CONTACT Japan

Proceedings of CONTACT Japan 1 Vol.2
ゲストからのメッセージ1

オープニングの言葉   谷 甲州

 日本ではじめてFCS (ファーストコンタクトシミュレーション)がおこなわれたのは、91年に金沢で開催された日本SF大会においてだった。このとき私は光栄にも、ゲストとしてシミュレーション開始前に挨拶をした。たしか企画の主催者たる大迫氏から「15分ほどあるから、なんかそれらしい話をするように」との仰せがあって、ファーストコンタクトの可能性についてあれこれしゃべった−−ような気がするのだが、準備をきちんとやってなかったのと時間が押していたせいもあって、話が中途半端でわかりにくいものになってしまった。あとで参加者の話をきいてみると、案の定はしょり過ぎて話がうまく伝わらなかったらしい。わかりにくいのを通りこして、意味不明の話になってしまったようだ。まったく仲人挨拶とかわらんな、あれでは。
 せっかく日本初のFCSの、しかも冒頭でしゃべる機会をもらいながら、これではいかにも悲しい。将来的にFC Sがメジャーになって学校の授業や企業の新入社員研修にとりいれられたとき、歴史的な事件として記録にのこるはずの第一回FCSにおけるオープニングが「谷甲州が、なんかわけのわからん話をした」だったでは申し訳ない。というわけで、記録をもとにそのときの話をここで再録する。ほかに書くネタがないんだろ、という突っこみはせんように。何を話したか、おぼえている人はいないでしょ? ということで、最初にドレイクの式がでてくる。ほかにもいろいろと話をしたが、この式のマクラだと思ってもらって結構です。式自体はポピュラーなものなので、ここでは記号ぬきで式の意味だけを書いておく。つまり「銀河系内に存在する文明社会の数」は、次の七つの変数の積としてあらわされる。「恒星の誕生速度」 × 「惑星系をもつ恒星の比」 × 「惑星系内における生命発生に適した惑星の数」 × 「生命が党生する確率」 × 「知的生命が誕生する確率」 × 「技術文明が発展する確率」 × 「技術文明の寿命」。本当はもう少し厳密な書き方をすべきなのだが、とりあえず式の概念だけはこれでわかるだろう。
 ところでこの式は「銀河系内に存在する技術文明の数」 を算出するためのものだが、当然ながらその数は「技術文明の寿命」と比例している。ほかの数とも比例関係にあるのだが、普通はあまりその点に言及されない。 「技術文明の寿命」にくらべれば、ほかの変数の推定はそれほど困難ではないからだ。それに推定の幅もあまり大きくない。「惑星系内における生命発生に適した惑星の数」は一億とゼロのあいだだ、なんて推定をする奴はあまりいないから。普通は1とするのが妥当なところでしょう。かりに10だったとしても,それほど大勢に影響はない。ところが 「技術文明の寿命」なんかだと,百万年から百年のあいだのどこか、などと急に雲をつかむような話になってくる。だからたいていの解説書には、「文明社会の数」は「技術文明の寿命」に比例する、と結論をだしている(たいていの、と断言できるほど、たくさん読んではいないのだが)。
 さてと。本題はここから。フィクションもはいってくるので、ごまかされんよう注意して読んでください。ドレイクの式はあくまで銀河系全体の数を計算するためのもので、代入する数値も平均的な数値ということになる。しかしこの式は、別のつかい方もできる。たとえば「百万年の寿命をもつ技術文明のグループ」と「十年で寿命がつきる技術文明のグループ」があるとする。もしもふたつのグループにおける「恒星の誕生速度」がおなじなら、グループごとの数は百万年グループの方が圧倒的に多い! それはそうでしょう。もしもほかの条件がおなじなら,現存する百万年グループの絶対数は十年グループより十万倍も多い。よほどの幸運にめぐまれなければ、短命な文明社会とのファーストコンタクトはありえない。約99,999分の一くらいの確率になるのか(ただし、ひとつの惑星上には、ひとつの文明しか存在しない場合)。
 話をもう少し具体的にする。中性子星「竜の卵」の上に誕生したチーラたちと、人類ははたしてファーストコンタクトできるだろうか? 計算結果だけをみれば、どうにも悲観的にならざるをえない。チーラたちの主観時間は人類の百万倍の速度で経過しているから、寿命もまた人類の百万分の一と考えられる(んだろうなあ)。つまり銀河系内における現存するチーラ型技術文明の数は、地球人型技術文明の実に百万分の一でしかない( 「竜の卵」は中性子星で恒星ではないのだが、それはたいした問題ではない。中性子星の数が、主系列の星の百万倍もあったら別だが)。そんなに数のすくないチーラと、いったいどうやってファーストコンタクトができたのか。不思議で仕方がない。
 逆にいうともっともファーストコンタクトが起こりやすいのは、ひたすら寿命のながい種族の文明との遭遇になってしまう。珪素系生物とのファーストコンタクトの方が、 ずっと起こりそうな気がする(高井信氏の「うるさい宇宙船」なんてのがありました。まてよ、あれは単にドンくさいだけの宇宙人か)。
 もっとつきつめて考える。実際には「生きている文明」とのファーストコンタクトよりも、文明が存在した痕跡をみつける可能性の方がずっと多いのではないか。技術文明が滅びたあとでも、遺跡だけは(あるいは化石として)あとにのこるはずだから。だから実質的なファーストコンタクトは、堀晃氏描くところの文明調査員(肩にはトリニティ)による遺跡の発見みたいになるのかもしれない。
 とはいえ「生きている文明」とのファーストコンタクトが現実にあるとすれば、きわめてまっとうな形になりそうな気もする。恒星系の半分にソラリスの海つきの惑星があったとしても、その存在に気づかなければファーストコンタクトは起こらないわけだし。さきほどのドレイクの式にもどって考えると、「文明社会の数」と「技術文明の寿命」を、それぞれ「電波が検出可能な文明の数」と「その文明が検出可能な電波を発信している期間」と書きかえることもある。これは定義の問題というより、「受動的なSETIが可能かどうか」がこの場合は重要になるからだろう。つまり電波を発信していないと、文明の存在は確認できないということになる。どこかに存在するかもしれないソラリスの海をもとめて、眼につく惑星全部で海水浴するわけにもいかんわけです。
 だから地球人にとって発見力可能な文明に限定して考えれば、ファーストコンタクトが発生しやすいのは主系列の恒星や標準的な大気をもつ惑星上の生命なのかもしれない。ということで,ファーストコンタクトシミュレーションは、きわめてまっとうな企画なのであります、と91年の金沢では話をしめくくったのでありました。

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