CONTACT Japan

Proceedings of CONTACT Japan 1 Vol.3
参考資料集 Part 3

宇宙船の推進機関の原理

 恒星間を渡るような宇宙船の推進原理について、考えてみよう。
 まず、ロケットのような“何かを噴射して飛ぶ宇宙船”の場合の宇宙船の速度の式を見よう。

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 Xがロケットの得る速度、vはロケットが噴射する何かの噴射速度、δは質量比で、出発時のロケットの質量(燃料、推進剤含む)を噴射終了時のロケットの質量で割ったものである。
 ただし、この式は到達速度Xが光速度cに比べて小さい場合の式である。
 Xが光速に比較し得る程度の時は、この式は、

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のように変わる。
 ここではより簡単な(式1)の方で説明しよう。この式からわかるように、到達速度は噴射速度と質量比だけで決まる(噴射する時間など、他の要素は最終的な計算には入ってこない) 。
 ここで、噴射速度はXと比例している。一方、質量比の方は1ogの中に入っている。
 つまり、今あるロケットの速度を倍にするには、
   (1)噴射速度を倍にする。
   (2)質量比を元の自乗にする。
の2通りの方法(両方を混ぜてもよいが)がある。(2)の方法の方がたいへんそうである(質量比10のロケットと質量比100のロケットを思い浮かべて欲しい) 。
 となると、噴射速度を大きくする方が効果が上がる・・・ということになるが、実はめったやたらに噴射速度を上げる事はできない。それは、燃料に含まれるエネルギーの問題があるからである。
 最初、ロケットが止まっていた場合を考える。ロケットの質量をM、噴射剤の質量をmとする。

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 ここで、推進剤(●)が後方に噴射速度vで噴射されたとしよう。

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この時、運動量保存から、 MV=mvという式が成立する。
 一方、エネルギーはどうかというと、

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だけ、増えている。
 ここで、 MV=mvを使ってXを消すと、

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となる。ここで、Mがmに対して大きい時ならば、

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と、簡単に考えていい。これは実は、使われたエネルギーのほとんどが推進剤のエネルギーとなり、宇宙船のエネルギーにはほとんどならない、ということを示している。
 エネルギー保存則からして、この分のエネルギーは誰かが供給しなくてはいけないが、供給元として考えられるのは,
   (1)噴射剤自身
   (2)ロケット
の二つの場合がありうる。たとえば月ロケットなどは、(1)の場合である(灯油を燃やして、燃えかすを噴射している)。
 (1)の場合では、得られるエネルギーは噴射剤の質量mに比例すると考えてよい。例えば1kgでeのエネルギーを得られる燃料ならば、

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の形になる。つまり、eの大きさが、噴射速度を決めてしまうのである。この噴射速度を最適噴射速度と言う。
 以上は相対論を考慮しない場合である。考慮する場合は、

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のような式となる。ここで、mεc2=meである。
 どちらにせよ、運動量保存則とエネルギー保存則から、得られるエネルギーから、噴射速度も、そして最終的に宇宙船の得る速度も決まってしまう。
 上で求められるvより遅い噴射速度のロケットは、エネルギーをどこかで揖していることになる(たいていの場合、熱の形になるだろう。
 逆に、上で求められるvより速い噴射速度のロケットを作ったとしよう。しかし、燃料にはそれだけのエネルギー がないのだから、噴射剤の一部は加速されずに残ってしまうのだろう。つまり、質量が無駄になる事になる。
 噴射速度を速くするためには、eの大きい、つまりエネルギーをたくさん含んだ、質のよい燃料が必要となる。
 もちろん、実際には,燃料のエネルギーを全て噴射剤の運動エネルギーにすることはできないので、上の式で求められる値より噴射速度は小さくなる。
 実際に運用されている固体ロケットの場合、噴射速度は秒速3キロ程度、液体水素−液体酸素ロケットでは秒速4キロ程度である。
 恒星間旅行をしようという場合、こういう噴射速度の遅いロケットはほとんど使えない。質量比を莫大なものにしないと実用速度は得られない。
 当然、核融合燃料、核分裂燃料などを利用する、という方法が考えられる。更にいいのは反物質燃料だが、FCSで使うには、ちょっと未来的すぎるだろう。
 結局、FCSで使用する宇宙船は核分裂、核融合などのエネルギー源を使った物になるであろう。
 核融合燃料などの場合の最適噴射速度を石原藤夫著『銀河旅行」から引用しよう。
化学燃料 4,240 m/sec
核分裂燃料 11,200 km/sec
核融合燃料 26,800 km/sec
 もちろん、一口に核融合、核分裂と言ってもいろいろあるので、この値は一応の目安である。また、実際にロケットを作る、という段になれば、いろいろ無駄が生じるのは間違いなく、この通りの数字は出ないと思った方がよい。
 ところで、ここでもう一つ、エネルギーをロケットに積み込んだ何かが供給する、という場合について述べておく。つまり、ロケットに積み込んだ何らかの燃料のエネルギーを、燃料の燃えかすとは別の噴射剤に供給してやる、という方法である。原子炉などを使って発電し、その電気的な力を使ってイオンを加速する、イオン・ロケットなどはこれにあたる。
 この場合、供給するエネルギーと、噴射剤の質量の比を変えてやれば、噴射速度をいろいろに調整でぎる。じゃあ、こちらの方が有利なのか、というとそうは言えない。この場合は燃料の燃えかすを利用してないので、それが無駄な重量となってしまっているからである。
 イオン・ロケットの場合、噴射速度が非常に速くなるのが利点である。そのかわり、宇宙船自体が重くなるうえ、噴射速度は速くても加速力は非常に小さい(一度に噴射できる噴射剤の量が少ないので)。
 この辺りは旅行の目的(どれだけの距離に、どれだけの時間で行きたいか)により、何が有利かが変わってくる。
 では、話を戻して、核分裂を使った噴射式宇宙船としては、どのような物があるか、述べていく(と言っても、実物はもちろん一つも無いのだが)。
 核分裂を使った宇宙船で有名なのは、原爆宇宙船、〈オリオン号〉である。これは,宇宙船の後ろで小型原爆による核爆発をパルス状に起こさせて推進する、というもので、NASAが有人惑星探査用に、と研究していたものだ。SFファンにとっては、ニーヴン&パーネルの『降伏の儀式」に登場する〈大天使〉の方が有名かもしれない。

