惑星表面温度の計算 |
近隣の恒星のエネルギー放射量の計算方法については、すでに本誌1、2号で紹介されている。ここでは、恒星からさらに進んで惑星の表面温度を計算する簡単な方法について紹介する。
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計算方法
計算は次の順序で行う。基本的な考え方は、惑星が吸収するエネルギーと惑星が放出するエネルギーが等しくなるように地表温度を設定することである。
1.恒星から惑星に届くエネルギーを計算する。これは、恒星の絶対等級や、恒星と惑星の間の距離などで求まる。
2.惑星表面の反射を考えて、惑星が吸収するエネルギーを計算する。
3.地表から出ていくエネルギーを計算する。
※これが地表温度の関数となっている。
4.温室効果を考えて、惑星から出ていくエネルギーを計算する。
5. 2.で計算したエネルギーと4.で計算したエネルギーが等しいとして、惑星温度を計算する。
それぞれの段階を順を追って説明していくことにする。
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1.惑星に届くエネルギー
これについては、本誌1号に載っている計算を用いる。恒星の(絶対等級)+(輻射補正)を求め、太陽の値(4.73)を差し引いた値をεとすると、恒星の放射するエネルギー量は太陽の(100の0.2ε乗)倍となる。地球に届く太陽エネルギーの量をS0(=1.37kW/m2)とすると、今考えている恒星系で地球と同じ位置に惑星があるとすると、その惑星に届くエネルギーの量は、 |
S1=S0×100
0.2ε |
となる。
つぎに惑星を動かしてみる。今考えている恒星−惑星間の距離をd
AUとすると、これは太陽−地球間の距離のd倍であることを表すことになる。(太陽−地球間の距離が1AUであるので)放射されるエネルギーは距離の2乗に反比例するので、結局惑星に届くエネルギーは |
S2=
SO×100 0.2ε/d2 |
となる。
惑星の半径をRとすると、恒星からの光が当たる面積はπR2であるので、結局惑星に届くエネルギーは |
E1=πR
2S2 |
で表せる。
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2.地表に届くエネルギー
太陽からの放射エネルギーはおもに可視光として地球に届く。このとき、地球に届いた光全部を地球が吸収するわけではなく、一部は反射されて宇宙空間に戻る。
この、(地球に届くエネルギー)のうち、(反射されて宇宙に戻るエネルギー)の割合がアルベードと呼ばれる値である。「理科年表」では[反射能]として載っている。地球では0.30、金星では0.78となっており、金星の方が太陽光を多く反射していることになる。
アルベードは主に地上の状態で決まり、畑や森ではアルベードは0.05、0.16程度で吸収する割合が大きいのに対し、新雪や氷雪では0.8以上の値となっており、太陽光の大部分を反射している。このため冷夏で氷が夏に融けないと、アルベードが大きいまま冬を迎え、さらに氷雪が発達して気温が下がるという正のフィードバックが起こり、惑星が寒冷化していく。
アルベードを用いると、地表に届くエネルギーの割合は、1からアルベードを引いただけとなる。アルベードをAであらわすと、地表に届くエネルギーE2は次式で求められる。 |
E2=
E1×(1−A) |
3.地表から出ていくエネルギー
ある温度に保たれた物体からは、その温度に相当するエネルギーが電磁波のかたちで放射される。表面温度の高い恒星の場合は放出される電磁波は可視光となるが、表面温度が低い惑星の場合には、エネルギーは赤外線の形で放出される。放射の法則によると、表面の単位面積あたりから放射するエネルギー量は、その物体の温度の4乗に比例する。この比例定数(ステファン−ボルツマン定数)をσ(=5.67×10−8W/m2K4)、地表温度をTsであらわし、地表が放出するエネルギーをE3とすると、エネルギーを放射する面積は惑星の表面積に等しいので、 |
E3=
4πR2σTs4 |
となる。
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4.惑星から出ていくエネルギー
上の輻射の法則に従って地表からはエネルギーが赤外線の形で放出されるが、大気には可視光は吸収しないのに赤外線は吸収するという性質がある。地表からでる赤外線で暖められた大気は、やはり輻射の法則に従い、地表に赤外線を返す。このため、地表温度は大気から来る赤外光のエネルギー分だけ、恒星から受けるエネルギーとつりあう温度より高い温度にならなければならない。このため、大気があると地表の温度は上がってしまうことになる。これが温室効果である。
図で示すと次のようになる。矢印の数がエネルギーの量を表している。
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宇宙 |
宇宙 |
(可視光) |
(赤外光) |
(可視光) |
(赤外光) |
↓↓↓↓ |
↑↑↑↑ |
↓↓↓↓ ↑
↑↑↑ |
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----------------------------- |
↓↓↓↓ |
↑↑↑↑ |
↓↓↓↓ 大気
↑↑↑ |
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----------------------------- |
↓↓↓↓ |
↑↑↑↑ |
↓↓↓↓
↓ ↑↑↑↑↑ |
地表 |
地表 |
(大気がない場合) |
(大気がある場合) |
地表から出る光と太陽光のエネルギーがそのまま釣り合っている。 |
大気が地表から出る光の一部を吸収して、地表と宇宙の両方に赤外光を出しているが、地表から出るエネルギーは左に比べて多い.
