CONTACT Japan

Proceedings of CONTACT Japan 1 Vol.2
ゲストからのメッセージ2

FCSはコミュニケーションだ   江藤 巌

 FCS(First Contact Simulation)とは、コミュニ ケーションのトレーニングであり、リハーサルであり、ゲームである。私は、そう理解している。
 本来の趣旨からすれば、FCSは地球人類と地球外知性(Extra-Terrestrial Intelligence)との間の、コミュニ ケーションの予行演習である。ただしETIの存在は確認されていないから、我々自身がETIを設定する必要があ る。
 ETIのいる天体の条件や生態系、進化など、科学的に押さえておかねばならない要素はあるものの、ETI自体 の設定の自由度は極めて大きい。言い替えれば、決めておかねばならないことは無数にある。  実際にやってみると、この異星人創造の段階が一番面白く、本来の目的である地球人とのコミュニケーションの部分が付け足しのような気がしてくる。
 金星に金髪美形の宇宙人が住んでいることは科学的に有り得ないとしても、別に遠くの星に住むETIを、地球人そっくりに設定してもかまわないはずである。ところが誰もがFCSの実を上げる? ことを考えてか、地球人型ETIを避けて、ことさら奇想天外な知的生命を設定しようとする。
 コミュニケーション手段が手振りだったり超音波だったり、悪臭を放ったり、ともすれば人類とのコミュニケーション困難を思わせる設定となる。しかし、そもそもETIと簡単にコミュニケーションが取れてしまうようなら、事前のシミュレーションの必要もないわけで、設定がひねくれて難しくても一向にかまわないだろう。
 このETIとのコミュニケーションが、実は地球上の異文化間のコミュニケーションの比喩となっていることは、 CONTACT Japan代表の大迫公成氏がことある毎に語ってきたことである(例えばプログレス1号の巻頭挨拶) 。
 人類の歴史において、異なる文明同士のコンタクトは、必ずしも幸福な結果をもたらしてこなかった。そう言った認識が、FCSの背後の思想である。ヨーロッパ文明との接触で滅ぼされた南アメリカ大陸の文明を例に挙げるまでもなく、二つの文明の遭遇は衝突に繋がり、一方が他方を抹殺したり征服したりする不幸な結果をもたらしてきた。
 ここで何故アメリカで、1980年代になってからFCSが根付いたかを考えると(ETIとの交信の思想自体はずっと前から存在した)、やはりアメリカ人の異文化との遭遇体験を抜きにするわけには行かない。
 世界大戦の勝者アメリカが、共産主義と言う異質の体制を相手にし、また中国、朝鮮、ヴェトナム、日本と、相次いで異質のアジア文明と戦争をする(日本とは経済戦争だが)。やがてアメリカの絶対の自信が揺らぎ、西洋文明、 物質文明、消費社会、理性信仰などへの懐疑が生じ始める。
 そんななかから生まれた、自分達とは全く異質の存在を認め、理解しようとする試みが、FCSだと言えるのかも知れない。ある意味では、アメリカのスシ・バーのようなエスニツク・フードの流行や、「ライジング・サン」や 「ニンジャ・タートル」のような奇妙なジャポニズムとも通底するものがある。
 そう考えてみると、アメリカ以外の国で初めての本格的なFCS大会が、アジアの日本で行なわれることは皮肉でもあり、ユニークな成果を期待したいところでもある。今回の試みはアメリカでも注目しているようで、企画を通じてアメリカとの有益なコミュニケーションも得られるだろう。
 ところで、FCSにはもう一つのコミュニケーションの要素がある。ほかならぬ、参加者同志のコミュニケーションである。
 FCSに初めて参加する方も、経験済みの方もいらっしゃるだろうが、討論には自ずとルールがある。全てを自 分で仕切ろうとするもの、何でも一度は反対してみないと気が済まないもの、ウケを狙って突飛な発言を繰り返すもの、自分の提案に固執するもの、そんな連中は困ったものだが、引込み思案か奥ゆかしいのか、いるだけで何も発言しようとしない人もまた、コミュニケーションには貢献していない。だいいちそれでは、FCSに参加する意義も楽しみもないではわないか。  FCSに参加されるなら、分科会でともかく一度は発言してみることだ。なに、ずれていたってかまわない。ギャグだと思ってもらえるか、議論が白熱してくれば忘れてもらえるものだ。思いがけない質問で、置き去りにしていた問題点に気付くことだってある。
  FCSは、コミュニケーションのトレーニングであり、リハーサルであり、ゲームであると、最初に言った。地球人同志のコミュニケーションがうまく行かなければ、ETIとのコミュニケーションに成功するはずはない。どうか 参加者の方々には、良きコミュニケーションを心掛けて頂きたいものである。

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