「パソコン画面はどのようになるのか?」という話の時にきまる。
 が、とりあえずは椅子だ椅子。
 ドーナツ型のクッションは文句無しに満場の支持をうけた。次は釣り下げ型だ。
 「釣り下げ型‥‥」その瞬間、當麻の頭に浮かんだのは、牛の運搬時に使用するハーネスであった。‥‥美しくない。
 が、手間暇のかかり方と、職人魂をよびおこす柔軟性からこちらの方が贅沢品になるだろうという話になる。金細工の支柱で支えられた総レースの天蓋つき釣り下げ椅子‥‥美しいじゃないか。
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 話はさらに盛り上がる。
「じゃあ電車の中は、シートベルトの長いのっていうか、おぶい紐みたいのがあって自分でかっちゃんと装着するのね?」
 うみゅみゅみゅ‥‥。そこから交通機関に関して話がもりあがる。ファミリーカーはピザー屋の宅配バイク(あのフードのついた三輪バイクみたいなやつね)を連結器でつなげたものだ、とかバスなども連結器でムカデみたいにつないだものになるだろう、とか。そこで素朴な疑問。
「自転車はどんなの?」
 人力で歩くより速く楽に移動できる道具、自転車。
 もりあがる参加者。すでに司会も司会の立場を忘れている。
「やっぱり最初は腹の下に抱え込んで足でけるスケボー型でしょう」
「後足が強いんだから、ペダルを踏めば進む、昔あった子供のおもちゃみたいなのがいいと思うんだけど」
「ああ、あれ!」
「あとサイクルスポーツセンターである、伸縮作業で移動する‥‥」
「???」
「ほら、こういう」
 みんなパフォーマーになるなる。自作自演でうみだされる様々な名機たち。結果、スケボー→腹の下に抱え込んで前足と後足の伸縮式で移動するもの→クランクペダル式の順で進化するだろうという話になる。
 クランクペダル式は香月さんの華麗なイラストでみなさんの記憶に残っていることでしょう。もちろん子供はどうのせるのか、とか悪天候のときの幌のかぶせかた、とか荷物入れまでバッチリ細かい設定がなされる。いやあ、すばらしいもりあがりでしたね。実際その場で作成できそうなノリでした。

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 さて、残り時間で出る話はやはりパソコン机(パソコンラック)^^;)
 「なんだかなあ」と「やっぱり‥‥」という自嘲をもらしつつ、みんなゆずらない。
 この時点でいったいどうやって工作するんだ、という話になる。手は一応口の前までまわるのでなんとかなるだろうが、流れ作業で隣と協力する方が楽そうだ、とか。前面だけに目があるわけでなく分視が可能なので頭上にもちあげて作業するのも楽だろう、とか技術系の方々が熱論をくりひろげる。
 上からみればちょうど、チョコレートのアポロのような形の生物なので(つまり腹がでている)∪の字形の机になるだろうという話になる。頭上に360度ワイドスクリーンで画面がでるという話も出たが、曲面処理が難しいということで前にモニター、左右にキーボードになるのではないか(手は前にまわすより横方向の方が楽)というところで落ち着いた。
 ここで話は宴会にとぶ。(この話の流れがやっぱりSFさん、というかなんというか^^;))
「やっぱ大テーブルは∪字型の組み合わせで花型ね」「あ、お膳みたいにもって運んで組み合わせたり?」
「べつに大型テーブルでもいいけど、波形もいいんじやない?」
「自分でくうより、隣に食わせる方が楽そうな体型だなあ‥‥」
「料理は左右に盛ってあって長い箸で隣にくわせるってか。極楽じやないんだから(笑)」。
 とひとしきり笑いをとった後、話が盛り上がって楽器に話が飛び火する。
「やっぱパーカッションだね!」
「踏むのは得意そうだもんな」
「じゃあ、パイプオルガンみたいなやつ」
「ほら、よく夜の駅前で外人さんが演奏しているドラムとアコーディオンとうんたらかんたらが一緒になった‥‥」
「ああ、あれ!」
「どれにしてもうるさそうだなあ‥‥」
 あくまで「繊細」から程遠いイメージのN星人。
 最後に名前を設定して締めとなる。通称「ペンちゃん」。五本足なので「ペンタ星人」という、まあ安易といえば安易ですが、いいんじやないでしょうかという和やかな雰囲気の中で裁決される。

 というわけで、最後まで楽しく遊ばせていただいた分科会でした。司会が参加者の皆様方に遊んでいただくといった趣となってしまいましたが、皆様にもそれなりに楽しんでいただけたんではないかなあ、とちょっとだけ自負(えへへ(^^))。短い時間であれだけきれいにまとまったのは、本当に参加者のみなさまのおかげでした。どうもありがとうございます。

 末尾になりましたが、お目付け役&書記の阪本さんと素晴らしいイラストをボードと紙に展開し、非常にお力になっていただいた香月さんに、心からお礼を申し上げます。
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