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地表温度の計算の第4投階として温室効果の影響を考えるのであるが、実際に大気による赤外線の吸収量を計算するのはかなり大変であるので、ここでは逸出割合ξを用いることにする。逸出割合は次の式で表されます。
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(惑星から出ていくエネルギーの量)
ξ= -----------------------------------
(地表が放射するエネルギーの量)
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上図で見ると、大気がある場合は地表から5本の矢印が出ているのに対して、大気から宇宙へは4本の矢印が出ているので、逸出割合は4/5=0.8となる(出ていく赤外線には大気からも地表からも関係ない)。大気のない場合にはξ=1となる。
温室効果は大気中の全ての気体が起こしている訳ではない。窒素や酸素のような同じ原子が二つ結合した分子や、
アルゴンのような一原子で分子となっているような気体は赤外線を吸収する性質を持っていない。
実際に地球で温室効果を起こしているのは、水蒸気と二酸化炭素である。現在、二酸化炭素の増加が問題とされているのは、このような理由からである。
特珠な環境を考えない限り、温室効果は二酸化炭素と水蒸気の絶対値に依存すると考えるのが一番分かりやすいと思う。太陽系の惑星の場合、金星には90気圧もの二酸化炭素の大気が存在するので、温室効果による昇温が500
℃にもなっている。一方、火星の大気の主成分は二酸化炭素であるが、大気自体が0.01気圧程度しかないので、温室効果による昇温は数℃しかない。地球はその中間に当たり、温室効果による昇温は30℃程度である。
これらの惑星についてξの値を計算すると次のようになっており、金星では赤外線のほとんどを大気が吸収し、逆に火星ではほとんどを宇宙に放出していることが分かる。
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これらの惑星の例をヒントに、これからつくる惑星の環境を考えて、ξの適当な値を設定する。ξの定義から、惑星から放出するエネルギーの量E4は次式で表される。
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E4 = ξE3
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5.地表温度を計算する。
惑星の温度が一定になっている場合、惑星が吸収するエネルギーと放射するエネルギーが等しくなってる。すなわちE2=E4の関係が成り立つ。このことから、次式が得られ、地表温度Tsが計算できる。
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πR2S2
(1−A) =4πR2ξσTs4 |
これをTsについて解くと、惑星表面温度が求まる。
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太陽からの距離(AU) |
惑星の受けるエネルギー(kW/m2) |
アルベード |
有効放射温度(℃) |
逸出割合 |
表面温度(℃) |
金星 |
0.723 |
2.62 |
0.78 |
−48 |
0.01 |
437 |
地球 |
1 |
1.37 |
0.3 |
−18 |
0.6 |
17 |
火星 |
1.52 |
0.59 |
0.16 |
−57 |
0.95 |
−54 |
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実際の計算例
ここまでの計算方法を用いると、表計算ソフトなどで簡単に惑星温度の計算ができる。金星・地球・火星の値を計算すると下の表のようになる。なお、有効放射温度は惑星に大気がない場合の地表温度を表している。
同じ条件の惑星を、他の恒星系に持っていくと表面温度はどうなるのであろうか。
まずはεインディ(絶対等級7.01、補正係数−0.52)から。3つの惑星の表面温度は次のようになる。
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金星 |
地球 |
火星 |
表面温度(℃) |
199 |
−80 |
−127 |
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恒星の放出するエネルギーが小さいので、惑星の表面温度は低くなる。地球の環境で表面温度を17℃にもっていくには、太陽からの距離を0.44AUの位置に設定すれば良い。これは水星よりも少し遠い条件なので、惑星の設定としてはあまり問題はないであろう。
一方、バーナード星(絶対等級13.23、補正係数−2.4)では次のようになる。
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金星 |
地球 |
火星 |
表面温度(℃) |
-99 |
−202 |
−219 |
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放出するエネルギーがかなり小さいので、地球の環境を設定しようとすると、太陽からの距離は0.06AUとなってしまう。これではあまりにも恒星に近すぎるため、実際に惑星を設定するのはかなり困難である。そこで惑星の環境を金星と同じに設定してみると、太陽からの距離が0.26AUで地表温度が17℃くらいに落ち着くことがわかる。
ただし、金星の環境では90気圧の二酸化炭素があるが、二酸化炭素は常温では約70気圧で液化してしまう。このため、この惑星は地表に二酸化炭素の海ができているような状態になっている。これほど二酸化炭素濃度が高いところで地球とおなじように呼吸する生物がはたして生まれるのか、が大問題になるであろう。このように惑星の温室効果を設定する場合には、それによってどのような大気環境が得られるのかも考慮しなければならない。
これで一応は或星の表面温度を決めることができたのであるが、ここでの計算はかなり大雑把なものであることには注意していただきたい。例えばこの計算では地温による気温変化を無視している。地球の場合には、地温の影響は太陽からのエネルギーの0.1%程度であるので無視しても差し支え無いが、設定によっては考慮する必要があるかもしれない。また、今回の計算は地球型の惑星について計算しているので、楕円軌道を措いていたり、地軸が恒星に向いた場合にはもっと計算方法を工夫する必要もあるだろう。
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◆参考文献
最新・地球学 朝日ワンテーママガジン 朝日新聞社
理科年表 国立天文台編 丸善
気候学概論 福井英一郎 朝倉書店
地球温暖化の対策技術 公害資源研究所 地球環境特別研究室編 オーム社
気象と環境の科学 山崎道夫、廣岡俊彦 共偏 養賢堂
使用ソフト アシストカルク 株式会社アシスト
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