宇宙開発や宇宙旅行には莫大なコストがかかります。必要なエネルギー量を考えると、かなりの未来になってもこの状況は変わりそうにありません。現代においても宇宙開発などの予算は他を圧迫し、真っ先に削減の対象となってしまいます。そこで、どうすれば市民の支持を得られるのか、どのようにして宇宙開発の予算を得るのか、を討議しました。実際に、「日本ロケット協会」を中心に観光宇宙船「観光丸」の研究をされているパトリック・コリンズ氏を迎え、現状を踏まえながら分科会参加者全員で宇宙開発の意義やメリットを考えます。神戸大学の松田教授やアメリカの「CONTACT」からの参加者バー氏の顔も見えました。12名定員の会義室が予備の椅子をいれていっぱいになりました。 |
★コリンズ氏による「観光丸」の紹介
近年までの宇宙開発は、アメリカとロシアの競争の結果でありました。最初はミサイル(!)に乗って宇宙へ行くことからスタートして、月へのレースを競い、巨大なロケットの開発競争が続きました。
宇宙開発は、今でも政府の独占であり、毎年2兆円を投じています。現在の打ち上げ費用は非常に高額です。しかもロケットは使い捨てで、スペース・シャトルも既に設計が古く高コストです。低コストで打ち上げるには、飛行機のように、完全に再利用できるロケットを作らなくてはなりません。現在、NASAなどの予算が減らされていますが、その理由は市民の支持が下がってきたからであります。しかし、アンケートによりますと、多くの市民が宇宙旅行に行きたいと願っていることがわかりました。
そこで、日本の複数企業の共同研究プロジェクトとして、宇宙船「観光丸」の開発を進めています。つまり民間の宇宙開発プロジェクトです。政府の管理団体ではなくて、民間で宇宙事業を行うことの意義は、ビジネスとして行うことにより、コストダウンが計れるということです。企業が主体で行えば、様々な面でコストダウンが可能となり全コストを安くすることができるでしょう。「観光丸」は宇宙港から離発着できる恒久使用型です。
「観光丸」の場合、100万人をベースとする宇宙旅行市場があるとしますと、一回の宇宙観光旅行料金は、一人当たり200万円で可能と試算されています。この金額なら、多くの市民が宇宙へ行こうと思うはずです。
翌日の講演に先だって宇宙船のスライドも見せていただけました。「観光丸」計画の紹介が終わって参加者から質問や意見が相次ぎました。
(参)参加者:ただし全員一致の意見ではありません。
(コ)コリンズ氏発言
(参)宇宙旅行の費用が200万円とした場合に、市場性はあるのだろうか?
(コ)ある。世界一周クルーズと同じ値段だ。車を買うのと同じ値段。若者でも行ける。
(参)ないと思う。世界一周にいっているのは、年寄りばかりである。時間と金のある老人ばかりが行っている。若者はいかないであろう。
(参)宇宙旅行といっても地球を周回するだけでは高すぎるのでは?
(コ)そんなことはない。この惑星を宇宙から見ることだけでもすごい経験ですよ。
「観光丸」の試算、要求する市場の実現性などについて、しばらく議論が続きましたが、少し時間を取りすぎたので、分科会本来の主題「宇宙開発」に話題を戻しました。
まず宇宙開発とは? の質問に参加者全員に答えてもらいました。十人十色の答えでしたが、主な答えは、
産業開発、宇宙や衛星や他の惑星での資源開発などのために行う。
「フロンティアスピリット。宇宙へ行くんだ」
の二つにわかれました。その後いくつかのテーマについて話し合いました。
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(テーマ)民間開発の場合、どうやったら予算が集まるのか。
個人よりも企業を引き込むことが大切。儲かることとなれば、企業は大金を出す。企業が宇宙へいくと、ホテル従業員など、多くの人間が宇宙へ行くだろう。
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(テーマ)企業を宇宙開発へ進出させるために必要なものは?
現在では情報産業のみ。新素材の開発、生産などもあるが、実際に宇宙で作った方が良いものがあるのかどうかは疑問もある。
環境汚染や地球温暖化問題、化石資源枯渇で、地球上でのエネルギー生産が不可能になった場合、宇宙で生産するしかない。エネルギー問題での宇宙開発という方向での開発が進むのではないだろうか?
企業が行動を開始する際には、市民の意向ではなく、儲かるかどうか、売れるかどうかで始めるであろう。
ちなみに「市民の支持」にもいろいろなレベルがあり「反対しない」というのも支持に含まれているという貴重な意見もありました。
企業レベルでの参加が必要であるとの意見は、全員一致したようです。また、企業が進出する場合には、市民の支持があるかどうかよりも、採算が取れるかどうかという点の方が大きな意味を持つのではないかと言う書見も出ました。
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最後に今後の宇宙開発の課題を話し合い、まとめました。
小国に打ち上げ基地を作り、そこで打ち上げすることが今後増えるだろう。現在もその傾向が見られ、さらに来世紀は促進されるであろう。(特にコリンズ氏発言)
宇宙開発の意味について、理解している人が一般には少ない。今後、教育していくことが必要であろう。
適切な動機づけがなされて、商業、経済、産業面からのアプローチが進めば、宇宙開発のスピードも速くなるであろう。
今後の宇宙開発に対する、楽観的な意見から悲観的な意見まで、参加者の活発な討議がなされました。さらに継続して討議できる場があればもっと具体的に有意義な意見がでたと思われます。コリンズ氏のインタビューが、朝日新聞、読売新聞、産経新聞、AERA(雑誌)に掲載され「観光丸」が大きく取り上げられる結果になりました。TV番組出演も実現したとのことです。
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