CONTACT Japan

Proceedings of CONTACT Japan 1 Vol.3
参考資料集 Part 3

DNAとRNA −生命の発生−

(この節はPATIOに山下晶子氏が書かれた記事に加筆・編集したものを掲載しています)

DNA→RNA→夕ンパク質
 この流れはセントラルドグマと呼ばれ、現在、地球上に存在するすべての生命の遺伝情報の基本設計であると知られています。なぜ、このような流れになっているのでしょうか。RNAとDNAは化学物質としてはきわめて似たものですが、そのわずかな違いから、物質としての性格の違いが存在します。両者を比べると、DNAは物質として安定です。例えば、何千年昔の組織からでも抽出可能です。焼死体からも抽出できることから、化学捜査にも使われているなど、最新のDNA利用法は有名です。情報を間違いなく娘細胞や、次世代をつくる生殖細胞に伝える目的を持つ遺伝物質として、このDNAの持つ安定さは貴重なもの です(もっとも、複製時に、しばしばエラーを起こすのはご存じのとおり。)。
 一方、RNAは化学物質として不安定なだけでなく、世の中に満ちているRNAアーゼ(RNA専門の分解酵素)によって、どんどん壊されていきます。あなたの汗にも、唾液にもRNAアーゼは含まれています。空気中をただよう細菌もRNAアーゼを持っています。さらに、体内でも、RNAアーゼは一生懸命RNAを壊しています。なぜなら、余分な蛋白質を作り続けるのは無駄であるし、危険でもあるからです。ホルモンにしろ、受容体にしろ、その他何にしろ、各種タンパク質は適切な量が存在するということが重要なことです。例えば、人間の成長に必要な成長ホルモンでも、過剰にあると末端肥大症などの病的な症状が表れます。つまり、タンパク質を作る信号であるRNAには安定度がありすぎて、タンパク質をつくる指令を出しすぎても困るのです。生物がDNAとRNAを使い分けているのは、以上の様な合理性があってのことと思われています。
 しかし、生物ですから、基本は基本であって、常に例外を持ちます。RNAを遺伝物質として使っているウイルスがいます。このウイルスは逆転写酵素を持っています。逆転写酵素名前の通り、RNAからDNAを作り出します。
また、発生前の卵には特別なRNAがあります。発生が開始するまで、転写も分解もされないように守られた比較的安定なRNAです。発生の最初は大量の物質を、他種類、短期間に作らなくてはいけません。このあらかじめ卵に存在するRNAを使えば、DNA→RNAのステップがないので、すぐに蛋白合成が開始できるという意味では合理的な横構です。
 生命の起源を考えると「最初から、DNA→RNAのように複雑な過程が存在していたのではない。最初はRNAが遺伝物質であって、卵の初期発生のステージのように、RNA→蛋白質でまかなっていた。」という説が有力です。この説に従うと、RNAを遺伝物質として自己複製可能なタンバタ質ができると、そのタンパク質はどんどん数が増してきます。そんな機構を持った「RNA−タンパク質群」がりん脂質の膜に取り囲まれてできたのが、最初の細胞であると考えられています。多分、最初の頃のRNAは卵細胞のRNAのように、多少は安定な保護機構を持っていたのかもしれません。それでも、DNAにくらべると安定性が悪かったでしょう。また、最初の頃は、次々に変化し、組み替えを行うことが、多様性を生み出す元として、意義があったのかもしれません。しかし、ある程度、他種類のタンパク質を生み出せるようになり、それらが複雑に作用し始め、安定性が必要になってくると事情が変わっできます。遺伝物質は安定度の高い方が有利になってきます。また、物質の生産量の調節と言う側面からも、物質生産のシグナルと遺伝物質は、分業体制にした方が効率がいいのは先に述べたとおりです。そんなことで、RNAを遺伝子とする細胞群の中から、DNAを遺伝子とし、RNAを蛋白合成のシグナルとする分業体制細胞が表れてきたのでしょう。そして、RNAのみしか持たない細胞より、有利なので生き残っていったのが、今日のすべての生物の起源であると推測できるのです。
 生命の起源のころから、よりよい形式を求めるという競争があったと考えるのはおもしろいことではありませんか?

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