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 図を見ても、なんとも荒っぼい方法だが、この原爆爆発型のロケットは、何より、原子炉を積む宇宙船に比べて機構も原理も簡単である(核エネルギーは制御するより、爆発させる方が簡単)。
 これをさらに発展させたものが、核分裂でなく、核融合による爆発を使った〈ダイダロス号〉である(こちらはイギリスの計画、というより研究)。
 核融合燃料のペレットを電子ビームなどで撃って加熱し、核融合を起こさせ、マイクロ水爆にして、宇宙船の後ろから押させる。その爆発を受ける板(上の図の■)に、磁場を使う事になっている。
 ヘリウム3等を原料とした場合、核融合生成物のほとんどが荷電粒子なので、磁場の中に入るとフレミングの左手の法則により力を受け、くるり、とUターンしてくれるのである。この磁場は超電導状態になったコイルで作られる。
 〈ダイダロス号〉の場合、噴射速度は秒速1万キロくらいで、5万トンの核融合燃料を使って光速の12〜13%が最高速度である。〈ダイダロス号〉は無人で、目的地を通りすぎながら観測を行う。つまり停止も、帰還も全然考えていない。なお、最終的に目的地の到達する質量は400トンである。
 以上、“何かを噴射して飛ぶ”タイプの宇宙船について、基本的な原理となるところを述べ、実例(?)を紹介した。
 他に、宇宙船の推進方法としては“宇宙にある物質をとってきて噴射して飛ぶ”ラムジェット推進と、“地球から押してもらう”レーザー推進などがある。
 ラムジェットは、宇宙空間に主に水素の形で分布している星間物質を磁場などで集めて、核融合を起こさせる、というシステムである。 SFファンには、アンダースンの『タウ・ゼロ』に登場するブレーキの壊れたラムジェット〈レオノーラ・クリスチーネ〉が有名。
 ラムジェットは噴射剤を積んでいかなくてもよいので、 非常に効率のいいシステムと言えるが、充分な加速を得るためには、たくさんの星間物質を集めなくてはならず、その方法にはいろんな困難があると考えられる。また、核融合に関しても、重水素でない普通の水素を燃料とする事になるので、それだけ難しくなる。
 地球からレーザーで押してもらうシステムも、宇宙船自体に噴射剤やエネルギー源が無くてよい。当然、その分、地球に負担がかかることになる。レーザーをいかに収束するか、宇宙船側でそれを受ける方法は、などが議論の種になるだろう。
 以上、駆け足の紹介となったが、恒星間飛行のための宇宙船推進原理について述べた。最初の説明でおわかりのように、頼りとするのは運動量保存則とエネルギー保存則だけである。当然であるが、ワープもハイパードライブも、コラプサー・ジャンプも停滞フィールドも、現在既知の物理法則で理解できないものは一切、使えない。
 今回のCONTACT Japan 1では、いかなるシステム、いかなるエネルギー源を持った宇宙船が、いかなる星に向かう事になるのか。
 それを決めるのは、物理法則と------参加者の皆さんである。

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